コラボ商品爆誕でウッキウキ、のはずが不穏な影
それからのユシリスとパネラは、周囲が直視できないほどの“あっつあつカップル”になった。
ユシリスはパネラへの賛美を心の中だけでなく、ちゃんと口にするようになり、
パネラはそのたびに真っ赤になっていた。
「一件落着……」
ミールが店番をしながらぼんやり外を眺めていると、シムレルがパン屋にやって来た。
「こんにちは」
「シムレルさん、こんにちは!どうしたんです?今日は」
「いやー、あの日が終わってから、うちのお客さんにね。
『あのパンと一緒に食べたい』って何人にも言われちゃって。
もしミールさん家が良ければ、コラボ商品でも出さないかって」
「コラボ商品?!」
(なんか楽しそう!)
ミールは一瞬でその発想の虜になった。
実際、パン屋にも「あの日のパンがまた食べたい」という声が多く届いていた。
「うちは毎日日替わりスープを出してるから、それに合うパンを仕入れたいんだ。
もちろん“ミールさん家のパンです”って宣伝するよ」
「だったらうちはコーンポタージュを頂いて、それを使ったグラタンパンとか出したいです!
“シムレルさん家のスープを使ってます”って宣伝して」
二人は同時にフフフと笑い、ガシッと握手した。
「私のことはミールと呼んでください」
「僕もシムレルで」
それから二人のコラボ商品会議は苛烈を極めた。
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「そうそう、最近ね、聖女様が神殿で奉仕活動を再開なさったらしいよ」
ミールが常連のおばさんの会計をしていると、思い出したように話しかけられた。
「聖女様?」
「体調が優れなくてお休みしてたんだって。
私たちが平和に過ごせるのも聖女様のおかげだし、元気になられたなら良かったよ。
それじゃあね」
「あ、毎度ありがとうございます!」
(聖女様か……お祭りの時にチラッと見たことあったかな)
黒髪の聖女様は遠くからでもよくわかった。
民へ祝福をしてくれた時、頭上にキラキラ光る粒が降ってきたのだ。
(まあ庶民には関係ない話だね)
「こんにちは、ミール!」
ミールがそんなことを考えていると、パネラが店に入ってきた。
「あ、パネラ様!こんにちは!あれからどうですか?」
パネラは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「おかげ様で殿下に優しくして頂いているわ。
わたくしも言葉が少なかったと反省しているの。
今はお互いのことをもっと知って、仲良くしようって言ってるの」
「素晴らしいですね!」
「ふふふ、ありがとう。あら、新作パン?」
「そうなんです!シムレルとコラボ商品を出してて。
これはコーンポタージュを染み込ませたグラタンパンです。人気なんですよ」
「あら、なんて素敵なの。今日はこちらも頂こうかしら」
「シムレルのお店で今度、クラムチャウダーと塩クロワッサンのメニューを出すって張り切ってましたよ」
「クロワッサン……」
パネラの喉がごくりと鳴った。
「良かったら殿下と行ってみてくださいね」
「ええ、必ず伝えるわ」
パネラはグラタンパンを孤児院用も含め大量購入した。
「そういえばさっきお客さんと聖女様の話をしてたんですけど、パネラ様はお会いしたことあるんですか?」
「……わたくしも直接にはないわ。行事の時に挨拶するくらいね」
「そうなんですね」
「でも聖女様はとても素敵な方で、
どんなに人嫌いの人でも、聖女様とお話すると人が変わったようにお仕えするようになるんですって」
「え……」
(なにそれ怖い)
ミールはそう思ったが、失礼になると思い直接は言わなかった。
パネラは忙しいらしく、雑談を終えるとすぐに帰っていった。
(世の中にはいろんな人がいるもんだ。ま、関係ないけど)
ミールはそう思っていたが、
自分と全く関係ないと思っていたこの国の王子や侯爵令嬢と知り合いになっていることを、棚に上げていたのだった。
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しばらくは平和な日々が続いていった。
パネラは宣言通りユシリスをスープ屋に誘えたようで、後日シムレルが
「砂糖を吐きすぎて気を失うかと思った。どうせ来るなら一人ずつ来てほしい……」
と愚痴をこぼしていた。
その言葉を聞いたミールは、胸の奥がじんわり温かくなった。
ユシリスとの仲が順調に進んでいる証拠だからだ。
町の人々もすっかり“不仲だった”という噂を忘れ、
「我が国の美男美女カップル」として二人の麗しさを讃えていた。
しかし、そんな穏やかな日々も長くは続かなかった。
ある日、パネラが暗い表情でミールのパン屋にやって来た。
「いらっしゃいませ……って、パネラ様! 酷い顔色ですよ」
他に客はいなかったため、ミールはパネラを椅子に座らせ、温かいお茶を差し出した。
「どうかなさったのですか?」
パネラは震える声で答えた。
「実は……もうすぐ発表されるのだけれど……殿下が……殿下が遠征に行かれると」
「え……遠征?!」
「そうなの……国境沿いの森に大きな魔物が出たようで。ここで武勲を立てれば、即位にも良い影響が出るだろう、と……」
「そ、そんな……」
そこまで言うと、パネラははらはらと涙をこぼし始めた。
(パネラ様……せっかく仲良くなれたのに、もう離れ離れになるなんて……)
ミールはハンカチをそっと差し出し、少しでも元気づけようとパネラの手を握った。
「どれくらいの期間なんですか?」
「一ヶ月とは聞いているけれど……どうなるかわからないらしいの」
「寂しいし、心配ですよね……」
ミールの言葉に、パネラはぎゅっと唇を噛んだ。
「それで……何のご用かはまだわからないのだけれど、ユシリス様がミールとシムレルにお話があるそうなの。
忙しくて王城から離れられないし、来てほしい、と……」
「私とシムレルに?」
(一体全体なぜ……?
遠征のことで何かあるのかな……?
いや、でも私たち庶民に頼むことなんて……)
パネラは不安そうにミールの手を握った。
「わかりました!
お時間を決めていただければ、すぐにでも伺います!」
ミールが力強く答えると、パネラは少しだけ表情を和らげた。
「ありがとう……ミール。
殿下も、あなたたちなら……って言っていたの」
(殿下が……私たちを?
なんだか急に胃が痛くなってきたんだけど……)
ミールは内心で頭を抱えつつも、
パネラのためにできることは何でもしようと決意した。
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