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第108話 聖王国の処遇

 セントース聖王国はエデン帝国の脅威を排除するため、帝国皇帝である俺を復活した魔王と称し、勇者を使って討伐しようと企んでいた。


 勇者に殺されるなどという事態は絶対に回避しなければばらない。俺は帝国が脅威でないとアピールせんがため、自ら聖王国に赴き友好関係の構築に努めた。

 まあ実際に聖王国へ赴いたのは影武者アンドロイドであって、本物の俺は天空の島でアンドロイドを操作していただけなのだが、それは些細な話である。


 だが俺は聖王国の企みを未然に防ぐ事に失敗し、暗殺者の手にかかり殺されてしまった。

 まあ実際に殺されたのは影武者アンドロイドであって、本物の俺は天空の島で冷汗をかいた程度なのだが、それも些細な話である。


 俺は報復として天使を降臨させ、民衆の前で『教会の過ちを正せ』と言わしめた。

 まあ実際に降臨したのは巨大ロボとメイドロイドであって天使などではない。完全なる詐欺行為ではあるのだが、これも些細な話である。


 俺は聖都の群衆を味方につけ、シャーラ大聖堂の周囲を包囲させた。そのうえで大聖堂に乗り込み、教皇を始めとする聖王国の首脳陣と話し合いを行った。

 話し合いは長時間に及び、俺が戻って来ないと騒ぎ出した群衆が大聖堂に雪崩れ込まんとしたのだが、俺が颯爽と駆け付け群衆を解散させた。まあこれもどうでもいいような些細な話である。


「一体どこが些細なのですか!? どこがどうでもいい話ですか!? セントース聖王国を滅亡の淵に立たせておいて、何を言っているのですか!!」


 エデン帝国宰相のブラッドが、たいそうおかんむりだ。



 俺は教皇との話し合いの後、セントース聖王国への今後の対応を決めるため、外務大臣ノルベルトを連れてエデン帝国の帝都バベルへと戻ってきていた。

 聖都セレスから帝都バベルまでは、馬車で数日かかるような距離だが、流星号を使えば数十分しか掛らない。通信機越しに話すより直接顔を合わせる方が会議もはかどる。

 聖都には俺の影武者であるブラック2が残っているから、何か起きても即応できる。


 バベル城の会議室には、宰相ブラッド、財務大臣リオ、軍務大臣バジルを集めておいた。

 彼らも聖都で起こった一連の出来事は承知している。俺の影武者アンドロイドであるブラック1とブラック2から得た映像記録を、ケルビムがダイジェスト版に編集して彼らに見せておいたからだ。


「俺だって最善は尽くしたんだよ。とりあえず犠牲者はブラック1のみで、帝国の親善使節団も聖王国の国民も、誰一人傷ついた者はいない。上出来だと思うけど」

「確かにそこは陛下のおっしゃる通り称賛すべき点です。ですが神の使徒が現れ天からは天使が舞い降りた。セントース聖王国の聖都セレスは今大混乱ですよ。ルーン教の信者は聖王国のみならず大陸中にいるのです。この話が大陸全土に広まるのも時間の問題です。正しく伝わればまだしも、尾ひれがついてエデン帝国皇帝は実は神だって話になっても不思議はありませんよ」

「いやいや、群衆を大勢集めて目撃させたんだ。誇張されることは無いだろ」

「こういった話は口づてに伝わるものです。伝言ゲームだって十人も経由すれば、元の話など跡形も無くなってますよ」

「……ちょっと、やりすぎた?」

「だから反則だと申し上げたはずです。今回の大天使作戦は最悪の事態を想定した対策だったのに、陛下は最悪へ向かって一直線でしたからね。神の名を騙るのは目先の事態収拾には効果的ですが、長期的には面倒な問題が残ります。出来れば使わずに済ませたかったのに」


 宗教国家を御するなど実に簡単な事だと思っていたけど、これはやっかいなことになってしまったようだ。


「やってしまった事は仕方がない。それでだ、今後セントース聖王国をどう扱うかで悩んでいるのだが……」


 親善を図るために聖王国を訪れたはずなのに、終わってみれば帝国が聖王国の首根っこを押さえ付ける格好になっているのだ。この後この押さえ付けている手をどうすればいいのか分からない。

