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第102話 悲しき現実

 ガルヴァーニ教皇との本会談を終え、俺は浮かれていた。


 聖都の教会への寄付や、エデン帝国が聖都で行っている親善活動の宣伝は順調に進んでいる。

 品行方正、清廉潔白な姿を見せておけば、セントース聖王国とってエデン帝国が敵ではないと分かってくれるだろう。

 教皇の前で『魔王は敵だ!』と宣言し、『一緒に魔王を倒しましょう』と呼び掛けておいたのだ。後から『お前が魔王だ!』とか言われて、冤罪を着せられる事もないはずだ。


「さてさて、教皇との話はうまくまとまりそうだし、後は両国の絆を深めればいいだけだな。具体的にはどうするかな? どこかに聖堂でも建てて寄進するかな」


 まだ全てが解決した訳ではないが、面倒事になる前にうまく対処出来た。

 気を良くしている俺に、秘書役として会談に同席したアリスが尋ねた。


「マスターは先程の会談で聖王国との問題は解消したとお考えなのですか?」

「ああ。セントース聖王国との友好のために、多大なる寄付やら協力体制の約束をしてきたんだ。あれだけやったんだから帝国が敵ではないと分かったはずだ。敵でないとなれば、聖王国も魔王なんて口実を持ち出す必要がなくなる。あれ? そうなると偽魔王を用意する必要もないのか。魔王がいないとなると召喚した勇者はどうするんだろう? 何にしても勇者とは接触しておく必要があるな」


 アリスは俺の答えに満足しなかったようだ。

 いや、質問の形を取っているが、俺に何か言いたいことがあるのだろう。


「マスターはセントース聖王国が帝国との戦争を避けつつ帝国の脅威を排除するため、マスターに魔王の濡れ衣を着せて倒そうとしていた。そうお考えですよね。魔王云々は口実だと」

「ああ」

「私には聖王国側がマスターを本物の魔王と認識しているように見えたのですが。彼らは帝国の脅威を恐れているのではなく、魔王であるマスター本人を恐れていると思います」

「へ?」


 何を言っている? 俺は魔王なんかじゃないよ。


「先程の会談の間、教皇や枢機卿たちの心拍や体温や発汗の様子をモニターしていたのですが、それらの計測値からは彼らのマスターに対する恐怖心が並大抵でない事が読み取れます」

「確かに彼ら少し変だったけど、それって俺に魔王の冤罪を着せようとしてたのがばれると思って動揺したんだろ」

「この件に関して、マスターがなぜそこまで楽観的な考えをなさるのか不思議でなりません」


 楽観的って何だよ。会談は確かにぎこちない雰囲気ではあったが、敵意は感じられなかった…………と思う。

 でもそんな物言いをされると、なんだか不安になるじゃないか。


 俺はケルビムを呼び出した。


『マスター、お呼びですか?』

「ケルビム。今の俺たちの会話は聞いてたよな。お前の意見を聞かせてくれないか」

『アリスの意見に同意します。セントース聖王国がマスターを本物の魔王と認識している確率は九十二パーセント』

「えええ! それ、冗談だよね!?」

『マスターは友好的な態度を示し続ければ、聖王国が帝国に対する認識を改め敵視しなくなると思っていたのでしょうが、聖王国にすれば魔王が直々に脅しをかけにやって来たと、戦々恐々としていると思います。相手が魔王となれば、セントース聖王国が帝国と友好関係を築くなどあり得ません』

「待て待て待て! 魔王なんてこじつけだと思ってたから深く考えてなかったけど、どこをどう見たら俺が魔王に見えるんだ? 俺は魔力がたくさんあるだけで、何の取り柄もない男だぞ」

『何の取り柄もないだなんて……、的確な自己評価ですね。まあ、それはともかく、マスターはエデンを空に浮かせられる程の底なしの魔力持ちです。尋常でない魔力も魔王の資質の一つなのでは?』


 俺はしばらく茫然としていた。

 魔王認定など俺を排除するための口実だと思えばこそ、それを阻止すべく動いていたのだ。

 彼らが本気で俺を魔王だと思っているのなら、俺のやってきたことは全て無意味である。


「確か聖王国のペッキア子爵と他二名が俺を魔王だと判定したって話だよな。そいつらを捕まえて俺を魔王と判断した理由を聞き出そう」

『マスター、少しお待ちください。先程会談を行った部屋で、教皇と枢機卿たちが魔王の対応策を協議しているのですが、どうやら…………』


 何か言いかけていたケルビムが、不意に沈黙した。


「おい、どうした?」

『……これは不味いですね。彼らはマスターに暗殺者を差し向けるつもりです』

「なんでそんな事が分かるんだ?」

『アリスには行く先々で盗聴器を仕掛けて回るよう指示を出してあります。もちろん先程の会談部屋のテーブル裏にも貼り付けてあります』


 俺は驚いてアリスを見た。俺の視線を受けアリスが俺に向かってVサインを出した。白い仮面の奥でドヤ顔をしているのが、手に取るように分かる。


『おかげでいい情報が手に入りました。彼らの交わしていた会話を再生しましょうか』


 ケルビムが盗聴器の収集した教皇と枢機卿たちの会話を再生した。


 ガルヴァーニ教皇と枢機卿たちが俺の対処を巡り激論を交わしている。

 確かに彼らの会話は、俺が本物の魔王との前提で話を進めているようだ。

 議論は紛糾し、ガルヴァーニ教皇が俺に暗殺者を差し向けるよう提案した。

 枢機卿の一人は反対に回ったが、もう一人の枢機卿に押し切られてしまった。


 彼らの交わす会話の内容は俺にとって衝撃的な内容だった。

 俺が聖王国にやって来たのは、まぎれもなく親善目的だ。帝国は敵ではないと伝えるためだ。

 だが聖王国は俺が聖王国を恫喝に来たと思っている。

 そして今、俺に暗殺者を差し向けようとしている。


 初めからお互いの認識が噛み合っていなかったのだ。

 頑張って紛争回避に奔走したつもりだが、どうやら俺は明後日の方向に走っていたようだ。

 無気力感が俺を襲う。泣きたくなってきた。


 黙り込んでしまった俺を見て、アリスがそっと肩に手を置き優しく声を掛ける。


「マスターはこれからどうされるおつもりですか?」

「ああ、そうだな……。正直言えばもうセントース聖王国からは手を引いてしまいたい気分だ。けどそういう訳にもいかん。彼らの本心は分かったが、俺の目的は変わらない。聖王国に対し敵意を持っていないこと、俺が魔王でないことを切々と説いていくだけだ」


