繭玉
放課後の教室。
窓際の列の一番後ろの席で一人黙々と宿題を片付けている。
そんなもの家に帰ってからにすれば良いとか律儀にやらなくても放って置けば良いとか思われるかもしれない。
残念ながらと言うべきか有り難いことにと言うべきか両親が揃って社交家で毎日家庭は賑やかな談笑で満溢しているため静かに落ち着いて勉学に励むという訳にはいかない。
さりとてそれを口実に手を抜きたくも無い。
加えて終業直後のバスは大混雑するので乗車したくないという気持ちもある。
素行も成績も良好なので教員からの信頼や期待は厚く家庭では勤めて明るく振舞っているため周囲の大人は誰一人として自分がクラスで孤立しているとは思っていない。
何かしら寝食を忘れて熱中できるようなことがあればそれに関連した倶楽部に入る気持ちにもなろうが全くそういうことには無縁で保健委員及び体育祭の救護係と文化祭の会計係と合唱のピアノ伴奏を担当したことがあるがそこから交友の輪が生まれることも無くただ事務的に必用最小限の接触に留まった。
さて数学の問題も国語の作文も片付いたことであるし荷物を纏めて下校することにしよう。
窓の外はすっかり夕暮れの茜色に染まっている。
ここで目が覚めた。
夢の中の自分は一言で表せば典型的な優等生だろう。
礼儀正しく控えめで大人しいと年長者からは好感を持たれるが同年輩からは頗る付きで低評価され易い。
このまま誰にも本心を打ち明けられずに良い子の仮面を被り続けて行けば孤独は深まり場合によっては破壊的衝動に駆られるかもしれない。
それが外へ向かうにせよ内へ向かうにせよ臨界点に達する前に手を打つべきだろう。
大人の目から見て直ぐに精神面でジレンマを抱えていると判る不良より一目見ただけでは何も心配し得ること無いと判断してしまう優等生のほうが心の闇は根深いかもしれない。




