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第109話 鳥風忍者隊

「さあ諸君! 戦いの時は来た! 今こそ特訓の成果を見せるのだ!」


 木々の奥から迫り来るオークの集団を指差し、俺は三人の冒険者に檄を飛ばした。

 大剣を背負った少年が、空に向かって腕を振り上げた。その腕には銀のブレスレットが装着されている。少年が叫んだ。


「変身!」


 軽鎧の赤毛の少女も、ブレスレットをはめた腕を振り回し、何やら珍妙なポーズを取りながら叫んだ。


「変身!」


 魔術師のローブを着た少女は、胸の前に腕を掲げて恥ずかしそうに小声で叫んだ。


「……変身」


 三人が叫ぶと共に、彼らの身に変化が生じた。

 冒険者の服装だった彼らの姿は、ボディースーツにブーツ、グローブ、ベルト、そしてマントとヘルメットといった、鳥をモチーフにした特殊スーツに変わっていた。

 三人とも同じ型のスーツだが色は別々だ。少年は白、魔術師の少女はピンク、軽鎧の少女は黄を基調とした配色だ。


 うむ、鳥風忍者隊。なかなかカッコいいじゃないか。


 俺と冒険者パーティータイスの剣の三人は、新型特殊スーツのお試しのため、帝都から少し離れた山の中にやって来ていた。

 事の発端はソフィーが俺の新型スーツに目を付け、自分も使ってみたいと言い出したのが始まりだ。言い出したのはソフィーであったが、結局は三人全員がスーツを試すことになり、午前中は基本動作の訓練を、午後は魔物相手に実戦テストとなったのだ。


「さあ、やっておしまい!」


 俺が改めて指示を出すと、三人は人並外れた動きでオークの群れに突っ込んでいく。

 先陣を切った少年が素早い動きで先頭にいたオークに切りかかる。オークは避ける間もなく胴体を真っ二つにされてた。


「オスカー、無駄に力を込め過ぎだ。そんな戦いではすぐに剣が壊れるぞ。もっと力を抜け。大丈夫だ、軽く切っても十分倒せるはずだ」


 赤毛の少女はひょいと木の枝に飛び乗ると、腰の銃を引き抜き周囲のオークに向け素早く引き金を引いていく。近くのオークを倒し終わると銃を腰に戻し、木から木へと軽快に飛び移つりながら次なるオークを探し移動していく。


「ノーラ、距離を開けすぎだ。命中率が悪い。スーツの機動力を信じてもっと敵の前面に出ろ。大丈夫だ。スーツを着ていれば襲われても余裕を持って逃げられる。接近して確実に仕留めろ」


 魔術師の少女はオークの群れに突っ込むと、走りながら前方に魔法の火の玉を放った。

 少女が放った火の玉はオークに当たると大爆発を起こし、数匹のオークを爆風に巻き込み肉片を周囲に撒き散らす。


「ソフィー、走りながら魔法を放つ場合は前方には撃つな。それだと自分の起こした爆発に巻き込まれる。敵の間を駆け抜けながら横か後方に向けて撃つんだ。それと変身の掛け声はもっと大きく! 恥ずかしがっていては立派な変身魔法少女になれんぞ!」


 俺は後方から三人の動きをチェックし、指示を出していく。


 元々この三人の冒険者パーティーはオスカーが前衛、ノーラが遊撃、ソフィーが後衛といったポジションだったのだが、特殊スーツの機動力を手に入れた今は全員が前衛である。

 スーツを使った戦い方にマニュアルなどない。実戦を通じて有効な戦闘方法を自ら見つけ出していく必要があり、今はその試行錯誤の最中だ。


 十数匹からなるオークの集団は、戦闘開始から十分と経たずして壊滅した。通常これだけの規模のオークの群れなら、並みの冒険者であれば二十人以上集めないと討伐は出来ない。驚異的な戦果である。

 事前に偵察機を出して、模擬戦の相手になりそうな魔物を探し出しておいたのだが、実にあっけなく終わってしまった。


「素晴らしい! これならCランク昇格は間違いなし。Bランクも夢じゃないな」


 俺の称賛にオスカーが暗い顔をしている。


「素直に喜べません。確かにこのスーツなら腕力や脚力が上がり素早く動くことも出来ます。オークを倒した時の高揚感というか爽快感はクセになりそうです。……でも、それって自分の力じゃなくて、スーツの力で倒してるだけですよね。スーツを脱いだら僕は只のDランク冒険者でしかない」

