観覧車
百貨店に隣接するその遊園地には大きく三つの遊戯施設がある。
回転木馬と珈琲杯と観覧車である。
そして何と勿体無い話であるが平衡感覚や動体視力が人並み以下である所為か乗り物酔いし易い体質であるので毎回観覧車にしか乗らないことにしている。
その点に関してはベクトルと速さと回転数と軌跡が違うだけでどれも円運動を体感で楽しむことには変わりなかろうと割り切っている。
観覧車の外観は灰緑の鋼鉄製の骨組みに焼き菓子の円形缶を立てたような形をした色とりどりの乗り籠が二十四吊り下げられている。
ここから車で一時間弱の場所に大手映画会社が経営する興奮と感動を主題とした新しい娯楽施設が出来たこともあり何時来てもここは然程並ばずとも利用出来る。
自分が向こうに赴かないのは作り物染みた嘘臭さを感じるからだ。
さて順番が来たので今度は中から見ていこう。
頭に絞り染めの手巾を三角にして巻いている職員に手を振りその後視線を反対側の窓へ。
吊り籠は次第に地面から遠ざかって行く。
よく観覧車が時計の文字盤で譬えると三時や九時の位置にあると早く動き十二時や六時の位置では遅くなると言う話を聞くがこれは単位時間当たりに上下に移動する距離が三時や九時では長く十二時や六時では短いからであってあくまでも吊り籠の結節点は円周上を一定速度で移動している。
二分程で十二時に該当する地上三十メートル地点に到着。
こうやって山の手の台地であるここから俯瞰していると年々海岸沿いに高層建造物が林立するようになり徐々に内陸側にもその傾向に染まりつつあることがよく理解できる。
これだけ地形が変われば風の流れや雲行きに変化が起きても不思議ではない。
ここで気分転換に向かいの席に座り反対側の景色を眺めようと思って立ち上がりかけた矢先ガコンという不吉な金属音がして急停止してしまう。
中腰の状態で支えを失い咄嗟に扉に手を突くと何故か錠が下りておらずそのまま空中へ投げ出される。
加速しながら自由落下していく中で一度ぐらい回転木馬に乗っておけば良かったかなと紅白の棒付き飴のような天幕を見ながら唯ぼんやりと考える。
ここで目が覚めた。
部品を集めれば機械は出来上がるが体組織を結合しても人間を拵えることは不可能だ。
この違いは大きい。
いくら木を見続けても森は分からない。




