第八話「焼き付いた猿夢」
政府首都アルマ 外縁
セレスが海から上がり、滴る水を魔力対流で弾き飛ばしながら砂浜を歩いていく。
『ここが……政府首都アルマ……』
海岸から見上げると、残骸を苗床にして大量の紅葉が乱立しているのがわかる。上部を切り取った円錐のように壁が作られており、残骸の量から外周から中央に向けて重要な拠点が集まっていたと推測できる、
更にセレスが立つ地点から、直線で真っ直ぐ道が作られており、何らかの力でまるごと両断されたように思える。
「思ったよりも形を残しているんだな」
『そうだね……すごく神秘的で、綺麗な景色だけど……』
「……」
夕陽を背に受けながら、セレスが歩を進め始める。
『AIの私にも伝わるような、思考を握り潰すような圧倒的な覇気……この不快感、確かに禁足地って言って間違いないよね』
「ああ。こんな心の臓に来る威圧感……ホワイトの放つものともまた違う。やつのものは、圧倒的な強者、自然の暴威と言えるようなものだったが……これは……なんだ……?」
セレスはいつも通り順調に進んでいくが、やや不自然に、何かに執着するような足取りに変わっていく。
『大丈夫……?拍が乱れてきてるよ……?』
「ああ、大丈夫……」
『んー、でもここまでずっと動き続けてるし、少しくらい休憩してもいいんじゃ……あ!
敵性反応!上空!』
「そう来なくてはな……」
抉られた地面で飛び退き、飛来してきた敵が正面に着地する。
「此処から先へは行かせない」
現れたのは、漆黒のパワードスーツで全身を覆った人物だった。
『ギルド〈ブリューナク〉所属の色付き……ギルドランキング三位のブラックだよ……』
「……。ブリューナクか」
セレスが構えると、ブラックは左腕の発振器を起動し、それに続いて全身の武装が待機状態になる。
「君が噂の独立傭兵……セレスだな。トラッキングによれば直線でここを目指していたようだが……ここに、君の望むものはない。諦めて帰りたまえ。
まだ……間に合う。ここで諦めてくれるのであれば、全ギルドは君の身柄を保証し、割のいい仕事を優先的に君へ斡旋することを永劫に約束する」
「止まるつもりはない」
「残念だ。パーシュパタから連絡は届いているだろうが、今、総力を懸けた戦力をここへ向かわせている。そう遠くなく……派手な戦争が出来るほどの物量が殺到し、君を殺しに来る」
「早く構えろ」
「もう一度だけ聞く」
「もういい」
セレスが踏み込み、魔力剣を右手に呼び出して振り抜く。ブラックはブースターを一気に吹かし、直上に飛び上がりながら大きく円を描いて右肩の二連装小型カタパルトから、誘導しながら高速で飛翔する鉄杭を発射する。セレスが後転しながら左手で地面をついて飛び上がって躱し、ブラックは左腕の発振器から両刃剣を展開し、高速回転させながらセレスを捉え、着地して向きを直した彼女は魔力剣を盾にして両刃剣の回転斬りを凌ぎながらブラックを囲むように魔法陣を展開し、ブラックはすぐに攻撃を止めて退きながら腰の装置を起動し、デコイバルーンをばら撒いて視界を阻害しつつ、魔法陣から解放された激流と雷霆を受けて爆散する。そのままブラックは左肩から中型ビットを展開し、彼の傍に追従したまま、そこから実弾をマシンガンのように連射してくる。セレスは左腕に展開した魔力盾でそれを受け流しながら右に走り出し、ブラックはビットを戻しながら、右手に持った中型ハンドガンで三点バースト射撃で確実に弾丸を当てて盾を削りつつ、高速機動でセレスの正面に立ち、彼女が少し身構えて飛び退いた瞬間に正面に詰め、だがそれがブラフだと読まれていたのかセレスは何もせず、ブラックは斜め後方に飛び退きながら右肩から鉄杭を発射する。セレスは盾でそれを弾きつつ雷霆で撃ち抜き、強烈な閃光を起こす。
目を晦ました瞬間にブラックは頭部の拡張機能でスキャンモードに入り、閃光越しにセレスの動きを視認しながら飛び回る。
「(なるほど、これがブルーの戦闘ログにあった“勘”というやつか……!)」
ブラックが高速で動いているにも関わらず、閃光の中でセレスが迷いなく動きを追ってきていることに驚く。ブラックの挙動の癖を既に読んだのか、高速ブーストの瞬間に硬直するところで魔力で加速接近から魔力剣を振り被る。ブラックもまたその攻撃を読んで両刃剣で迎え撃ち、都合良く激突して競り合う。
「君はこの空間が放つ、異常な殺気……それを感じてなお、まだ進もうというのか……!」
「逆にお前は……この世界に、なにか価値を見出しているのか?」
「そうか、君はそのためにここに来たのか……」
両者が弾き合って離れ、着地する。
「そうだとすれば……」
「退け……」
ブラックが鉄杭を発射しながらビットを展開し、ハンドガンを撃ちながら高速接近し、セレスは地面に魔法陣をばら撒き、水柱を解放して阻みつつ、水柱ごと魔力剣で断ち切る。そこにはブラックはおらず、彼は身体が壊れるほど無茶なブーストで背後を取り、振り終わって隙を晒した背中に両刃剣による連撃を余さず全て叩き込んで滅多切りにし、ビットの実弾が追撃しながら蹴り込んで吹き飛ばし、止めに鉄杭を発射する。セレスは受け身を取りながら身を捩って鉄杭を躱し、左腕を振り抜いて回転ノコギリのように魔力盾を地面を走らせながら飛ばす。鉄杭の発射による僅かな硬直にそれが到達し、両刃剣で受け止める。セレスがその一瞬で猛ダッシュして接近し、流れで魔力剣を拳で撃ち出すと、凄まじい軌道で飛んでいく魔力剣がビットを貫いて爆散させる。接近し終えたセレスがブラックの顔面に右拳をめり込ませ、激しく吹き飛ばす。
ブラックは倒れることは無かったものの、左腕の発振器を破損させてしまう。
「くっ……身体が持たないか……」
セレスが躊躇なく接近して魔力剣を振りかぶり、反射的にブースターを出力全開にして飛び立ち、すぐに離れていく。
『ブラック、撤退していくね……』
「行こう……」
『広域レーダーには確かに、こっちに接近してくる複数の反応を示してる……』
セレスは再び歩き始める。
『ね、ねえセレス……』
「なに」
『あたし、セレスに死んでほしくないよ。やっとあたし、友達……が、出来たと思ったのに……』
「私が死ぬ前提か?」
『だって……怨愛の修羅の痕跡がここに確かにあったって、それがセレスの力になってくれるかなんてわかんないんだよ?』
「そうだな。そうなったら……ふっ、フレスはどうするんだ?」
『そりゃ……最後まで、セレスと一緒にいるよ』
「今朝出会って随分な信頼だ。人懐っこいAIだな」
『人間関係に時間は関係ないんだよ?仲良くなるにしても、仲悪くなるにしてもね?』
「そうか。なら、最後まで道連れになってもらおう」




