【後日談】パン屋とスープ屋の未来計画
「いらっしゃいませー! 今日からドラゴンの焼印入りクッキー発売でーす!」
ミールが元気に開店を知らせると、外に並んでいた客たちがぞろぞろと店内へ入ってきた。
「新発売のクッキー五袋ください」
「毎度ありがとうございます!」
「ミール、パンが焼けた! 表に並べてくれ」
「OK!」
「グラタンパンありますか?」
「もう少しで焼き上がります!」
式典とパレードの日以来、ミールのパン屋はさらに繁盛していた。
ドラゴンにちなんだ商品も次々と発売し、客がひっきりなしに来る。
夕方になる前にすべて売り切れ、店を早めに閉めるのが最近の常だった。
店を閉めると、ミール一家は徒歩でシムレルのスープ屋へ向かうことが増えた。
以前はスープとパンのセットの売れ行きを確認するだけだったが、
最近はスープを食べながら客の感想を直接聞いたり、
客が途切れればシムレル一家と交流したりしていた。
「いらっしゃいませ! あ、ミールか。おーい、親父、ミールん家来たぞ!」
「お、来たね来たね! 今日のも自信作なんだ。ゆっくり食べてってくれ」
「よう! 繁盛してるな! ありがたい。いただくよ!」
父親同士はすっかり飲み友になっており、太い腕を互いに絡めて挨拶した。
「相変わらず暑苦しいなぁ〜」
「いいじゃん、仲がよくて」
「まあ、いいんだけどさ。
はい、“ドラゴンパイが降り立つクラムチャウダー”お待ち」
「やったー!」
今回二人が挑戦したのは、クラムチャウダーのポットパイ。
上に載せたパイをとぐろに巻き、顔を描いてドラゴンにしたのだ。
パイのサクサクとシチューのとろみが合わさり、大人気となった。
「あふっ……ふーふー……美味しい〜!」
「ゆっくり食べなよ」
ミールが美味しそうに食べ始めるのを確認すると、
シムレルは他のテーブルのサーブに移った。
ミールが食べ終わる頃には客足もまばらになり、
二人の父親はお酒を飲みたそうにそわそわし始めた。
母親二人は「しょうがないわねぇ」と言いながら店の端に父親たちを座らせ、
慣れた手つきで店を回し始めた。
「シムレル! ミールちゃんを家まで送ってあげなさい。
ミールちゃん、なるべくお父さん早く帰すからね」
「はーい」
「いつもすみません。朝の用意は結構任せてもらえるようになったんで大丈夫です」
ミールはシムレルの母親にペコペコ頭を下げ、
「お夜食にでも」と袋入りのドラゴン焼印クッキーを渡した。
「明日ってドラゴン定期便でパンを送る日?」
「そうなんだ。ちょっとジャムパンを試そうかなって。いろんなジャムパンを作るつもり」
ドラゴン定期便では、ミールのパンを定期的にドラゴンへ送り、研究者が様子を観察して結果を報告してくれるようになっている。
果物も好きかもしれないということで、今回色々と試すことにしたのだ。
「すっかり有名人だな」
「いやいや、シムレルん家だって“幸運のお玉スープ屋”に改名して繁盛してるじゃん」
「反対したのに……親父が……!」
シムレルは“時の人”ならぬ“お玉の人”として有名になり、そのお玉でかき混ぜたスープを飲めば幸運になる、と噂になっている。
「あの時のシムレル、かっこよかったな〜」
「お玉投げただけなのに……!」
「また言ってる!」
ミールがケタケタと笑った。
「あのさ……
僕たち、一応偽装カップルとか殿下に言われて、遠征中もそんなていで過ごしただろ?」
「そういえばそうだったね」
「……周りに“いつスープ屋とパン屋は一緒になるの?”とか聞かれないか?」
シムレルの顔が真っ赤になり、口調がしどろもどろになる。
「え!シムレルもしかして嫌だった?!」
シムレルがどっと脱力する。
「い、嫌とかじゃなくて……」
「私全然気になってないよ」
シムレルがさらにガクリと肩を落とす。
しかしミールの手を握ると、ミールを引っ張りズンズン前へ進みながら話を続けた。
「僕は良い案だと思ってる。
スープ屋とパン屋をミールと一緒にするの」
「え……?」
「だーかーらー。
僕とミールで一緒にお店をするんだよ!
もう僕はさ、ミールがいないなんて考えられないし。
スープにパンがつくのが最高なのは、もうわかってるだろ?」
「!」
後ろから見えるシムレルの耳は、さっきよりさらに赤くなっていた。
ミールも嬉しさと興奮で頬が赤くなる。
「うん、うん! 最高だよね!
私、毎日シムレルのスープが飲みたい!
もうお父さん達も、店を合体させてリタイアした後のこと話してるし大丈夫だよ!」
シムレルは歩みを止め、振り返って目を点にさせた。
「え?……合体? リタイア?」
「そうそう! 店を一緒に大きくして、パン屋とスープ屋は私とシムレルに任せて、
うちとシムレルの両親で店舗の横で宿屋をやるって。
皆年取ったらお店をやるのはシンドくなるしって」
「い、いつの間にそんな話に……!!」
「シムレルとゆっくり話すことなかったし、実は嫌だったって言われるのかと思ってドキドキしちゃった」
ミールがニコニコして話すので、シムレルの毒気も抜かれてしまった。
「……まあ、僕もミールの焼きたてのパンが毎日食べられたら、それでいいや」
二人の目に同じ感情が宿っていた。
シムレルはミールと手をつなぎ直す。
「いつか一緒に店が持てるといいな」
「今からいっぱいアイディア貯めておこう!」
二人はお互いの体温を感じながら、将来の話に花を咲かせた。




