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ついに3万字超えました(^^;)
翌朝。
リビングに家族が集合したタイミングでアリサが訴えた。
「昨日、わたくしはとても怖い目にあったのです。それなのにお父さまやお母さまは扉を叩いても、呼びかけても起きて下さらない。ケリーのところに行っても同じだったわ。どうしてわたくしを助けてくれなかったの?」
「アリサが寝ぼけていたんでしょ? さすがに扉を叩かれたら起きるわよ」
ミレイアは興奮しているアリサに、焼き立てのパンを食べながら答えた。
ケリーは困った顔してミレイアのカップに紅茶を注いでいるし、デュークもミレイアの言い分を信じていて、アリサをチラッと見た後に食事をしている。
「寝ぼけてないわ。ハッキリ見たの。ローブを着た男の人を。それにまた隣から音がしてたわ」
「騎士団が調査してたし、遺体も回収したんだから、やっぱりアリサが寝ぼけていたんじゃないのかい?」
デュークは引き下がらないアリサに諭すように言った。
「わたくし、寝ぼけてないわ。絶対にあれは夢じゃありません!」
アリサは昨夜、確かに聞いたのだ。
ドン! ドン! ドン! …………ドン! ドン! ドン!
誰もいない筈の隣の部屋から壁を叩くような音を。
アリサは不貞腐れて朝食を食べ終えると、自室に戻った。
机に向き合うように椅子に座り、考えを巡らせる。
このままでは今夜も同じことが起きるわ。
また起きたら、おちおち寝てられない。そんなの嫌よ!
音の正体を突き止めたら、お父さまやお母さまもわたくしが正しいとお認めになるに違いない。
きっとそうよ。
休むことなく学校に行ったが、ずっと上の空だった。
友達との会話も曖昧に返事してやり過ごし、学校が終わるのを待っていた。
いつもと同じ帰宅する道を歩いていると、後ろから視線を感じたので振り返る。商業ギルドの職員のバーンズも同じ方向に歩いていて目が合った。確かに目があったはずなのに、彼は挨拶もしないで、曲がり角を進んで見えなくなった。
わたくしの気のせいでなければ、睨まれたような。
ううん。きっと気のせいよ。
だってあの方はとっても親切な人ですもの。
アリサはそれ以上考えるのを止めて家路を急いだ。
家に戻ったアリサは誰にも悟らせないで計画を実行することにした。
家族が寝静まった夜中に抜け出して304号室で音の正体を確認する。
もしかしたら騎士団の方が調査のために部屋を訪れた時の音かもしれない。もしくは商業ギルドの人が作業していたのかも。
アリサの推測が合っていたとしても、黒いローブの男が現れた理由を説明出来ないことに気が付いていなかった。
夕食後、夜中まで眠らないようにやり過ごした。
自分が納得する理由をつけて304号室へ確かめに行くために、そーっとドアを開けて外に出た。
もしアリサに冷静な判断力があれば、自分の行動が愚かだと分かっていたのに、自分が考えた希望にすがるしかなかった。
それほどにアリサは昨夜の出来事を恐れていた。もう二度と体験したくないと思っている。
ゴミ出し用の木箱を両手で押して、304号室のドア近くにある小窓の下まで運ぶ。音を立てないようにゆっくり上に登り、恐る恐る室内の様子を覗き見てみた。
何も見えなかった。部屋の中は真っ暗で、なんの気配もない。
どうしようか迷ったが、暗視の魔術を使うことにした。魔力がそれなりに減るけど、いざとなれば家は隣だからと納得して。小声で呪文を唱えると、右手の指にはめてあった指輪が、アリサの魔力に反応して淡く光る。
うーん。音はしてなさそうね。それに誰もいないみたい。
そう思った直後、部屋の奥で人影らしきものが、音もなく通り過ぎるのが見えた。驚いたアリサはバランスを崩し、木箱から落ちて尻もちをついた。恐怖に震え、足に力が入らなかったが、なんとか起き上がり家に逃げ帰った。
家族が起きても構わないと思い、ドアをバタンと閉めて、ドタドタ足音を立てて自室まで戻った。そのままベッドに飛び込むと、頭から布団をかぶった。余計なことは一切考えず、楽しかった頃の思い出を追想した。そうでもしないと恐怖に負けそうだったから。それがアリサにできる精一杯の抵抗だった。
ベッドに入ってから1時間経ったのに起きていた。早く寝たいのに、寝れないもどかしさで苦しんでいた。一瞬、さっき見た黒い影が頭を過った。ミイラの遺体の幽霊が昨夜見た黒いローブの男ではないか。未練があって徘徊しているんじゃないかと。考えないようにしてたのに考えてしまい、恐怖で背筋が震えた。
翌朝。
昨日と同じようにリビングに集まった家族に自分が体験したことを説明した。
「お父さま、お母さま、聞いてください。昨夜わたしく見ました。見たのです。隣の部屋で人影を。もう一度騎士団に調査を要請してくださいませ」
「アリサ、少し落ち着きなさい。はしゃぎ過ぎですよ。貴族の娘としてはしたない」
ミレイアは朝食の時間なのに席に座らず、昨夜のことを必死に説明するアリサに対し、興奮状態で品位にかける所作を気にして、アリサの話を真剣に聞いていない。
「お母さま、ちゃんと聞いてくださいませ。人影が見えたのです」
「例の事件のショックが抜けてないのかな。精神魔術を使えるお医者様に診てもらおう」
デュークもアリサの話を信じておらず、事件が原因で混乱状態にあると思っていた。
アリサとの話題を切り上げると、デュークとミレイアは領主主催のパーティーについて楽しそうに会話していた。
自分の話に真剣に聞いてくれない両親にショックを受けて、朝食も食べずに自室に戻った。
部屋に戻ったアリサはベッドの上に置いているぬいぐるみを手に取ると、自分だけが取り残された孤独感を埋めるようにぎゅうっと抱きしめ続けた。
そうでもしないと泣いてしまいそうだったから。
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