「オスカーは難しく考えすぎだよ。例えドラゴンを倒せるAランクの冒険者だって、武器や防具があってこそ戦えるんだ。素手ならオークでさえ倒せるかどうか怪しいものだぞ。戦士は剣で戦い、魔術師は魔法で戦う。そして鳥風忍者隊は特殊スーツで戦う。何か問題があるか?」

「……そう言われると確かにそうですね。スーツと剣は同じ扱いですか。納得しました」


 俺は三人を前にして聞いた。


「それで実戦でのスーツの使い勝手はどう?」


 ノーラがすかさず苦情をいれた。


「暑いよ! 練習の時は問題なかったのに、全力で動いたら急に暑くなってきた。たぶん今スーツの中汗びっしょりだよ。このスーツ、体にぴったりだから汗かくとすごく気持ち悪い」


 ソフィーとオスカーを見ると、彼らも同意見らしく首を縦に振っている。

 俺はノーラのボディースーツに触れてみた。確かに内部はかなりの温度になっている。これはまずい。


「おかしいな。このスーツには体温調節機能が付けてあるのに……。三人とも同じなら故障ではないか。製造の問題か? それとも設計ミスか? ……分かった、後でチェックしておくよ。他にはないか?」


 ソフィーが言い難そうに口を開いた。


「このスーツの力、少し力を弱く出来ませんか? 私まだスーツの操作がうまく出来てなくて、どうしても動きが大きくなりすぎるんです」


 先程オークの群れに突っ込んで行くのを見て感心していたのだが、どうやらスーツのパワーに振り回されていただけのようだ。

 ソフィーは元々後方からの魔法支援の担当である。体を動かしながらの戦闘など初めてだから、慣れるまではそんなものだろう。


「スーツの筋力増幅率の調整は可能だよ。ケルビムに頼めば調整してくれるから、使いながら自分の使いやすい強度を探すといい。他に何かないか?」

「タツヤさん。このスーツの色、すごく目立つと思うんですけど、もっと地味に出来ませんか?」


 オスカーの言葉に俺は即答した。


「却下だ。このスーツを着れば君たちはヒーローなのだ。地味なヒーローなど俺は認めん! ロマンが無いじゃないか!」


 オスカーががっくりと肩を落とした。


 その後も三人から聞き取りを続け、改善点をまとめていく。


「こんなものか。もう二三回、改修とテストを繰り返せば完成しそうだな。ソフィー、どうだ? このスーツは使えそうか?」

「問題点ばかり言いましたけど、これは使えます。元々は戦闘で形勢が不利になった時に、素早く逃げ出すことを想定してましたが、これだけ機敏に動けるなら、こちらから積極的に打って出る事もできます。攻めるにしても退くにしても、このスーツは使えます。ぜひ欲しいです」

「オスカーはどう? 前の騎士風スーツは防御力とパワー重視で、こっちの鳥風スーツは機動力重視だ。オスカーとしてはどっちが自分に合ってると思う?」

「こっちのスーツの方がいいですね。正直言ってゴブリンやコボルトを相手にするのに、騎士風スーツの力は過剰です。その点こっちは力の加減がし易いですし、動きも俊敏で装着時の一体感があります」

「ノーラは……、その顔を見れば聞くまでもないか」


 俺たちの話をニコニコと聞いていたノーラは、俺の顔を見て大きく頷いた。

 元々三人の中では一番身軽で機敏なノーラは、スーツの性能をうまく引き出せているようだ。


「これ着てると木にひと蹴りで飛び乗れるし、木から木へも飛び移れる。すごく気持ちがいいんだよ」


 お前はお猿さんかい!

