第六話「焼滅の蒼」
蟲臍の坩堝
闇の中を通り抜けると、広大な海を一望する海岸線に辿り着く。
『ここは……』
「数少ない海の一つ。今はもう名前もないけれど」
『この海の向こうに……かつての世界の中心、政府首都アルマが……』
「少し休憩しようかとも思ったけど」
セレスの視線の先には、TA運搬用の大型ヘリコプターが複数機滞空している。
『独立傭兵、識別名“セレス”。この領域は我々、パーシュパタが管理している。早急に立ち去れ』
ヘリコプターの内の一機からブルーの声が聞こえる。
「もう修理は終わったのか?」
形式張ったブルーの言葉を無視して返す。
『退く気は無いようね、独立傭兵。さっきは遅れを取ったけど、今度は途中でやめたりしない。
最後までよ』
ブルーの言葉に続き、ヘリコプターの底部のハッチが開かれ、TAが次々に降下してくる。最後にブルーが降下し、着地する。
「ホワイトを撃退したらしいわね。まさか、あんなのと戦って生き残るやつがいるなんて思わなかったけど」
「……」
「まあいいわ。私にとって、お前みたいな例外は許容できない」
ブルーは先刻と変わらず装備している右手の中型レールガンを向けてくる。
「死んでもらうわ」
「ひとつ聞かせてくれ。お前は、何のために私を討とうとしているんだ?」
セレスの言葉が意外だったのか、ブルーは銃を下ろす。
「それが任務だからよ。お前みたいな、身の程知らずを殺す。禁忌を犯して、進んで人類の敵になろうとするやつをね」
「なるほど。聞いて損した……本心を引きずり出してやる」
「何を勘ぐっているのか知らないけど、どうせ死ぬんだし無駄な詮索よ」
直ぐ様構え直してレールガンを投射し、セレスが右に飛び出したところへ左手のグレネードランチャーを三連射し、周囲の無人TAたちがグレネード弾頭をランダムに撃ち抜いて起爆させ、セレスの動きを制限していく。
セレスは動き続けて無人機たちの肩部連装ミサイルと、両腕のアサルトライフルとリニアライフルの弾幕を躱し続け、ブルーの動きに合わせて無人機たちが複雑に距離を縮めてくる。
『動きがオレンジと戦ったときとぜんぜん違う!?』
「(あちらは水を盗むような、食い扶持に困るような盗掘者を殺すための部隊、こっちはブルーの意思に応じて追い詰める、猟犬の群れのようなもの)」
『……。確かに、すごく丁寧な追い込み方だね……弾幕と爆発物で、私たちを徐々に逃げ場のない断層まで追い込もうとしてる……!』
フレスの言葉通り、ブルーの攻撃に合わせて無人機たちが、弾幕が途切れないように、アサルトライフルのリロードとミサイルの着弾の合間、絶妙に嫌らしいタイミングでチャージした高弾速のリニアライフルで事故を狙いつつ、ブルーが放つグレネードで走るこちらを押し込んでくる。
「(素直だからこそ読みやすい、読みやすいからこそ、あちらがこちらの動きを読みやすい)」
『ん……ん?』
セレスがグレネードの着弾に合わせて飛び上がり、左手から魔力の糸を飛ばして隊列の奥にいた無人機に絡ませ、引っ張って一瞬でその無人機の下まで移動する。
「かかった」
ブルーが思わずそう言うと、魔力糸が絡まった無人機が一瞬で臨界暴走状態になり、ジェネレーターを中心として自爆する。続いてブルーは肩に装備していたレドームからレーザービットを展開し、爆風に向けてレーザーを乱射する。
と、そこへ完全に意識外から高速の弾丸が飛んできて、ブルーはアラートが鳴るよりも前にギリギリで反応して躱す。彼女が視線を向けると、無人機の肩に乗ったセレスが、魔力糸で無人機全体を絡め取って強引に制御を奪い取っているのが見える。
「無茶な真似を……!」
周囲の無人機たちが一斉に距離を離そうとしたところで、セレスが追加で放った魔力糸で繋がれて留められ、ブルーが奪われた無人機に自爆を促す。
