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異世界物件のツキモノ  作者: シラ猫
魔方陣

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9/13

3

 アリサの学校では、担任が毎朝一言話をする。例えば試験が近づいている連絡とか、問題を起こした生徒がいた報告とか。話は学校内に留まらず近所の話や他国の話もする時がある。



 この日の担任は硬い表情をしていた。いつもは気さくに冗談をいう人気がある男性教師だ。年齢は27歳でアリサの父親であるデュークより若い。



「先日、近隣で黒いローブを着た血の気のない男性が出没した情報が出ている。被害は出ていないが油断はできん。各自、登下校の際には十分気をつけてくれ」



 クラスメイトは担任の報告を聞いてざわめいた。アリサはこの報告を聞いて、この前見た男性を思い浮かべて背筋が震えた。



 担任は手にしている羊皮紙を見ながら話を続ける。



「報告されたのは、集合住宅と呼ばれる場所の近くだ。情報を聞きつけた兵士が出向いたがそんな男性はいなかったそうだ。しかし、微かな魔力の跡が見られたため引き続き警戒している。住民達も迂闊に近寄らず、何かあれば連絡して欲しいと言われている」



 話しが進むにつれ、アリサは息苦しさを感じていた。自分があの魔方陣に触れたことが原因ならどうしようと考えている。



 頭の中であって欲しくない想像が駆け巡り始める。



 もしかして、お隣のおじさんと呼ばれる人が悪い魔法使いだったらどうしよう。いや、そんな失礼な考えを持っちゃいけないと、慌てて掻き消す。



 そうだわ。ケリーも部屋に入った時に不審な男性を見たって言ってたし、きっとわたくし達には分からない方法で隠れているんだわ。きっとそうよ。



「通報した女性は健康上の被害は一切ないそうだが、黒いローブの男はこの世の者とは思えなかったそうだ。まるで死体が動いていると」



 最悪の情報を聞かせられたクラスメイトはさらに大きくざわめく。



「ここ最近この手の話は聞かなかったので、大人たちも油断していた。君らはまだ子供なんだから、何かあっても自分で解決しようなどと考えず、必ず大人に相談して欲しい」



 担任の言葉を聞いたにも関わらず、アリサはちょっとだけ確認したいと思い、忠告を無視して帰りに寄ってみようと考えていた。



 もしおじさんが居たら、壁を叩くのを止めるようにお願いしよう。

 出来ることなら、部屋から出て行って欲しい。



 授業を終え、今日もルリエ達に寄り道を提案されたが断った。周囲に気を配りながら帰路につく。頭の中では304号室に行くことでいっぱいで、気持ち足早に歩いている。



 集合住宅に着くと、階段を一気に駆け上った。



 ハアハアと上がってしまった息を整えながら、304と書かれた部屋の前に立った。



 気持ちを静めるために、息を大きく吸ってからゆっくり吐き出した。



 呼び鈴を押して待っていても反応がなく、ドアを軽くノックしても反応は無かった。



 アリサはそっとドアノブに手を掛けた。



 ……開いている。鍵が掛かってないわ。



 この前のケリー同様にアリサを招き入れるかのように、ドアは音を立てずスーッと開いていった。



「どなたかおられますか?」



 小さな声で中に呼び掛けてみたが、返事は返ってこない。アリサは意を決して、薄暗い玄関に思い切って足を踏み入れた。



 生活感のない何もない部屋からは音がしていない。ドアを閉めた時に、溜まっている埃が空気の流れで舞ってアリサに触れる。苦手な臭いらしく、思わず顔をしかめていた。



 ケリーのお陰で清潔感漂う我が家と比べて空気がまずい。薄暗いことも相まって余計にそう感じてしまう。



 アリサは部屋に入ったことを後悔したが、今更戻る選択肢は無かった。



「わたしくは隣の家のものです。どなたかおられるなら返事をしてくださいませ」



 アリサの呼びかけも空しく、返事は返ってこない。



 玄関の壁に設置している照明を点けるための魔術具の魔石に触れてみたが、明かりはつかなった。アリサは住民の有無によらず、照明は点くものだと思っていた。何度も試すが、結果は同じ。4回試した後にアリサは諦めることにした。



 アリサは知らなかったのだが、照明器具と連動させるための魔石は抜かれていた。魔石は消耗品なので、商業ギルドが取り外していたのだ。だからどんなに試しても意味が無い。



 鍵が開いているなら誰かいるのかと考えていたアリサは途端に怖くなった。自分もケリーが体験した目に合うかもしれないと。



 室内に入るべきか、このまま帰るべきかで葛藤する。最終的にモヤモヤしたままで帰っても何も変わらないので、室内に入る道を決断した。



「……失礼しますわ」と小さな声で挨拶してから入っていく。



 部屋にある照明用の魔術具を触れてみるが、やはり明かりはつかない。アリサは通学鞄から手のひらサイズの小さなランタンを取り出すと、明かりをかざし、辺りを見回した。



 物が何も無いため、おかしい所はない。そうであればケリーが入った時に見つけている。次々と部屋を確認していき、人が隠れていそうな場所を目で探した。



 一通り見て回ったが、何も発見できなかった。何か見落としているはずだと考える。



 ケリーもおかしい点は無かったと言ってたわ。それで魔力を吸われた感じがして…………魔力?



 アリサはまだ試していない事があることを思い出した。



 魔視(まし)だ!



 魔術を隠蔽している場合、魔視と呼ばれる技を使えば見ることが出来る。

 魔力が乏しい平民なら無理だけど、貴族であるアリサなら可能。



 アリサは目に魔力を集める。



 一定の魔力が集まると、アリサの瞳は赤く輝いていた。



 もう一度最初から部屋を見て回ると、遂に見つけた。


 壁に魔方陣が刻みこまれていた。アリサの身長くらいある大きな魔方陣だった。



「やったわ。ついに見つけた。わたくしやりましたわ」



 自分がやり遂げたことが実を結び、アリサは高揚していた。



 魔方陣を触れようとした時に伸ばした手を引っ込めた。



「どうしよう。恐ろしい事が起きるかもしれないし……。お父さま、お母さま。わたくしどうしたらいいの?」



 薄暗い部屋で血のように赤く輝く魔方陣は不気味さを増していた。異質な様子を感じ取っていたアリサは躊躇っていた。魔方陣を起動していいのかどうかを。



 その場で固まっていたアリサだったが、意を決して魔方陣に触れると、アリサの魔力が魔方陣へ流れていく。さっきに増してより一層に魔方陣が輝きだした。



 アリサは手を離そうとしたが離れない。もう片方の手で反対側の腕を掴み、引き離そうとしたが駄目だった。



 流れていた魔力が止まると、アリサを一気に引っ張るように、魔方陣の中に引きずり込まれた。


読んでいただいてありがとうございます。

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