曲がった胡瓜
応急手当に使う道具一式を消毒したり補完したりしながら白い布一枚隔てた向こうの寝台で本を読んでいる生徒をどうしたものか思案を巡らせる。
生徒の成績は体育を除けば概ね良好で特に数学と美術では満点評価の教科首席である。
この学校は生徒の自主性を重んじていて出席点を付けたり提出物を課したりはしない。
前期後期それぞれ中間期末つまり年四回の考査がありその出来の良し悪しで成績を付けることになっている。
ちなみに座学教科は筆記で演習教科は実技である。
故に二教科以上で赤点を付けられなければ授業に出ずにこうして保健室に居ようが図書室に籠もろうが実質的には一切問題は無い。
そうは言ってもここは保健室であり保健医としてはあくまでもここは一時の避難場所であり早晩ここの外に居場所を探す必要があると伝えなければなるまい。
一応担任教員とも話し合ってはみたものの幼い頃から体育会系一色で育った単細胞には文化系の繊細で微妙な神経を理解させることが出来ず仕舞い。
それどころか生徒は担任が保健室に様子を見に現れる毎に余計に自分の殻に閉じこもる傾向が見受けられるようになったので暫く一人で考えさせてあげるよう言わなければならない始末。
下手に刺激して効果が裏目に出ては困る。
しかし何もしないで置く訳にもいかない。
それにしてもこの生徒が問題児なのだろうか。
それとも学校側に問題があるのだろうか。
ふと視線を窓外に向けると温室で胡瓜が山吹の花弁を開かせているのが見える。
ここで目が覚めた。
明るく元気で素直な子は上に立つ人間にとっては扱い易いかもしれない。
しかしそういう子だけの集まりにしようとすると途端に破綻してしまうもの。
多様性を理解することが鍵になるだろう。




