偽りの聖女、断罪。
それからユシリスはその場で話し合いを行い、
「もしかしてドラゴンは肉食ではないのでは?」
という考えで一致した。
ミールにナッツパン以外にも、香草パンやベリーを練り込んだパンを焼いてもらい、
試しにドラゴンに献上してみると、ドラゴンはにやりと微笑んでそれを平らげ、
満足そうにまた寝てしまった。
人に危害を加える様子もないため、何人かを様子見として残し、一旦全員が王城へ戻ることとなった。
ユシリスはミールとシムレルを自分のテントに呼び、今までの経過を伝えた。
「今回はお前たち二人のおかげで本当に助かった。礼を言う」
「そんな、私はパンを焼いただけですし……」
「ドラゴンさえ魅了するパンをな」
「シムレル、あんまりからかわないで」
ミールがムッとしてシムレルを睨む。
お玉でミールを守ったシムレルと、パンでドラゴンを懐柔したミールは、一躍時の人となった。
「それで……聖女様はどうなるんですか?
僕、お玉当てちゃったんですけど、お咎めとかあるんでしょうか……」
「シムレルへのお咎めなんてあるわけない。
アイツは護衛たちを嘘の情報で危険に晒しただけでなく、一人で勝手に逃げて、後方部隊まで巻き込もうとしたんだ。許す気はない。
……護衛の話だと、“癒しの力”も急激に弱くなっているらしい。
ドラゴンに傷つけられた護衛の治療をしようとしたら、今までと勝手が違ったらしい」
ユシリスはスッと目を細めた。
「なんにせよ、王城に戻り次第、なんらかの処罰を与えることになるだろう」
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「なんでこんなことに……」
アユナは王城に戻る途中も、テントや宿泊所で閉じ込められていた。
今までは少しお願いすれば何でも言うことを聞いてくれていた護衛たちも、今ではほとんど話を聞いてくれなくなった。
「どうして光が見えないの……?」
落馬して気を失い、気づいた時にはテントの中で眠らされていた。
護衛たちの怪我を治して点数稼ぎをしなければ自分の身が危ういと思い、起きて早々治療にあたったが、今まで見えていた“光”がほとんど見えなくなっていたのだ。
護衛たちの骨折は治らず、傷も塞がっても跡が残る。
今まで熱のこもった視線を向けてくれていた護衛たちの目は、冷え冷えとしていた。
それからは誰もアユナに話しかけてこなくなり、ずっと閉じ込められている。
「折角すべてが上手くいっていたのに!!
ラノッテ伯爵の嘘のせいよ!! 絶対に許さない!」
どうせ物を投げても誰も来ない――
アユナは手当たり次第に物を投げつけ、鬱憤を晴らした。
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王城に戻ってすぐ、聖女アユナについての会議が開かれることとなった。
ミールとシムレルはユシリスをよく助けたとして、特別に同じ場にいることを許された。
元護衛たちに囲まれたアユナが議場へ入場する。
(遠征中と違って大人しいじゃない……)
ミールの視線の先では、アユナが意気消沈した様子で項垂れていた。
ユシリスが口を開く。
「聖女アユナに対し、ドラゴンに関する虚偽の報告、戦場からの脱走、前聖女の死後の入れ替わり、そして私への毒殺疑惑がかけられている」
「……そ、そんな……」
アユナが弱々しく反応する。
「まずはドラゴンに関する虚偽の報告だ」
「そんな!本当なんです!私にはハッキリと見えました。ドラゴンの喉元の黒い光が……!!」
「……聖女は“癒しの力”を使うための黒い光しか見えない、と神殿から報告を受けている。
さらに、聖女の文箱からラノッテ伯爵からの手紙が見つかっている」
(処分し忘れた!!!)
ラノッテ伯爵が連行されてくる。
丸々と太った男で、お腹のボタンが今にもはち切れそうだ。
しきりに流れ出る汗を拭いている。
「わ、わたしは家の文献にあった情報を聖女様にお伝えしただけで……信じるかどうかは聖女様のご判断でございます」
「ほう。そうか。では、お前の産地のワインに催淫剤が入っていた件について、申し開きはあるか?」
「は、はて……わたしどものワインにそのような……!
聖女様が使っていたのだとしたら、ご自分で入れられたのでしょう」
「!! この……!!」
アユナが飛びかかりそうに身を乗り出すが、元護衛たちに強く押さえられる。
「申し開きは以上か?
お前の屋敷の地下から、同じ催淫剤入りワインが大量に見つかったと報告を受けている。
後でゆっくり聞かせてもらおう」
「!!」
ラノッテ伯爵はさっきとは打って変わり、真っ青になった。
ユシリスは続ける。
「聖女アユナは加えて戦場から勝手に脱走し、我々を混乱に陥れた」
「……恐ろしくなって、どうしようもなかったのです……」
「いつも守ってくれていた護衛たちは、お前の言葉に従って大怪我を負ったんだがな」
「……」
元護衛たちはギロリと冷たい視線でアユナを睨む。
ミールとシムエルの横にはギブス姿の護衛や、包帯を痛々しく巻いた護衛たちが複数並んでいた。
「まだ骨折は治らず、傷跡も消えていない。
今までは完治させていたのだろう?
力が弱まっている証拠だ」
アユナは唇を噛みしめた。
「そして最後に、前聖女の死後の入れ替わりだ。
細かい時期は調査中だが、前聖女が体調を崩して表に出なくなった頃だろう。
その時期に、前聖女の側女や側近たちが一度に解雇されていたことも判明している。
よくこれだけ似た人物を連れてこられたものだ」
「……わ、私は……ただ皆の役に立ちたくて……国のため、殿下のために……!」
アユナはハラハラと涙を流し始めた。
以前なら、各方面から慰めの言葉が飛んできただろう。
しかし今は皆、白けた顔でそれを眺めるだけだった。
ユシリスは鼻で笑った。
「何が“私のため”だ。白々しい。
資金集めの後に豪遊していたことも調べがついている」
場が静まり返る。
「聖女アユナ。
お前は聖女としての責務を果たさず、
虚偽の報告で兵を危険に晒し、逃走した。
さらに、聖女を語った罪も加える」
「ーーーそんな!!」
張り詰めた空気の中、ユシリスの声が朗々と響く。
「よってーーー
聖女の称号は剥奪。
癒しの力がどうなるか監視した後、
北の端にある修道院で、生涯の奉仕活動を命じる」
アユナは膝から崩れ落ちた。
(私が……私がそんな目にあっていいわけがない!!)
「私が聖女なのです!!!!」
「力を失った虚偽まみれの“元”聖女だ。連れていけ」
「殿下!! 殿下!! どうかお考え直しを!!」
元護衛に強く押され、アユナは引きずられながら退出した。
「どうして……どうしてなの……?
全部、うまくいっていたのに……」
ぶつぶつと呟くアユナに、誰も返事をしなかった。
明日の19時に、いよいよ最終回(大団円)を投稿します!
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