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パン屋の娘とスープ屋の息子、令嬢と王子の恋を守るため偽装カップルになりました  作者: もくずしょい


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2/8

パン屋とスープ屋で各々恋の作戦会議

開放日は二ヵ月後とのことだったので、

ミールは両親とパンの種類について色々相談し、パネラも試作品の感想を共有してくれた。


その間に、ミールはパネラの話に出てくる婚約者についても色々聞いた。

曰く――銀色の髪はさらさらで肩につかないくらいの長さ、透き通ったエメラルドのような瞳、ほっそりした指先が目に入るだけで照れるらしい。

小さい頃は一緒にピクニックをしたり城下を訪れたりと仲睦まじかったが、十歳くらいから距離がどんどん開いてしまったのだという。


(思春期か?...しかしパネラさまの描写の仕方がキラッキラッなんだけど、

まさか王族じゃないよね?)


そんなことを考えながら、ミールは開放日のパンについて話を進めていく。


「やっぱり気楽につまめるように、一口サイズのほうがいいですかね」


「そうね。サンドイッチも種類が多いとワクワクしそうだわ」


「了解です。あ、今日は焼き菓子の試作品ありますよ」


ミールの言葉に、「役得ね」とパネラが微笑む。


(こんな美少女に想われて塩対応とか、相手は相当鈍感なのか、あるいはクズか……)


「そういえば以前伺った“お友達”は、婚約者さんにデートのお誘いの手紙を出せたんでしょうか」


「う……少し緊張してしまうらしくて。まだ出せてないらしいの」


「早めに出せるといいですね。お友達とかと先約ができちゃうと台無しですし。王城の開放日ってお祭りですもんね。毎年賑やかで」


ミールがちらっとパネラの顔を見ると、気落ちした様子で視線を落としていた。


「大丈夫ですよ!えーと……

最近二人で会えなくてさみしい、

良ければ開放日に二人で回れないか、

実は最近ハマってるパンがあって、開放日に出されるから一緒に食べたい、

良い返事を待ってます――みたいな感じでどうですか?難しいですかね……」


「ありがとう、ミール。

確かに長々と書いてしまっても気にされてしまうかもしれないし、そのようにアドバイスしてみるわ」


パネラは紙にメモを取ると、


「なるべく今日中に出すよう発破をかけます」


と真剣な顔で伝え、店をあとにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この国の王子であるユシリスは、

今届けられたばかりの手紙をじっと見つめていた。


引き出しからペーパーナイフを取り出し、震える手をなんとか抑えて開封する。


(ぱ、ぱ、ぱ、パネラからの手紙……!!!)


