第四話「Stasis」
残灰の砂漠
『ん』
相も変わらず砂漠を進んでいると、フレスが反応を示す。
『通信が来てるよ、セレス』
「ん?ああ、繋いで」
『はーい』
フレスがそう言ったあと、セレスがほぐすように首を回して、通信音声が入ってくる。
『やあ、聞こえるかい、識別名セレス』
「聞こえている」
『数時間前、角竜を撃破してくれたね。バウンティボードは更新されて、報酬はきちんと支払われているよ。
それはそれとして、君は一時間前、僕たちのエースの一人、ブルーを中破させたよね』
「ああ。私が彼女の縄張りに迷い込んだからな、止むを得ず戦闘した」
『別に恨み言ではないんだが、僕たちのギルド〈パーシュパタ〉では、申し訳ないが、君を殺す算段を立てている』
「なんのつもりだ?」
『いくら警戒したとて、君も人間だ。予告して身構えたとしても、どうしようもないこともあるだろ?』
「そういうことか。なら、いくらでも戦力を注ぎ込むといい。お前のギルドを潰してやる」
『期待してるよ。
ところで、さっきその辺でオレンジが死んだって情報が来たんだけど。
僕の見立てが正しければ、連装式の撃針を射出する兵器を使うのは……
独立傭兵として唯一、その圧倒的な戦果を評価され、ギルドランキングに登録された、最強の“色付き”……』
「ホワイトか」
『その通り。一部ではあれこそが怨愛の修羅、滅びを齎す白い鳥と呼ばれているとか。
まあ眉唾だろうが……僕たちに襲ってほしかったら、まずそいつを排除してくれないかな』
「珍妙な依頼の仕方だな」
『もちろん、撃破を確認すれば報酬は払うよ。どうせ君は死ぬんだし、たんまりとね』
「いいだろう。引き受けてやる。もしホワイトに遭遇したら、その死体をお前に見せつけてやるよ」
『いい返事だね。じゃあ、そういうことで頼むよ』
通信が切れる。
「……」
『いやいやいや!どういう会話!?』
フレスがすぐに驚きの声を上げる。
「ああいうイカれた手合というのはよくいる。滅ぶ前は知らないけど、この世界ならいくらでもいる」
『まあセレスが納得してるならいいけどさ……それより、最強の色付き、ホワイト……本当なら、ギルドランキング一位のレッドを上回るほどの強者でありながら、独立傭兵が最強であることを認めたくないギルド勢力によって九位に留められている……例外中の例外……』
「私もアレの話は聞いてる。ギルドに所属せずに、よくもまあ広範囲にあれだけの戦果を残せるものだ」
『なるべくなら交戦を避けたほうが良さそうだよね』
「ああ。まあ……襲われる側は、襲う側の事情を把握することは出来ないからな。襲われたら不運だったと考えて……全力で、殺そう」
斯界の底
『マイグラント、調子はどうですか?
ふふ……絶好調、と言ったところですね。
ええ、私たちも例外として、世界の真似をしてみましょうか……
彼女を、試す。
それが今回のミッションです』
白いパワードスーツに身を包んだ竜人が、淵源を思わせるような蒼光をブースターから噴射しながら空を飛ぶ。
ちょうど、砂漠の中には似つかわしくない広い泥濘に足を踏み入れた、襤褸を纏った人間が見える。
『セレス!頭上から高エネルギー反応!』
フレスの声に従い、こちらを狙って急降下してきた竜人を躱し、それと相対する。
正面に着地したのは竜人は、右肩に二連グレネードキャノン、左肩に六段三連装ミサイル、左手に三本の杭と一本の撃針で構成された強化パイルバンカー、右手に垂直二連アンダーバレルマシンガンを装備していた。
『白いパワードスーツ……!ギルドランキング九位、ホワイトだ!?』
フレスが驚いていると、ホワイトのオペレーターが外部通信で声を発する。
『初めまして、独立傭兵、識別名“セレス”。
率直に申し上げます。
あなたの類稀な戦闘能力を評価し、私たちとの交戦を要請します。
もし我々の好奇心を満たすに値するのであれば……微力ながら、あなたの旅路のサポートを致します。
では……』
ホワイトの纏うパワードスーツの各部が展開され、目も眩むほど昏い蒼光が放たれる。
『くっ……!?こっちの計器じゃ観測できない……!なんかよくわかんないけど、あっちの出力が凄い速度で上昇してる!』
セレスが構えた瞬間、ホワイトは左肩のミサイルをばら撒きながらブーストして凄まじい速度で接近し、こちらは泥濘を氷結させながら掬い取った泥を投げ、それら全てを雷霆に変えてミサイルを撃ち抜き、ホワイトがマシンガンを乱射しながらこちらの進む先に二連グレネードキャノンを発射し、大きく飛び上がって躱す。
「流石に速いか……!」
ホワイトは強化パイルバンカーをチャージしながら連続で瞬間的ブーストを行って急接近し、こちらは魔法陣を展開してそれを踏んで上下に素早く動き続けてあちらの狙いを崩しながら、致命的な一撃を拒絶し続ける。
『おかしいよ……!どう見ても人間サイズなのに、TAが装備するような武装だし、あんなにクイックブーストを連射してエネルギー切れを起こさないなんてさあ!』
『この世界を滅ぼすにせよ、停滞させるにせよ……
それに相応しいのは、自ら選んで戦うものだけです』
オペレーターがそう言いながら、ホワイトはブーストで一気に接近し、動き続けるこちらを正確に捉えて蹴りで吹き飛ばし、二連グレネードキャノンで撃ち抜き、マシンガンを正確に撃ち込んでくる。セレスは蹴りからのグレネードを魔力防壁で受け止めながら着地し、一点集中で左腕に作った魔力盾でマシンガンを受け止める。間髪入れずに突っ込んできたホワイトの強化パイルバンカーがノンチャージで当てられ、容易に盾を貫通される。
『セレス!』
その叫びを掻き消すように右手に蓄えた魔力を一気に爆炎に変えて地面に叩きつけ、ホワイトの足下から極太の火柱を噴き出させる。しかしホワイトは素早く後退して完全に回避し、余裕を持って離れ、着地する。
「この手も通じないか……」
『でもセレス、ホワイトは……』
「ああ……明らかに、パイルバンカーでの決着に執着している。だが、他の武装の圧力も相当なものだ……
それに、相対しているだけでも魂が磨り潰されそうな殺意、とても人間に出せるものとは思えない」
セレスは呼吸を整えながら、構え直す。
『ええ、マイグラント。私にも伝わっています……
かつて私たちが、怨愛の修羅にそう言われたように……
彼女には、可能性を感じます』
『可能性……?』
ホワイトは佇み、圧倒的な覇気を全身から放ち続ける。
「……ッ……」
『帰投を許可します、マイグラント。
彼女の内側にある破壊衝動……それが導く先を見てみましょう』
頷いて、ホワイトは飛び去っていった。
「くっ……」
セレスは片膝をついて崩れ、右拳で身体を支える。
『大丈夫……?』
「ああ、身体は大丈夫だ……だがあの圧力に……完全に気圧されていた」
立ち上がり、泥濘を歩いていく。
「たったあれだけの攻防で敗北を認めさせるとは、最強というのは伊達ではないらしいな……」