 以前の俺なら途方に暮れてしまうところだが、今の俺には優秀な閣僚が何人もいるのだ。まずは彼らの意見を聞いてみよう。


「バジル。軍務大臣としての君の意見を聞きたい」


 軍部大臣バジル。彼はホルス王国騎士団の元副団長だった男で、帝国宰相であるブラッドが直接騎士団を訪れて引き抜いてきた人物だ。

 勇猛果敢と言えば聞こえはいいが、猪突猛進しか知らぬ突撃馬鹿の多い騎士団の中で、バジルは常に一歩下がって戦場を俯瞰し、騎士たちに的確な指示を出す頭脳派騎士である。

 ブラッドから騎士を文官に引き抜くと聞いた時は、それは無理だろうと思っていたが、ブラッドの手腕のおかげか、すんなり帝国への移籍話はまとまった。どうやらブラッドとバジルは以前から面識があったようだ。


「そうですね。やはりエデン帝国の属国にしてしまうのが一番かと。帝国は都市国家であり国土など無きに等しく、どうしても外敵に対する守りが脆弱になります。帝国はセントース聖王国、ホルス王国、アルビナ王国の三国が交わる位置にあるため、外敵の侵入口となり得るのはセントース聖王国方面だけです。国土防衛の観点からは、セントース聖王国をエデン帝国の属国とし組み込み外敵の侵入口を塞ぎつつ、四国で一つの軍事共同体を作るべきかと思います」


 これは俺も考えていたことだ。この四国で軍事的および経済的な共同体を作れば、全ての国で今以上の発展が望める。領土が小さく資源もないエデン帝国としては、貿易で利益を出していかないと国としての存続は望めない。


「リオはどう思う?」


 財務大臣のリオはホルス王国の元文官である。元々リオは小さな商家で経理の仕事をしていたのだが、とある文官にその才を見い出され城の経理職に登用された。ホルス王国の文官職はほぼ貴族で占められており、平民の文官は稀有な存在であった。

 リオを見出した文官は、純粋に優秀な経理を確保する目的で彼を登用したのだが、職場の同僚たちはリオの才能を妬み、また平民という身分を蔑み、彼に雑用仕事しか与えなかった。

 宰相ブラッドは以前から彼の優秀さを知っており、そんな彼に対しエデン帝国への移籍を打診したのだ。ホルス王国に見切りをつけていたリオは、即座にこれを承諾した。

 淡白な性格で人との会話でも必要以上に口を開かない男であるが、その分、発言には重みがある。


「賠償金をだけ取って後は放置でいいと思う。セントース聖王国は国の内外に多数教会を建て布教に努めていて、これらの運営経費が国の財政を圧迫している。セントースを属国とすれば、続々と財政支援を要求され、得られる利益より不利益の方が大きくなる。下手に手を差し伸べてはいけない国だ」


 確かに俺が差し出した金貨十万枚の寄付金に飛びついてたから、財政はかなり貧窮していたのだろう。属国とすれば更なる支援が必要となろう。


「ノルベルトはどうだ?」


 外務大臣のノルベルトもブラッドの連れて来た男で、その能力の高さは折り紙付きだ。陽気で人当たりのいい好人物で、どんな相手であろうと心を開かせる交渉事には欠かせない人材だ。

 だが俺は知っている。この男けっこう腹黒の野心家だ。以前俺に世界征服を唆したこともある。冗談めかしてはいたが、あれは本気の目だった。


「そうですね。とりあえず属国化案に賛成です。それで落ち着いた頃に属国三国をエデン帝国に併合し、エデン大帝国を作り上げましょう」


 来たよ来たよ。この男は真面目にこういう事を言うんだよ。


「ノルベルトは属国化に賛成か。言っておくが併合の話は却下だ。帝国の本体は一つの都市でしかなく、その帝都バベルもまだ城壁や区画工事の真っ最中で、都市としては未完成だ。今はまだ帝国に三国を一つにまとめる力はない。かえって混乱を招くだけだ」

「今はまだ……ですか。分かりました。時期を待ちましょう」


 まだ諦めてないのか。そんなに期待しても併合なんてしないよ。めんどくさい。


「では最後に宰相の意見を聞こう。ブラッドならセントース聖王国をどうする?」

「属国化しましょう」

「理由は?」

「陛下が神の使徒を名乗ったからですよ。そうでなければ賠償金を取って後は放置します。ですが陛下は神の使徒を名乗ってしまいました。セントース聖王国は今後何かにつけ陛下のところにやって来るはずです。財政支援の請願であったり、軍事支援の請願であったり、面倒事の相談だったり。何しろ陛下は神の遣わした使徒なのですから、当然困っている者に力を貸してくれるはず。そう言って助けを求めてきたら、陛下は彼らを突き放せますか?」

「……たぶん無理だ。出来る範囲で助けると思う」

「だからです。だからこそ聖王国には従属を要求し、彼らに無節操な請願をさせないよう、目を配る必要があるのです。今後宗教問題で悩まされたくなければ、さっさと属国化するべきです」


