手紙
その部屋は刑事ドラマでお馴染みの取調室のセットにそっくりである。
部屋には他の人の姿はなく扉には鍵が掛かっている。
そして机の上にはメモが一枚ありスタンドライトがペーパーウェイト代わりにその上に置かれている。
メモには次の一文だけ書かれている。
童謡やぎさんゆうびんの疑問点とそこから導出される考察点を論理的かつ簡潔に記述せよ。
どうやら解答せねばここから出られそうもないようなので考えることにする。
白山羊と黒山羊が交互に手紙を出すがどちらも開封前に食べてしまい何の用があったのか最後まで不明のまま。
疑問点を列挙すれば限がない歌である。ここでは二頭の間を行き来する郵便屋に焦点を絞る。
いくら守秘義務があるにしても宛て先も送り主も共に山羊であることに奇異を感じている様子が全く見られない。
もしかしたら山羊ばかりいる世界で郵便屋自身も山羊なのかと考えてもおかしな点は残る。
そもそも山羊ばかりの世界であれば通信手段としてわざわざ紙を選択するとは思えないからだ。
紙を通信手段として採用しているということはよもや読まずに食べられまいと郵便屋が予想しているということだ。
ここで少し話しが飛躍するが疑問点を矛盾なく説明するためにいくつかの仮定を設定する。
一つ。白山羊黒山羊は二人だけの通称であり封筒には白山羊とも黒山羊とも書かれていない。
一つ。読まずに食べたというのは言葉の綾で届くとすぐに処分しなければならないことを表す。
一つ。本当は用件が伝わっているがそのことを悟られると不都合が生じるため再度用向きを尋ねる振りをしている。
以上の仮定から導出する考察点は白山羊と黒山羊は何らかの機密を掌握している工作員である。
丁度書き上げたタイミングで部屋に山羊が闖入し解答用紙を食べてしまう。
ここで目が覚めた。
傍から見れば徒労に思えるだろうが思考実験を楽しめたので厭な気分はしない。




