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異世界物件のツキモノ  作者: シラ猫
魔方陣

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4

本日二話目の投稿です

「きゃああああああああああっ!」



 アリサは叫び声を上げながら前に倒れ込んだ。とっさに手をついたので頭をぶつけることは無かった。



 起き上がって、服に付いた埃を叩き落とす。



 周囲を確認すると、3畳程の広さの四角い部屋で奥へ続く扉がある。



 後ろに振り向くと、例の魔方陣が壁に描かれている。



「何ここ。まさか……空間魔術?」



 集合住宅は全て同じ間取りなのだから、アリサが触れた壁の先に部屋なんて無いことは分かっていた。

 それなのに今いる場所は違う部屋だと分かる。



 アリサは空間魔術について本で読んでことがあるので少し知識はある。希少で使える魔術師の数はかなり少なく、わが国が誇る宮廷魔術師の中で1人くらいしか使えない。もちろん、アリサの知り合いにはいない。



 これはただ事ではないと感じとっていたアリサは、恐ろしくて泣きたくなったが耐えた。母親から言われていた忠告が頭によぎったから。



『貴族として自分が起こした失敗は、逃げ出さずに、きちんと責任を取りなさい』



 引き返したい気持ちとは裏腹に、貴族としてのプライドで、その先へと足を止めずに扉を開けて中に入った。



 嗅いだこと無い得体のしれない匂いがアリサを襲った。



 ……何この臭い。凄く臭いわ。



 近くに置いてあったランタンを手に取り、明かりを灯して周囲を確認した。



 カビ臭いような、嗅いだことのない異臭が部屋を充満している。この部屋で生活していたのか、一人掛け用の小さい木製のテーブルの上には、スプーンやフォークなどが散乱しており、お皿の中には食べ残しの跡が見られた。原形が分からないほどに腐りきっている。カビも生えてある食べ物を見て、アリサは目を背けた。



 その場から離れたかったアリサは、先へ進んだ。



 ランタンの明かりを頼りに奥の部屋の前まで行き、扉を開けて中に入った。



 窓のない真っ暗な室内をランタンの明かりが照らす。



 長方形の部屋の側面の壁に羊皮紙がびっしりと貼られてある。何が書かれているか理解できないアリサはそれを横目にしながら歩く。



 奥には壁のように2枚の大きな黒い布がカーテンみたいに一面に貼られており、遮られて奥が見えない。



 布をめくってから中に足を踏み入れた。



「……きゃっ」



 部屋の中へと一歩踏み込んだ途端、人影が見えたのでアリサはビックリして短い悲鳴をあげてしまった。



 黒いローブを着た人が祭壇に向かって座っている。

 アリサは目を見開いて、大きく息を飲み込んだ。



 微動だにせず、固まったように動かない。アリサの気配が感じ取れないのか前を向いて座ったまま。人間というより人形のように見える。



「わ、わた……、わたくしはアリサと申します。し、失礼ですがどなたでしょうか?」



 アリサの声は上ずっていた。気づいてもらう為に、黒いローブを着た人物の肩を叩こうと思うのだが、手が震えてうまく腕が伸ばせない。恐る恐る手を伸ばしていき、ようやく身体に触れることが出来た。



「へっ?」



 肩に触れた時の感触が肉感がせずに硬かった。しかも体温がまったく感じられない。



 アリサは思わず手を引っ込める。ゆっくり足を動かして顔を拝むために回り込んだ。



「………………っ!」



 正面から黒いローブの人物の正体を確認すると、アリサは酷く怯えた。全身から搾りだすような悲鳴を上げたが、声になっていなかった。



 黒いローブの人物は性別が分からないミイラだった。髪の毛は残っており、短髪だったので男性と推測できた。



 これ以上この場にいる事は無理だと思ったアリサは、逃げだすように魔方陣の部屋に走り去って行った。



 ★★★



 集合住宅の前に騎士団が集結していた。



 自宅に戻ったアリサは母親に事情を話し、父であるデュークに連絡を入れてもらった。デュークをそれを領主に報告すると、騎士団に出頭命令が下された。



 町を巡回する兵士は平民なので魔力は少ない。アリサが見つけた魔方陣の中に入るのは困難だと判断されたので、貴族が務める騎士団に役割が回ってきた。



 どこからか集まってきた野次馬達が少し離れた位置で階段口を見守っている。侵入させないように、二人の騎士が見張っているので誰も中に入ろうとしない。



 304号室から黒いシーツで覆われたミイラの遺体は騎士団によって運びだされ、馬車の荷台に収納された。



 自室のベッドの上に座っていたアリサは、毛布に包まれていた。震える両手で顔を覆いながら、自身が体験した事が恐ろしすぎて歯がカチカチ震える。それほどに酷いショックを受けていた。



 母親にホットワインを飲ましてもらった後も、アリサの身体の震えはしばらく治らなかった。



 騎士団長から状況を聞きたいと尋ねられたのだが、母親であるミレイアが拒否した。娘の精神状態は混乱しており、療養を優先する。話し合いで記憶が蘇り、再びショックを受ける可能性を告げて断わった。



 騎士団長も領主から命令されているので、簡単に引き下がれず交渉を続けた。しかし、何かあったら責任取れるのかと強く言われ、ミレイアの意見に従うしかなかった。



 アリサは学校を休んだ。行けるような精神状態でなかったから。



 ミレイアとケリーは酷く心配し、付きっきりで看病した。その甲斐あってアリサの体調は徐々に回復していき、一週間後には学校に行けるようになった。


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