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囮の羊

他人から職業を訊かれると決まっていつも地方公務員と答えている。

嘘を吐いている訳ではない。

ただ仕事内容が一般にこの答えから連想されるそれとは全然違う。

ではどんな仕事か。

簡単に言えば市内に出て犯罪行為をして警察に逮捕されるだけ。

いつどこでどんな犯罪をしてどうやって捕まるかは事前に警察と綿密に打ち合わせてあり市民には危害が及ばないよう細心の注意を払っている。

警察や法曹界では擬似虚構犯罪ということになっているらしい。

あまりにも平和が続くことでその有り難味が薄れ突拍子も無い犯罪が起こるのを抑制するのがこの仕事の役割。

それにしてもこの仕事は罪を犯して捕まえられているにも拘らず前科にならないので正直な話任務遂行中は内心愉快で仕方ない。

ただこの仕事で面白くないのは後日実際に事に及んでみた時に気付いたことや考えたことを詳細な項目がずらりと並ぶ報告書の雛型に沿って纏めた上で提出しなければならないことだ。

文体もお役所文書特有の勿体付けた硬い言い回しが要求される。

この頁が終わったらお湯を一沸かしして珈琲を飲もう。

そう頭の片隅で考えながらまだ半分以上残っている紙の束を見て溜め息を吐く。

読者諸君。

もし片手の中指にペン胼胝のある犯罪者を見かけたら我々の仲間だと思い給え。

ここで目が覚めた。

謹厳も放縦も扱い辛さには変わりはない。

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