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GFfA  作者: あごだしからあげ


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第九話「天上楽土」

 政府首都アルマ 中央残骸

 抉られた地面を歩き続けていると、膜を破ったような感覚の後、一瞬で空模様が変わる。

 隙間なく雷雲に覆い尽くされ、紅葉を追い落とすように暴風雨が巻き起こり始める。

「……」

『くっ……すごい嵐……』

「間違いないな。この気配……怨愛の修羅の力の残滓がある」

『セレス……』

 しばらく歩くと、激しく斬り裂かれ、焼き溶けた豪奢な建物の残骸に辿り着く。

「随分趣向を凝らした建物だったようだな」

『うーん、マップ的にはアルマの中央だし、官公庁だったのかな?』

「だろうな」

 セレスが辛うじて残る屋内へ踏み入れ、大半が焼き捨てられた(恐らく)本の背表紙を拾い上げる。

「焦げて殆ど読めないが……議事録か、これは」

 それを投げ捨て、残骸の中央の地面に開いた、非常に巨大な穴を見やる。そこからは無明の桃源郷で見たものと同じ、少しの光も通さない闇が漏れ出しており、重く足下に立ち込めている。

「……」

『アッシュと戦った場所と同じ、なんのセンサーにも引っかからないし、光を微塵も通さない……』

「そーそー、それ……無明の闇って言うんだよ?」

 闇の向こうから可憐な声が聞こえ、そして姿を表す。

「ッ……」

『どこから……!?』

 声の主は魔女帽を被った金髪の少女で、一本の帯を全身に交わして局部を隠すようにしている。

「こんちは♪」

『ギルドランキング八位、〈アルメール〉所属の色付き……イエロー、だね……』

 イエローは不敵な笑みを浮かべながら、徐々に歩を進めてくる。

「人がこんなところまで来るなんて、ダメだよ、もう」

「退いてもらおう」

「ここにあなたが欲しがってるものはないよぉ?怨愛の修羅の力、全てを焼き尽くす、怨愛の炎は」

『怨愛の、炎……』

 セレスは聞いてられないとばかりに踏み込んで拳を撃ち込むと、イエローは細腕でそれを受け止めてセレスを投げ飛ばし、彼女は受け身を取って着地する。

「あるのは……哀しみと、安らぎを撒き散らす、この闇と……」

 イエローは右手を掲げ、その掌に昏い蒼炎を生み出す。

「憎しみに揺れる、怨愛の炎だけ」

 蒼炎を握り潰し、蒼炎で大鎌を形作る。

「それでいい」

「?」

 イエローが可愛く顔を傾げると、セレスが続ける。

「それでいいんだ。私の力になるならなんでもいい」

「あっそ」

 微笑を浮かべていたイエローが真顔になり、大鎌を構える。

「世界の全部……壊したいんだ?」

「……」

「勿体ないよ」

 イエローが左手を突き出して熱波を起こし、セレスが飛び上がり、イエローも追って大鎌と魔力剣が激突し、左手に魔力剣を呼び出して剣を返し、蒼炎を左腕に纏わせて剣を弾きつつ、セレスが追撃に五本の魔力剣を発射し、イエローは大量の蝶に分裂して躱し、離れた空中で姿を戻しながら、飛び散った蝶たちが爆発する。

「こんなクソみたいな世界でもさ」

 大鎌を巨大化して前方を薙ぎ払い、その軌道を読んだセレスが上に動いて躱し、薙ぎ払われた軌道上に連鎖爆発が起こり、イエローは続いて高速回転させた大鎌を投げつけ、セレスが緩やかな弧を描きながら躱して接近し、イエローが歯を見せて笑いながら左手に移した大鎌を変形させて大槍に変えて突き出し、セレスは左太腿の追加装甲を分離して肥大化させ飛ばして大槍の穂先を捉えて防ぎ、双魔力剣の一撃でイエローの左肘を切断し、彼女の右手に生み出された蒼炎の剣による一撃を弾いて離れ、即座に接近して再び打ち合う。激しい火花を散らしながら、互いの表情が至近で鮮明に映る。

「私たちは人だから、殺し合える、奪い合える、犯し合えるんだよ!」

「私は……強くなりたい、だけだ……!」

「アハハ!可愛いねえ!初いねえ!」

 蒼炎剣を弾き返し、一瞬で一回転して双魔力剣を胴体に叩き込んで微塵切りにし、粉々に裂かれたイエローが後方に吹き飛んでいく。

「愛してるよぉ!アッシュゥゥゥゥゥゥゥ!」

 肉塊になりつつあったイエローに蝶が集って修復し、彼女は受け身を取りながら着地して滑る。顔を上げてこちらに見せた顔は狂気に歪み、高熱の吐息が口から漏れている。

「もっともっと、君が苦しむ世界を作らないと!

