【後日談】王子と令嬢の甘いクッキー
ユシリスは遠征の報告、聖女アユナの処分、記念式典の準備と対応に奔走し、ようやくパネラとゆっくり過ごせたのは、かなり時間が経ってからのことだった。
「パネラ欠乏症でもう駄目だ……」
「この書類の決裁が終わりましたら、お茶の時間にパネラ様が来てくださるそうです」
「それを早く言え」
側近の言葉に、ユシリスは一瞬でやる気を取り戻した。
さっきまでゲッソリしていたとは思えない速度で分厚い書類を確認し、最後にサインを入れると、どうだと言わんばかりに側近を見た。
「パネラ様は既にお待ちです。お疲れの殿下に移動していただくのは悪いとのことで、こちらにお呼びしてもよろしいですか?」
その言葉を聞くや否や、ユシリスは足取り軽やかにパネラを迎えに向かった。
「パネラ、待たせたな」
「いえ、お仕事が立て込んでいると伺っています。お疲れなのでは?」
「パネラの顔を見たら疲れが吹き飛んだ。だから大丈夫」
「……もう」
ユシリスはパネラの横に座ると、小さい頃のように膝枕をせがんだ。
パネラが断れるはずもなく、恥ずかしさで頭が沸騰しそうになりながらも、なんとか耐えて膝を差し出した。
「あ〜……このために生きている」
「何をおっしゃるやら」
「本当だ。パネラがいるからこそ、民を思い、国をよく治めようと思えるのだ。
テーブルの上に文箱が見えるだろう?
あれはパネラからの手紙を見やすく、傷めず収納するために特注した文箱だ」
「まあ……」
ユシリスは目を閉じ、パネラの膝を堪能しながら続ける。
「装飾はパネラの美しい金の髪をイメージした流線を中心に、瞳の色に合わせたアクアマリンを散りばめている。
中は、いつ届いた手紙かわかるように立てて収納できる仕切りをつけた。日にちを記入しておけば、読みたい文をすぐに取り出せる」
パネラは膝枕をしている上にそんなことを言われ、頬を上気させた。
「実はわたくし、十歳の誕生日に頂いた文箱をいまだ愛用しているのです。
あの時殿下が“大人になっても手紙がやりとりできるといいな”とおっしゃってくださって……本当に嬉しくて」
「!」
パネラが恥ずかしそうに話すと、ユシリスは感無量といった様子でパネラの手を握りしめた。
「ふふふ、実はミールがドラゴン様にジャムパンを作ったらしくて、そのジャムでジャムクッキーを作ってくれたのです」
ジャムは、いちごの赤、ブルーベリーの紫、オレンジの橙、キウイの緑と、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「毎回ミールの作るものには脱帽するな」
「シムレルは、このクッキーに合うバタースープを作るらしいです」
「次はそれを食べに、パネラと街に行くために頑張るか」
「わたくしも、それを楽しみに王妃教育を頑張りますわ」
「あ〜……幸せがどんどんやってくるなぁ」
ユシリスが本当に幸せそうに微笑むので、
パネラもユシリスの髪をそっと撫でながら、その幸せを噛みしめた。




