嬉し恥ずかし大団円!
聖女アユナが議場から連れ出され、帰還直後ということもあり細かな報告は後回しとなった。
ユシリスはミールとシムレルを伴い、ようやくパネラに会えることになった。
「パネラ!!」
「ユシリス様!!」
二人はひしと抱き合い、熱い再会の抱擁を交わした。
ミールとシムレルは、侍女たちと同じく壁と同化するように気配を消す。
「よくぞご無事で……怪我などもないと聞いていますが、本当にないのですよね?」
「ああ、大丈夫だ。パネラからの手紙もあって、毎日恙なく過ごせた」
「お忙しいのに、わたくしにも手紙をくださって……本当に嬉しかったです」
パネラの笑顔に、ユシリスの疲れは一瞬で吹き飛んだ。
「毎日シムレルとミールの食事が食べられたのも大きかった」
「心配しておりましたが……ミールもシムレルも元気に帰ってきてくれて、本当に良かったわ」
パネラが二人を労う。
ミールは久々に見る美少女の笑顔に、先ほどの聖女の一件でささくれ立っていた心が癒されていくのを感じた。
「二人には後日、報奨を出そうと思う。食事だけでなく、ドラゴンの件でも大活躍だったのだ」
「そのことを手紙で知って、どれほど驚いたか!
ぜひ詳細をお聞きしたいですわ」
「ほ、報奨……?!」
「僕なんか、お玉投げただけなんですが?!」
二人は目を合わせて慌てふためく。
「はっはっは。謙遜するな。今回遠征に行った者たちは皆、聖女ではなくお前たちのパンとスープの虜になってしまったな」
「ふふふ……聞いていたら、わたくしも食べたくなってきましたわ」
「パネラ様のためなら、いつでも焼きます!」
「僕はちょっと休みたいです……」
ドッとその場が笑いに包まれ、その後に解散となった。
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ドラゴンはその後も人間を襲うことはなかった。
しかし味をしめたのか、ミールのパンが欲しくなると、警戒に当たっている兵の近くへわざとのっそりと近づき、じーっと見つめるようになった。
そうなると兵は慌てて王城に報告書を書き、
ミールのパンが超特急で届けられるルートが開拓された。
しかもドラゴンはやはり草食のようで、
香草入りのパンやベリーを練り込んだパンを好むらしいと、兵や研究者から伝えられると、ミールはさらに張り切って色々なパンを送るようになった。
「ねえ!ドラゴンにも大好評って宣伝して、
ドラゴンの形に似せたパンを焼こうかしら?!」
「……それ、今まさに始まろうとしてる式典の前に考えることか?」
そう、今日はドラゴンと友和を結んだことを祝う式典が王城内で行われ、
その後にはパレードも開催される。
ユシリスとパネラが出席するのはもちろん、
ミールとシムレルも立役者として参加することになっていた。
今日は二人ともパリッときまった服装だ。
「あー……口からスープが出てきそう……」
「あれ?緊張で朝ごはん食べられなかったんでしょう?」
「……なんでミールは緊張してないわけ」
「私の緊張なんかより、
パネラ様の美しい大輪のバラのようなお姿が見られるかもしれないことが楽しみすぎて」
「あっそ……」
式典開始の合図となるラッパが鳴り響き、
シムレルは青白い顔のまま、
ミールは興奮して上気した顔で正面を向いた。
ユシリスがパネラの手を引いて入場し、
会場の中央に立った。
「今日はドラゴンとの恒久の友和を祈念し、式典とパレードを開催することとなった。
遠征時には思いもよらなかった平和的解決となり、私も大変嬉しく思っている。
今回、特に活躍した二人を紹介したい。
シムレル、ミール、前へ」
二人は静かに、できるだけ早く壇上へ上がった。
「スープ屋のシムレルとパン屋のミールは、遠征における調理部隊として兵たちの士気向上に貢献した。
さらにドラゴンにパンを献上したことで、今回の友和につながった。
これからは王室御用達、そしてドラゴン御用達の看板を掲げることを許可する」
ワーッと会場が盛り上がり、大きな拍手が起こる。
壇上の四人はそれに手を振って応えた。
続いてパレードのための馬車に乗るため、外へと誘導される。
ユシリスとパネラは伝統ある格式ばった馬車だったが、ミールとシムレルに用意されたのは、屋根がなく、代わりに巨大なパンやスープカップのモニュメントが飾られた馬車だった。
「可愛い!!」
「こ、これに乗るのか……?!」
シムレルの顔がさらに真っ青になる。
「ね、シムレル、早く乗ろう!座席もひねりパンみたいになってる!」
ミールにぐいぐい引っ張られ、シムレルはヨロヨロと馬車に乗った。
乗車が済むと、ゆっくりとパレードが開始された。
城下は花やドラゴンの可愛いぬいぐるみで飾り付けられ、パネラとミールは目を輝かせる。
シムレルはピョンピョン飛び跳ねる自分の両親と、ミールの両親を見つけてしまい、思わず顔をクッションで隠した。
逆にミールはブンブン両手を振り回して、両親に満面の笑みを向けた。
城下中が華やかで輝かしいイベントで賑わうその片隅で、
元聖女アユナの修道院への護送が、静かに行われようとしていた。
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「聖女アユナよ、悪かった! 私が間違っていたのだ!」
「殿下、いいのです! 間違いは誰でも犯しますわ」
アユナはユシリスの胸にひしと抱き込まれた。
(そうよ……最後に勝つのは私なの!!)
ーーーガン! ガン! ガン!ーーー
「オイ、起きろ!!護送の時間だ!!」
パチンッーーー
「はっ……!」
「ったく、なんでこんな日に働かなきゃなんねえんだ」
髭を生やした護送担当者が、ドアをガンガン蹴ってアユナを起こした。
(さっきのは……夢……?)
アユナは一般の修道女が着る灰色の修道着姿で外へ出た。
黒い髪は手入れされずパサパサで、肌のハリも消え、以前の面影はすっかりなくなっていた。
外に止められた護送用の馬車へ向かう途中、
人々の熱狂する声や拍手が聞こえてきた。
「あー、俺も行きたかったぜ。パレードは殿下とパネラ様も出るらしいぞ」
「パンとスープの食べ飲み放題のイベントもやるって聞いたぜ」
(……殿下!!!)
アユナの足が華やかな方向へ向かおうとする。
「おっと、逃げるなんて許されねえよ。
特に今日みたいな日をお前に汚されたらたまらん」
アユナはロープで縛られ、護送車に押し込まれた。
「私が……私が聖女なのよ!
殿下もすぐにわかるわ!!
殿下のところに連れて行きなさい!!」
「はいはい、元聖女さま。それは無理な注文ですよー」
「私を誰だと……!!!!」
ーーーバタンッ! ガキンッーーー
護送車の扉が閉められ、南京錠が掛けられた。
「やれやれ、損な役回りだぜ……」
「終わったら一緒に酒でも飲もうぜ」
「そうだな」
男たちは馬車の前部に乗り込み、馬を走らせた。
その道中、護送車の中からは「私は聖女よ!」という叫び声が、いつまでも響いていたという。
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