「……。そうか……ッ……!?」
そこでブルーが気付き、咄嗟に距離を取る。自爆コマンドが魔力糸を伝って伝播し、全ての無人機が同時に自爆して大爆発を起こす。セレスは飛び上がって躱しつつ、空中に魔法陣を乱造して大量の火球を降り注がせる。
ブルーは回避に専念しながら、敢えて火球弾幕を真正面から突破して圧力をかけつつ、意識外からビットで決着をつけようと位置取る。
「セレス!」
「ブルー……!」
セレスがレーザーを躱しながら魔力糸でビットを絡め取って圧壊させ、その隙に接近しきったブルーが蹴りを直撃させる。質量差と重量差からくる強烈な衝撃で激しく吹き飛ばされ、だがその一瞬で魔力糸をブルーに絡ませ、受け身代わりに右手でぐっと引き寄せて強引に立て直しながら急接近していく。
そうなるとは思っていないブルーが決め打ちでレールガンを撃ち、セレスの僅かに頭上を掠めて外し、セレスは左手に魔力剣を生み出してブルーの頸部を狙う。が、ブルーは咄嗟に魔力糸が繋がれている右手の装甲をパージして距離を離し、魔力剣が空振ったところで左蹴り上げでセレスの距離を強引に離させ、間もなく両者が着地する。
「若い闘い方だ」
「逆にお前は……殺すことに慣れすぎているようね」
ブルーが大きく排熱し、構え直す。
『セレス、広域レーダーに反応……たぶん、さっきの輸送ヘリが新しい無人TAを積んで向かってるんだと思う……』
「(わかった)」
セレスが構えを取ることなくブルーの足下に魔法陣を展開し、間欠泉を起こす。当然ブルーはそれを回避し、グレネードを山を描くように三連射し、それを火球と氷柱で迎撃して水蒸気を起こし、視界を潰す。瞬間、ブルーはスキャンモードを起動し、セレスがその向こうから魔力糸を飛ばしてきているのを確認して躱し、レールガンで正確にセレスを撃つ。
「そうだろうと思った」
しかしセレスは既に背後に居り、言葉より先に気づいたブルーが僅かに機体制御で抵抗し、魔力剣の振り下ろしで左腕を犠牲に、セレスをブースターの噴射炎に巻き込んで離れる。着地して向き直ったブルーの左肩口が爆発し、機体各部から白煙が上がる。
「まだよ、私はまだ戦える!
まだ終わりじゃないわ!」
ブルーは脚部の追加装甲を全てパージし、歪に肉抜きされたように軽量化する。
「(致命の一撃を回避し続ける技術は、間違いなく天性のもの……伊達にギルドの看板を背負っているわけではないということか)」
躊躇いもなくブーストし、空中を滑るようにしながら蹴り込み、こちらが反撃しようとしたときには既にブーストで引き離しながらレールガンを発射し、魔力を纏わせた手刀で投射された電撃を弾き返しながら、距離を保とうとするブルーへ近づき続ける。
「ちっ……こいつ……!」
素早く雷霆を生成して撃ち出し、レールガンに直撃させ電界を乱してチャージを妨害しつつ、過電流によって右腕の駆動系を一時的にショートさせ、それに気を取られた瞬間に肉薄して膝蹴りを頭部に直撃させてメインカメラを破砕し、至近距離で特大の火球を爆散させて吹き飛ばし、地面に叩きつける。
間もなく着地し、応じるようにブルーの機体が炎上からの爆発を起こす。
「届かない……」
「……」
「ホワイトと言い、お前と言い……それだけの力を持って……どこへ……行くと……」
炎上が激しくなり、そして大爆発を起こして大破する。
『ブルーの生体反応が消失……急ごう、セレス!』
「長居は無用か」
燃え盛るブルーの残骸を通り過ぎ、セレスは迷わずに海に飛び込む。
遅れてその場にヘリコプター部隊が到着し、同時にそれらを轟沈させながらホワイトが降下する。
『マイグラント、ブルーの機体残骸を可能な限り回収してください』