 何と言うことだ。確かにまずい状況だ。これが神の使徒を詐称した代償なのか。

 俺はブラッドに尋ねた。


「今から『俺は電脳神ケルビムの使徒だ』って宣言したら、状況を変えられないか?」

「絶対に止めてください! 今からそんな事を言えば聖都で暴動が起きますよ。いや暴動どころじゃない。聖王国中の聖騎士や国民が神を騙る神敵を倒せと帝都バベルに押し寄せてきますよ。状況が悪化するだけですから、口が裂けてもそんな事は言わないで下さいね。絶対ですよ!」


 本気で怒られた。宗教絡みの話題に冗談は禁物だよね。


「皆の意見は参考になった。腹は決まったよ。セントース聖王国を属国として帝国の傘下に組み込む。リオの言う通り、聖王国を帝国に組み込めば短期的に不利益を被ることになるが、それを考慮しても得られるものの方が多いと判断した」


 俺はノルベルトを見た。


「外務大臣ノルベルト。明日教皇に会い、セントース聖王国をエデン帝国の傘下に組み込む旨を通達しこれを受諾させろ。もし帝国の傘下に入るのを拒むようなら、神の使徒の命令だと伝えろ。それさえも拒否するようなら、エデン帝国皇帝暗殺未遂の責を問い、聖王国に軍事進攻すると伝えろ」

「かしこまりました」


 次に軍務大臣のバジルだ。


「バジル。俺の重騎士隊を六個小隊預ける。彼らを連れて聖都に赴きノルベルトと親善使節団の護衛に就け。神の使徒が現れたといっても、国民の全てがルーン教徒という訳ではなかろう。属国化されるとなれば、帝国に戦いを挑む者が現れても不思議じゃない」

「了解しました」


 早く帝都バベルにも騎士団を作らないといけないな。バジルの裁量で動かせる戦力がないと、軍務大臣としてやり辛いだろう。


「ブラッドとリオは、帝都からノルベルトとバジルのサポートだ。俺は……というか俺の影武者ブラック2は、早々に聖都から引き上げさせる。これ以上神の使徒として聖都に留まるのはまずい気がする。今後の聖王国との交渉はノルベルトに一任する。頼んだぞ」

「お任せ下さい。腕が鳴ります」


 とりあえずはそんなところか。


「そうだ、ノルベルト。教皇に勇者はしばらく帝国が預かると伝えておいてくれ」


 精神を操られ俺を刺してしまった勇者エミーは、心に深い傷を負ってしまった。

 天空の島に連れて行き、本物の俺の口から『刺したのはアンドロイドの影武者だ』と説明した結果、何とか状況は理解してくれたが、感情面の不安定さはまだ消えていない。

 こういった心の問題では俺は無力だ。どう対処していいか分からないのだ。とりあえず俺の屋敷でゆったりと過ごさせる事にした。屋敷は静かで風景も抜群だ。しばらくのんびり過ごせば心の平穏を取り戻すだろう。……たぶん。


 元の世界に戻る方法が無い事は本人には伝えていない。正直に伝えるかどうかはまだ決めかねているが、少なくとも今の不安定な状態では伝えられない。


「それとこれを教皇に返しておいてくれ」


 俺はノルベルトに一本の短剣を渡した。暗殺者スパーノが俺の影武者ブラック1の首を刎ねた聖短剣だ。

 セントース聖王国がシャーラ大聖堂の地下で、聖典と共に大切に保管してきた前勇者の聖武具の一つである。聖武具は他に聖剣と聖鎧があり、魔王を倒すのに必要な装備ということだ。


「返してしまってよろしいのですか?」

「もし本物の魔王が復活したら必要になるものだろ。俺が持ってても仕方がない」

「分かりました。お預かりします」


 とりあえずはこんなところか。


「すまんが、ここから先は皆に任す。どうも俺が前に出ると話が大きくなる気がするから、しばらくは裏方に専念するよ」


 ブラッドが口を開けて俺を見ている。


「やっと……、やっとご自覚されたのですね。そうです。そうなんですよ。陛下が問題を大きくしているのですよ。ああ、やっと分かって下さった……」


 ねえ、俺ってブラッドから見てそんな困ったちゃんだったの? いや、そんなはずないよね?

 俺は他の面々に目を向けた。三大臣たちが揃ってウンウンと頷いている。

 えええ? 皆同意見なの? 俺ってそんな問題児なの?


 くそっ、もういい。お前らがそんなに俺を疎ましく思っているのなら、こちらにも考えがある。

 グレてやる。もう皇帝の仕事なんて放り出して好きに生きてやる!!

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