 俺はしばし思案に暮れた。暗殺者が来るとなれば生半可な対応は取れない。

 俺はアレクシアと連絡を取った。


「アレクシア。聞こえるか?」

『アレクシアです。皇帝陛下。いかがしましたか?』

「クリスティンは一緒か?」

『はい。ここにいます』

「状況が変わった。俺の頼んだ教会巡りは即刻中止だ。大至急宿舎まで戻ってきてくれ。事情は後で説明する」

『畏まりました。直ちに戻ります』


 さすがアレクシアだ。俺の声から緊急性を読み取り、余計な質問は一切せずに了承の返事を返す。

 彼女たちはアルビナ王国の代表であって、エデン帝国の者ではない。本来危険は及ばないはずだが、暗殺者にそんな理屈が通じるとは思えない。


「暗殺者か。スパーノって言ったな。どんな奴か情報を集めないといけないな。シャドウの諜報員に調べさせるか」


 最近、秘密諜報組織シャドウの諜報員を働かせづめのような気がする。優秀なものだから、どんどん調査指示を出してしまっているのだが、あまり酷使するとブラック組織に認定されてしまいそうだ。

 特に現地に潜入する諜報員はシャドウ1からシャドウ5の五人しかおらず貴重な存在だ。増員を急いではいるが、即戦力として使える諜報員などホイホイと集められるはずもなく、労働環境の改善は難しい状態だ。


「マスターは、まだ聖都に留まるおつもりですか?」


 俺はアリスの問いに答える。


「ああ、俺は予定の期日まで聖都にいるつもりだ。アレクシアとクリスティンは、アルビナ王国から借りてる護衛の騎士団と一緒に、一足先にアルビナ王国に帰国させる。他国の王族を危険に晒す訳にはいかんからな」


 暗殺者が俺の命を狙うというのなら、尚更俺は聖都から離れられない。

 もし俺が帝都バベルに戻ってしまえば、暗殺者も俺を追って帝都にやって来るかも知れない。そうなるといつどこで襲われるか分からない。それは面倒だ。

 俺が聖都に留まっていれば、暗殺者は向こうからやってくる。襲ってきたところを捕まえるのが一番楽でいい。


「危険ではありませんか?」

「大丈夫だ。俺には頼りになる護衛が付いているからな」


 俺は部屋の入口で警備に立っている白い鎧兜の騎士を見た。

 騎士の名はホワイト1。元はブルー1と呼ばれていたバトルロイドである。


 このバトルロイド、過去に度々俺の命令を聞かず勝手な行動を取った問題児だ。

 ある時は俺の撤退命令を無視し、街で死にそうになっていた赤ん坊を救出してきた。

 またある時は、大破した仲間のバトルロイドを破棄しろという俺の決定に異を唱え、結果として仲間を守り切った。


 アンドロイドの反乱という最悪の事態を恐れ、何度もブルー1の人工知能ユニットのチェックを繰り返したが、結局異常は見つからなかった。

 本来、エデンの全ての人工知能は俺の命令に逆らえないはずだ。なぜブルー1が俺の命令を無視出来るのかは謎のままだが、そのブルー1の行動が常に最良の結果を出している事は否定しようのない事実である。

 とはいえ俺の命令を聞かないブルー1を、いつまでもブルー隊の隊長に据えておく訳にもいかない。悩んだ末、ブルー1はブルー隊から外し俺の護衛をさせる事にした。


 護衛任務に就けるにあたって、ブルー1の重騎士風の青い甲冑は、白を基調とした人間らしさを感じさせるスリムな甲冑に付け替えてある。防御力より俊敏さを重視したのだ。


 ブルー1改めホワイト1は、今後全力で俺を守ってくれるはずだ。たとえ俺の命令を聞かなくとも、最良の結果をもたらしてくれるなら問題はない。


「ホワイト1。そのうちスパーノという暗殺者が俺を殺しにやって来る。可能であれば生かして捕えろ。聖王国との今後の交渉に必要だ」

「了解しました」


 俺の肩に手を置いたままのアリスが遠慮がちに言った。


「マスター、もうエデンに戻られてはいかがですか。これ以上セントース聖王国のことでマスターが心を痛める必要などありません」

「とても魅惑的な提案だな。でも却下だ。エデンに帰っても、聖王国が俺を魔王と思っているのなら、そのうち勇者か暗殺者がやって来る。問題を先送りするだけだ」

「勇者ならともかく、暗殺者を差し向けるというのであれば、エデン帝国に対する宣戦布告と見なしてよろしいかと。エデンの戦力を投入すれば、聖王国など簡単に落とせます」

「却下だ。戦争はもうたくさんだ。だから戦争にならないように聖王国と話を付けないといけないんだよ」


 落ち込んだ俺の心を心配しているのか、今日のアリスは妙に俺に優しい。

 優しいのはいいのだが、だからと言って主人に戦争を勧めるのはどうかと思うぞ。


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