 アヒャヒャヒャヒャ!」

 セレスは付き合うこともないとばかりに大量の魔力剣を生成して雨のように注がせ、それに応じるでもなくイエローは身を捩らせ、身体から淵源を思わせる蒼光の粒子を沸き立たせる。

「なんだ……!」

『ホワイトと同じ……!』

 イエローが上体を反らして魔女帽が転がり落ち、その瞬間に彼女へ一条の雷霆が叩きつけられる。その衝撃で魔力剣の弾幕は破壊され、眩い閃光に包まれる。

「竜化(ドラグトランス)……」

 立ち上る煙と闇の向こうから、黄金の飛竜の姿となったイエローが現れる。

『竜化した!?』

「この空間を包むものとは違うが、それでも凄まじい覇気だ……!」

 イエローが咆哮し、全身の鱗が逆立って帯電を始める。

「ねえ、セレス。あなたにも好きな人、愛してる人がいるならさあ……終わらない苦しみで愛でて上げるのがいいよぉ!」

『なんで名前……』

「気にするな、やつもギルド勢力であることには違いない……!」

 イエローが咆哮で口を開いたまま、喉奥から淵源の蒼光を漏らし、側頭部に添えられた直線状の牙による電界を通して超高速で電撃弾を射出する。セレスは咄嗟に身を捩り、魔力剣を犠牲にして回避する。

「この圧倒的な電力……!こいつが暴風雨を操っているのか!」

『そんなバカなこと……!?』

 こちらが狼狽しているとイエローが飛び上がり、右翼を振り抜いて大量の鱗を飛ばしてくる。魔力で飛翔して器用にそれらを躱し、イエローは空中で踏み込んで左翼を縦に振り下ろし、間一髪で回避するものの風に煽られて少し姿勢が崩れ、イエローの動きに合わせて残骸や地面に着弾した鱗に上空から雷が落ちる。

「力を抑えている場合ではない……!

 竜化ッ!」

 セレスも竜化しながら右手にメイスを呼び起こして、踏み込みながら振り下ろす。あちらが左翼で防御し、それでも重量と剛力で押し通して地面に叩き落とし、出力に任せて即座に薙ぎ払いを繰り出して、イエローは殆ど同じ反応速度で後方に飛び退きながら翻り、大量の鱗を射出してくる。

『速いッ!?』

 セレスが踏み込んで接近しようとした瞬間に鱗を落雷が貫き、それに巻き込まれて焼かれる。

『高エネルギー反応!回避を!』

 フレスの叫びを遮るように、イエローの口から放たれた電撃弾が飛翔し、中空で二次加速してセレスの胴体を貫き、激しく後方に吹き飛ばす。残骸に激突し、崩れた瓦礫が降り注いでくる。それでも瞬時に咆哮の音圧で瓦礫を吹き飛ばし、セレスが復帰する。

「今のは効いたな」

 そこにイエローが前方のやや遠い位置に右翼を叩きつけ、直線上に大量の落雷を発生させる。右にステップしてから地面を滑るような強烈な踏み込みで一気に接近し、左翼と正面に構えたメイスが競り合う。そのまま力任せにイエローを薙ぎ倒し、メイスを大きく掲げ、渾身の力で彼女の脳天を叩き潰し、メイスの先端を右足で踏みつけ、一気に魔力を注ぎ込んで巨大な力の柱を作りながら地面を引き裂き、頭を喪失したイエローが襤褸雑巾のように吹き飛び転がる。メイスを地面から引き抜いて向きを合わせると、イエローは平然と起き上がりながら頭部を修復する。

『嘘……頭を潰してまだ……!?』

「崩壊前の世界にいた蜥蜴とかいう生き物は、尻尾を切っても元に戻ったらしいじゃないか」

『いや、頭はダメでしょ……って、そういうことか』

「ああ。竜化に伴って、制御系統が頭部から離脱して、別の場所に移動しているようだな……」

 イエローは両翼爪を地面に付けて再び全身の鱗を屹立させ、帯電する。続けて右翼から一気に電撃を解放しながら振り抜き、巨大な電撃刃を飛ばし、その軌道に大量の落雷を発生させて接近を拒絶する。セレスは敢えてすぐには躱さず、踏ん張って全身の甲殻を密着させ、体表と甲殻間で熱された蒸気が排出され、尻尾の甲殻が展開され、大幅に延長される。改めてメイスを電撃刃に投げつけてから飛び上がり、長大な尾を突き出して落雷を潜り抜けながらイエローの甲殻に突き立てて一気に接近し、イエローは尾を切り離しながら飛び退き、セレスが着地したところへ口から電撃弾を撃ち込む。セレスが左へ回避し、イエローの胴体に尾を巻き付けて地面に引きずり落とし、飛びかかる。あちらの蹴りを受けながらも強引に左翼を引きちぎり、その瞬間に勢い良く蹴り飛ばされるが堪えて首を鷲掴み、折れんばかりに膂力を込めて持ち上げ、渾身の手刀で胸部を刺し貫く。

 最後の抵抗とばかりに最大威力の雷霆が空から二人を撃ち抜き、周囲に立ち込める闇を一時的に霧散させる。

「アぁ……ッシュぅぅううう……」

 怨嗟のような呻き声を上げてイエローは竜化が解けて地面に転がり、セレスも呼吸を整えながら竜化を解除する。

『まだ……生きてる……!?』

「しぶといやつだ」

 仰向けに倒れて虫の息になっているイエローに近づくと、彼女はこちらの顔を見る。

「セレス……やるねえ〜……?私……ワクワクドキドキ、しちゃったよ……」

「何のつもりだった」

「え〜……?わかんない……?

 私は……好きな男を……ずぅぅぅぅぅぅっと……苦しめて、愛でていたいんだよ……ね、だからさ……もし、アッシュに会ったら……彼を……この上なく……苦しめてあげてほしいな……」

 イエローの身体が灰になって崩れ去り、そこに電撃を帯び、淵源の蒼光で満たされた球体が残される。セレスがそれを掴み、持ち上げる。

『好きな人を、苦しめるのが、愛……?』

「気にするな、フレス。色んなやつがいて、色んな考え方がある。それだけのことだ」

 球体を吸収し、大穴を覗き込む。

「さて……もうすぐだな……」

『……』

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