心の中では歓喜が湧き起こっているが、表情はなぜか不機嫌そうに見える。

封筒から手紙を取り出し内容に目を通すと、さらに動揺し、手が震え出した。


「な、なんてことだ……」


ガタッと椅子を荒く引くと、ちょうど用を済ませて戻ってきた側近が驚いてユシリスを見つめた。


「殿下、どうかされましたか?」


「すまない、急用だ。城下に降りる。護衛は誰が行ける?」


「承知いたしました。すぐに手配しますので少々お待ちください」


「ああ、ありがとう」


ユシリスは街歩き用の服に着替え、準備を整え、護衛と共に馬車で城下へ向かった。


「……いつもの所に」


御者も心得たとばかりに馬車をある店の近くまで走らせる。


「いらっしゃいませー!熱々スープ、すぐにお出しできますよー!中にはお席もございます!」


スープ屋の息子・シムレルは慣れた手つきで店先の大鍋をぐるぐるしていた。

今日のスープは甘めのコーンポタージュ。

奥には冷えたものも用意していて、好みに合わせて出している。


そこへ、睨むような顔つきのユシリスが近づいてきた。


「シムレル……」


ボソボソと何か言うユシリス。


「……でん……ユシィ、何言ってるかわかりかねます」


「ぱ、ぱ、ぱ、パネラから手紙が届いたんだ……!!!直筆の!!」


シムレルは「またか……」とジトッとした目でユシリスを見ると、店の奥にいた母親に休憩をお願いした。

二人は店の前の噴水の縁に腰かけ、シムレルはコーンポタージュを差し出した。


「で、手紙が来たって、良かったじゃないですか。

最近全然会えていないっておっしゃってたんですから」


「宝物庫に入れるか……」


「そういうのいいですから。で、返事は書けたんですか?」


ユシリスの持つコーンポタージュに大きな波ができた。

こぼれなかったが、シムレルはかなり焦った。


「そんなに動揺しなくても……」


「まだ書けてないんだ。何を書いていいかわからなくて……」


「そんな難しい内容だったんですか?」


「今度の開放日に、一緒に行かないかって。

パネラが好きなパン屋が来るらしくて、一緒に食べましょう、と」


「え!デートのお誘いじゃないですか」


「でーと……で、で、で、デート?!」


ユシリスの顔が真っ赤になる。


「死んでしまう……」


「死にませんよ。嬉しいくせに。

とりあえず今までの最悪の積み重ねがあるんですから、これは挽回するチャンスですよ。

返事は――お誘いありがとう、僕も君とぜひ行きたい、当日は迎えに行く――とかでいいんじゃないですか?」


「手が震えて書けないかも」


「代筆頼んだらどうですか?」


「私以外の男がそんな内容の手紙をパネラに書くなんて、私が許せると思うか?」


ユシリスが急にキリッとした顔をした。


「……そうですね」


(もう……なんなんこの人……)


シムレルはユシリスと出会った日のことを思い出した。


その日も店先でスープを混ぜていると、香りにつられてフラフラとイケメンが歩いてきた。


「いらっしゃいませ!本日のスープはトマトスープですよ!とろっとしててパンによく合います!」


営業スマイルで対応すると、そのイケメンはいきなりツーッと涙を流した。

ビビったシムレルは他の客に見られないよう、そそくさと店内に誘導し、母親に交代を頼んだ。


「すみません、湯気が目に染みましたか?」


「いや、トマトスープを見たら、パンと一緒に食べるパネラを思い出して……」


「え……パネラさんという人は、もしや、もう……」


「いや、さっきも見かけた。頭の先から爪先まで、どこを見ても美しく、歩く姿はどの花にも負けないくらい輝いていた。しかも、そんな彼女が私の婚約者なのだ。なんて幸運なんだろう…」


「そ、そうですか……」


(なんなんだ、このイケメン。心配して損した)


「そんな美しい人なんですね!元気ならいいんです。ではこれで……」


「元気で何より。だが私は今日もパネラに話しかけられなかった。幼き頃はトマトスープとパンを持ってピクニックにも仲良く行っていたのに、今はもう視線すら合わない……」


(面倒なことになったぞ!

とりあえず言いたいこと言わせて、さっさと帰ってもらおう)


「そんなに仲良かったなら、これから努力すればいい関係が築けるのではないですか?」


イケメンの目に輝きが戻る。


「そう思うか?」


「努力次第と思いますけど」


「もう少し詳しく話したい。トマトスープを一杯頂けるか?」


「え……毎度あり」


なぜか「そなたも食べろ」と言われ、シムレルはスープを飲みながらパネラさんの素晴らしさ、ユシリス自身の不甲斐なさを切々と語られた。

ユシリスは恐ろしいほど食べ方がきれいで、シムレルをギョッとさせた。


そうして話を聞くうちに、

このイケメンこそ、この国の王子・ユシリスであることが判明したのだ。

いつもおっとりしているシムレルも、さすがにその時ばかりはズッコケそうになった。


「そなたと話していると前向きになれる。また近々寄らせてもらう」


と言い、その通りにユシリスは度々スープ屋に顔を出すようになった。

毎回スープに舌鼓を打ち、お土産まで買っていく。

シムレルもそんな客を邪険に扱えず、話し相手になっていた。


しかもこのイケメンはこの国の王子、ユシリスであることが後に暴露されたのだ。

いつもおっとりしているシムレルもさすがにズッコケそうになった。


そして今回の手紙の話になったのである。


ユシリスはコーンポタージュを飲み干すと、ナフキンで口元をぬぐった。


「よし、シムレルと話して決心できた。これを機会にパネラに私の気持ちを伝えたいと思う。このままでは、け、け、け、結婚なんぞしたらどうなるかわからない。私はパネラを幸せにしたいのだ」


「よく決心なさいました!」


(これでお役御免かな?)


とシムレルが思っていると、ユシリスはニコニコして、


「では私は開放日にパネラのために、私の好きなスープを出そうと思う。

なのでシムレル、よろしく頼む」


「え……かしこまりました」


(とほほ、まだ全然お役御免にならないみたいだ)






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