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異世界物件のツキモノ  作者: シラ猫
空き部屋

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4/5

 最初のきっかけはお嬢様のためだった。物音に怯えるお嬢様が不憫で、自分が商業ギルドより先にチェックしたら少しでも早く不安を取り除くことができる。その思いで安易に部屋に入ることにした。


 ケリーは今でこそ平民の使用人という立場だが、もとは下級貴族の娘だった。兄がいたので家督は継げなかったが、婚姻により貴族の地位は保てるはずだった。


 ケリーが13歳の頃、病で倒れた。何日も高熱が続き、薬湯を飲んでも一向に症状は改善せず、遂には意識を失う状態まで悪化してしまう。両親は慌てふためいたが、彼女の命を救ってくれたのは婚約者の父親だった。下級貴族のケリーは見た目麗しい少女で、社交界で出会った時に一目惚れした中級貴族の息子が父に婚約をお願いした。最初は父親も下級貴族の娘との婚姻は認めなかったが、第二婦人という立場ならと許可を出した。だから息子のために、王都にある治療院にケリーを診察してもらう費用を全て出した。


 治療術に精通している医師に診てもらったおかげでケリーは意識を取り戻し、病気も回復できたが、診察した医師から今回の病気とは関係なく、先天性の子供を産めない身体で治療は無理だと宣告された。それに怒った中級貴族の親から子供の産めない娘はいらないと婚約解消を言い渡された。


 中級貴族との縁ができることを喜んでいた両親はケリーに冷たくあたるようになり、貴族学校を卒業した15歳の年に廃嫡され家を追い出されてしまった。身寄りのないケリーを助けたのは、貴族学園の後輩で面識があったデュークだった。それからケリーは少しでも恩を返すために使用人としてデューク達を支えている。


「えっ? 魔力を吸われた気がしたけど……」


 ケリーが部屋に入った時に一瞬、微量だが魔力が減少した。平民なら感知できないが、貴族学校で魔力制御を習っていたケリーには感じることができた。けれど何も起こらないので、すぐに気のせいだと思い、部屋の奥に進んでいく。


 最初はおっかなびっくりで部屋の様子を観察しながら異変がないか調べていたが、次第に楽しんでいる自分に気づく。どこかに隠れているかもしれない小動物を探すという冒険チックな探検がケリーを楽しませた。成長記録を付けてたような柱の傷や擦ったような床の傷跡を見つけるたびに、その当時の状況を自分なりに考察していた。


 荷物がない空洞の部屋の探索に時間はかからなかった。一通り見終わって異変がないから帰ろうとした時に変化が起きた。音が聞こえたのだ。


 少しでも音を拾おうと、耳の外側に手を当てて声の出どころを探していると、ケリーがいる部屋のクローゼットから聞こえた。


「さっき見たときは何もなかったけど、旦那様の言ってたように猫でもいるのかしら?」


 一度確認しているのと、猫だと思い込んでいるケリーは躊躇(ためら)いもなくクローゼットを開ける。



「ぎゃあああああっ!」



 ケリーは叫びながら、後ろに倒れこみ尻を強打した。


 クローゼットの中には、黒髪の男が座ったままこちらを見ていた。黒のローブを身にまとい、血色が悪く、顔面蒼白の細身の中年男性が膝を抱えるようにしてケリーを見つめている。


「た、助けて――っ!!」


 完全に腰を抜かしたケリーは這いつくばりながら、必死の形相で出口に向かう。


「助けてお願い、誰か助けて……。お願い……」


 助けを呼びながら部屋のドアにたどり着いた時に、振り返るとクローゼットの中には誰もいなかった。人がいた気配すらない。


「嘘……。だってさっき人がいたのよ。どういうことなの?」


 自分が体験したことに頭が追い付かず整理できない。それでもこの場から逃れたいケリーは行動に移す。壁に手をかけて何とか起き上がったケリーは、ふらつく足取りで一目散に玄関に向かった。


 玄関にたどり着いて安心したケリーだったが再び恐怖が彼女を襲う。


「嘘っ。開かない。開かないわ! なんで開かないのよ。誰か助けてーっ!」


 ケリーがいくらドアノブを回してもドアが開かない。パニックになったケリーは握りしめた手でドアを何度も叩き、叫びならが助けを求めた。



 ★★★


 アリサは心細かった。父親は仕事に行き、母親も用事があると出かけてしまう。使用人のケリーは近所の挨拶周りに出かけたので独りぼっちになってしまった。最初はケリーに付いていくと言い、しつこく頼んだ。しかしケリーは頑なに認めてくれなかった。貴族のお嬢様が平民のために挨拶して回るのは良くないと言って、アリサのお願いを聞いてくれない。


 ケリーが出かける際に読書でもしてたら直ぐに戻ってくると言ってたので、読書して待っていたのだが、どうにも集中できない。ベットの枕元に置いていたぬいぐるみを手に取り抱きしめても気分が晴れない。


 落ち着かないアリサは部屋の中で円を描くように目的もなく歩きまわる。


「ぎゃあああああっ!」


 空き部屋の方から叫び声が聞こえビックリしてしまい、手に持っていたぬいぐるみを落としてしまう。


「今の声ってケリー? ケリーなの?」


 ケリーの身に何か起きたのを察したアリサは無我夢中で家を飛び出した。304号室の扉に耳を当てると声が聞こえる。


「やっぱりケリーだわ。ケリー? ケリー? わたしよアリサよ。どうしたの?」


 ドアノブに手をのばして回してみたがドアは開かない。


「開かないわ? どうしよう……。お願いだから開いてよーっ!」


 開錠の魔術が頭に浮かぶ。知識はあるけど、魔力触媒を持っていないし、試したことのない魔術が成功するか不安もある。もし魔力が枯渇してしまったら倒れてしまう恐れもある。魔力触媒になる父から貰った指輪は部屋に置いている。貴族学園に入る10歳の時にプレゼントされた物だ。大切な物で普段は大事にしまっていたのが仇になるとは。取りに戻った方がいいのか、ここにいた方がいいのか判断できずに涙ぐむ。


「ケリーの声は聞こえるのに、こちらの声が聞こえていないみたい。ケリーお願いだから答えて」


 アリサの必死の呼びかけにもケリーからの反応はなかった。


(どうしよう。どうしたらいいの? お父さま、お母さま助けて!)


 途方にくれるアリサに声がかけられる。


「おや? アリサ様ではないですか。いったいどうしたのです?」


 アリサが振り返ると商業ギルドの男性が立っていた。家を探していた時に協力してくれた人だ。


 今にも泣きだしそうな様子で絶望していたアリサにとって、急に現れた男性が救いの神のように見えた。



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