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【完結】パン屋の娘とスープ屋の息子、令嬢と王子の恋を守るため偽装カップルになりました  作者: もくずしょい


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7/10

嵐の前の静けさ?!

3日目の夜も野営だった。

焚き火のぱちぱちという音だけが、静かな夜に響いている。


ミールとシムレルは焚き火でマシュマロを焼き、ホットチョコレートに入れて飲んでいた。


「あ〜……生き返るわ〜……」


「それ、酒飲んだ時の反応じゃない?」


シムレルが楽しそうに笑う。


「しかし本当に聖女様、仕掛けてくるね」


「僕たちより殿下のほうがまいってそうだな」


「狙われてるのは殿下ですもんね」


「だったら、お夜食にホットチョコレート持って行ったらどうかな?」


「確かに。殿下、甘いもの好きだしな」


二人は良い具合に焦げたマシュマロを三つ入れ、

ホットチョコレートをユシリスのテントへ急いだ。


(あれ……?護衛がいない?)


ユシリスのテントは他より大きく、

普段なら入り口に護衛が一人、周囲に三人ほど巡回している。

しかし今は虫の音だけが響いていた。


「殿下、ミールとシムレルです。入ってよろしいでしょうか?」


「ああ、入れ」


返事を聞いて二人はテントに入った。


シムレルがマグカップを差し出す。


「お夜食に、ホットチョコレート・マシュマロ入りをお持ちしました」


「お、いいな。私は甘い物も好きだ。

なぜならパネラが甘いものに目がないからな」


ユシリスは嬉しそうに受け取った。


「それで殿下、周りに護衛がいないようですが……何か事情が?」


「何?!何も聞いていないが……」


その時、突然ふわっとテントの入口が揺れた。


(((え……)))


三人が入口を凝視する。


隙間から突然、聖女アユナが姿を現した。


「殿下……夜は冷えますわ。

もしよろしければ、わたくしがお側に……」


アユナは頬を赤らめ、髪をほどき、

普段の聖女衣とは違う、やけに軽装の羽織をまとっていた。


(しかも……なんか薄い……!

聖女というより……

っていうか夜に出歩くの危なくない?!)


「え……」


アユナはユシリス以外誰もいないと思っていたのだろう。

ミールとシムレルの姿を見て、愕然と固まった。


そして最初に叫んだのはミールだった。


「まあ聖女さま!!

なんてお姿で外に出ていらっしゃるんですか?!

テントをお間違えですか?!あらあらまあまあ!

大変!すぐ戻りましょう!!」


ミールはアユナの最初の言葉など聞いていない体でまくしたて、

アユナをぐいぐいとテントの外へ押し出した。


ユシリスとシムレルは茫然と見守るしかなかった。

ようやく動けるようになったシムレルは、青ざめた顔でぽつりと呟いた。


「聖女さま……ここまでするのか…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「では聖女様! 夜は冷えますし、暖かい恰好でお休みくださいね!

失礼します!」


ミールはそう叫ぶと、アユナのテントからささっと退出した。


アユナはギリリと歯を食いしばり、拳を握りしめる。


(あいつら……本当に邪魔!

なんでいつも殿下と一緒にいるわけ?!)


色んな物を投げつけたい衝動に駆られたが、

大きな音を出せば誰かが来てしまう。

アユナはフーフーと呼吸を繰り返し、なんとか落ち着こうとした。


(お貴族どもは、ちょっとした傷や家族の病気を癒すだけで

簡単にコロッと落とせたのに……

殿下だけはうまくいかない!どうしたら……)


アユナの周りを護衛している男たちも、皆アユナに心酔している。

今回の遠征も止められたが、

「どうしても殿下の力になりたい」と説き伏せ、

無理やり同行したのだ。


(あとは殿下だけなのに……!!

……そうだ!ドラゴン!!)


アユナは文箱をガサガサと漁り、

ラノッテ伯爵からの手紙を取り出した。


伯爵はいつも色々と送ってくる面倒な人物で、

手紙も流し読みするだけだった。

ワインや食材に詳しいだけでなく、

最近では「ドラゴンの弱点を文献で見つけた」と書いてきていたはずだ。


「喉の下の鱗が弱点……」


(これを戦いの場で“見えたふり”をして殿下に伝えるのはどうだろう?

それでドラゴンが倒せれば、きっと殿下も私を見直してくださるはず!)


気分の落ち着いたアユナは、ゆっくりと目を閉じ、

今後の計画を立て始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それからアユナからの接触はぱたりとなくなった。

食事でユシリスと同席しても、他の貴族や将軍と話すだけで、

ユシリスに近づくことも、ましてや話しかけることすらしなくなった。


「嵐の前の静けさ……」


「嫌なこと言うなよ」


今日も今日とて、朝食の準備のためミールとシムレルは早起きしていた。

シムレルは人参の皮むき、ミールはナッツを砕いてローストしている。


「良い香りだなあ」


「でしょでしょ。もうすぐ戦いって時だし、食事も楽しんでもらおうと思って。

ナッツを道中拾えて良かったよ」


「んー、時間があったら、ナッツを細かくすり潰してスープに入れてみたいな。

帰ったらちょっとやってみよう」


「美味しそう! いいねいいね!」


しばらくすると、ナッツのローストの香りに誘われて、

前に一緒に芋を剝いた年嵩の男が眠気眼で近づいてきた。


「おはよう!良い香りだ!二人とも毎日偉いなあ」


「おはようございます!今日はナッツ入りのパンを焼きますね」


「じゃあ俺も用意を手伝うよ」


他の調理係たちも集まってくる。

二人はすっかりその中に馴染み、


「前の王城でのパンとスープは絶品だった。毎日それが食べられるなんて、遠征も悪くない」

「二人とも息ピッタリで調理するから微笑ましい」

「将来二人で店を出すなら絶対行く」


といった好意的な話をいつもしてくれるようになっていた。


さらに驚きなのは、聖女にたむろっていたイケメン護衛たちだ。

“聖女から離れたら死ぬ!”という勢いだったのに、

最近は調理中に覗いてきたり、食事の感想を言ってきたりと、

最初の印象から変わってきていた。


(和気あいあいで嬉しいけど……ドラゴンにどんどん近づいてる。

パネラ様!どうかお守りください!)


ミールは心の中で、思い浮かべたパネラに向かってそっと祈った。



面白い、続きが気になると思ってくださった方は、下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると嬉しいです!読者の皆様の評価やブックマークが、執筆の大きな励みになります。よろしくお願いいたします。

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