 でもその気持ちは確かに分かる。肉体の限界を超えて体を動かせるというのは、実に爽快感があるのだ。


 三人がこのスーツを着れば、帝都の周辺で彼らに倒せない魔物などいなくなるはずだ。そうなれば彼らはもっと強い魔物を求めて、帝都から他へ活動拠点を移すかもしれない。

 彼らは俺のお気に入りパーティーだから帝都に勧誘したのに、早々に他に移られるとちょっと悲しい。

 まあ、スーツが完成していないうちからそんな事を気にしても仕方がないか。


「じゃあ、今日はここまでにして帰ろうか。問題点の改修が終わったらスーツは進呈するから、次回もしっかりテストを頼むよ」


 俺の言葉にオスカーが反応した。


「タツヤさん、本当にいいんですか? どう考えてもいつもいろんな物を貰い過ぎてる気がします。テストの対価には釣り合ってませんよ」


 この特殊スーツは量産して、直属の秘密諜報組織シャドウの諜報員に支給する予定である。

 そのため量産の前に可能な限り問題点を洗い出し、しっかり潰しておかないといけない。

 秘密を守れて信頼できるテスト要員は貴重であり、その報酬は適正だと思っている。


「俺は秘密が多いから、こういう依頼は他の者に出せないんだよ。君たちなら口外していけない事は、特に念押ししなくても漏らさないから安心なんだ。短期間だけど同じパーティーだったから気心も知れている。報酬はそういった点を考慮しているんだ。気にする必要はないよ」

「分かりました。そういう事なら喜んで受け取ります。……そういえば、このスーツにはオートモードは付いて無いんですか?」


 装着者の意思を無視して自動戦闘を行うオートモードは諸刃の剣である。圧倒的な力を引き出す代償として、使用後は身動きもままならず身体の痛みにのたうち回る事になる。

 これは最後の手段として使うべき機能なのだ。


「機能としては付いてるが、今はロックして使えなくしてある」

「使えと言われても拒否しますが、逆に使えないと言われると、それはそれで不安になりますね。なぜロックしちゃったんですか?」

「スーツの性能がアップしたことで、オートモードの反動で寝込む日数が延びちゃったんだよ。一日か二日は寝込むことになる。もしノーラとソフィーが二人ともオートモードを使ったら、身動きできずベッドに横たわる二人の面倒を、オスカーが見ないといけないんだぞ。食事の世話くらいなら問題ないが、着替やトイレはどうする? 例え病人の世話と割り切っても、後々気まずいぞ。俺なら絶対に御免だな。だからテスト中は間違って使わないよう、ロックしておいたんだ」


 近くで俺たちの会話を聞いていたノーラとソフィーが身震いしている。


「それはあたしも御免かな。でもそれってあたしとソフィーが同時に使わなければいいって事でしょ。だったらソフィーだけロックしてあたしは解除でいいよ」

「ロックするかしないかは君たちで決めてくれ。さあ、そろそろ帰ろうか」


 俺たちは荷物をまとめて帰路に就いた。

 やはり皇帝なんかやってるより、こうして物作りに勤しんでいる方がずっと楽しい。


 今頃宰相ブラッド率いる家臣団は、セントース聖王国との紛争の後始末に駆けずり回っているはずだ。

 一つの国を帝国の傘下に組み込むとなれば、両国の間で調整すべき事柄は山とある。

 俺も何かしたい気持ちはあるのだが、神の使徒を名乗った俺が下手に何かすると、事態が紛糾するということで何もさせてもらえないのだ。


 天空の島エデンはセントース聖王国の上空に留めたままである。

 セントース聖王国の属国化に反対し、武力行使を試みる勢力が出現しないとも限らないためだ。

 聖王国内で何か不穏な動きがあれば、即座に空中フリゲート艦サラマンダーや空挺母艦アルバトロス、そして大天使アークエンジェルが出動し、敵対勢力を排除することになっている。


 俺を刺し殺したと思い込み、情緒不安定になってしまった勇者エミーは、エデンの屋敷で保護している。彼女の心のケアは、アルビナ王姉アレクシアとアルビナ王国宰相の娘クリスティンに任せてある。

 本当は俺が勇者エミーの面倒を見るつもりだったのだが、勇者エミーは俺の顔を見ると短剣で刺した時のことを思い出してしまうらしく、動揺を隠せなくなる。それを見たアレクシアから、落ち着くまでは俺は顔を見せない方がいいと言われてしまったのだ。


 そんなこんなで、宰相ブラッドからもアレクシアからも邪魔者扱いされた俺は、毎日を帝都バベルのクドー魔道具店でテレーゼと一緒に過ごしている。

 俺が店舗裏の工房で魔道具製造に精を出し、出来た商品を店舗でテレーゼが売る。

 そんなありふれた普通の生活がとても楽しく感じられる。

 いつまでこんな気楽な生活を続けられるかは分からないが、まだしばらくは大丈夫だろう。




 ……などという幸せな想いは、店に帰り着いたとたんに吹き飛んでしまうのであるが、今の俺にはそれを知る由もなかった。

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