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パン屋の娘とスープ屋の息子、令嬢と王子の恋を守るため偽装カップルになりました  作者: もくずしょい


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この棚からこの棚まで全部ください!?

連載二作品目です。宜しくお願いいたします!

ミールは城下町にあるパン屋の看板娘だ。

パンがこんがり焼けたような色の髪をおさげにしている。

生まれたときからずっと朝が早い生活で、早起きはまったく苦にならない。

今日もいつもと変わらず、朝一番から両親と一緒にパンを焼いていた。


焼きたてのパンの香りに包まれながら、

ミールはこっそり味見をして、店内に並べていく。


カランカランーーー


ベルが鳴り、客が入ってきた。


「いらっしゃいませー!」


「……この棚からこの棚までのパンを、全部いただける?」


ミールは思わず固まった。

そこに立っていたのは、縦ロールの金髪が眩しい美少女。


(え……本当に“全部ください”って言う人、いるんだ……

物語の中だけじゃなかった……)


「ま、毎度どうも!ありがとうございます!」


「配達もしていると伺ったのだけれど」


美少女は“配達します!”と書かれた張り紙をちらりと見て、ミールに尋ねた。


「はい!場所にもよりますが、配達いたします!」


「じゃあ、近くの孤児院に届けてほしいの」


「ああ、丘の上の孤児院ですね。歩いて行けるので、すぐお届けできます!」


「それで……」


美少女はもじもじと指を絡める。


(もじもじする美少女も可愛いな……

って、私なにオッサンみたいな感想してるの)


意を決したように、美少女が顔を上げた。


「バタークリーム入りクロワッサンだけ……

お持ち帰りさせていただけないかしら!!」


「えっ……も、もちろんです!」


ミールはその迫力に思わずのけぞったが、

(声まで美しい……)

と、呑気なことを考えていた。



――――――――――――――――――――――――



それから美少女――パネラは、二週間に一度ほどの頻度で来店し、

孤児院への配達を注文するようになった。

もちろん、クロワッサンも欠かさない。


どうやらクロワッサンは色々試しているらしく、

ジャムやハムを挟んだものを、いつも真剣な表情で選んでいく。


「今日はこれを持ち帰りでいただくわ」


「毎度ありがとうございまーす!」


(きっとお貴族様よね……

深入りしないほうがいいわ)


ミールは必要以上の会話を避け、

笑顔で接客することだけに集中していた。


だがその日、初めてパネラのほうから話しかけてきた。


「……ちょっとお伺いしたいのだけど」


「……はい」


「こちらのパンは、王城まで配達なさっているの?」


「少し時間がかかるので、料金は上がりますが……可能です」


「そうなのね。料金は大丈夫よ。

今度、王城の開放日があるでしょう?

その時につまめるようにできたらって思って」


(なるほど……優しいところもあるのね)


「それでよければ……あの、あなたの休憩時間があるなら、待ってるから……」


(美しくて優しくて気高くて……見た目も完璧)


「よかったら、少しお喋りできないかしら?」


(え……美少女が顔を真っ赤にして私に声をかけてきた……)


現実逃避しかけたミールだったが、

あまりにもいじらしい様子に、


「私でよければ」


と即答した。


ミールの両親も、パネラが大量にパンを買ってくれる太客だと理解していたので、

すぐにミールに休憩をくれた。


二人はパン屋の前の広場のベンチに腰掛けた。


「私はパン屋の娘で、ミールと申します。

いつも買っていただいてありがとうございます」


「わたくしはパネラというの。急にごめんなさいね」


「いえいえ、お近づきになれて嬉しいです。

あの、このクッキー、母が一緒に食べるようにって……いかがですか?」


「まあ、ありがたいわ」


(クッキーの食べ方まで上品……)


ミールはちらりとパネラを見ながら、もぐもぐと口を動かした。


「実は……ずっとあなたと友達になりたいと思っていたの」


「え?私と?」


「いつも愛想が良いし、きびきび働いているし。

売っているパンも美味しいし」


(パンはほとんど両親が作ってるんだけど……)


「そう思ってもらえて嬉しいです」


「それで……突然で申し訳ないのだけど、相談に乗ってほしくて」


(ふむふむ……悩ましい横顔も美しい)


「私でよければ……」


「実は、わたくしのお友達の話なのだけど……

その方には婚約者がいらっしゃるの。

でも最近、その婚約者がそっけなくて……

挨拶だけで、交流も減ってしまっているの」


(婚約者……使ったことないワードだわ)


「そのお友達さんは、婚約者さんのことをどう思っているんですか?」


「小さい頃に決められたものだし……

今まで特に不満に思ったことはない、と」


「難しいですね……

まさか婚約者さんに、憎からず想う方が……」


―――ガタッ


パネラが突然立ち上がった。


「ま、ま、まさか、そんな……!」


そんなこと微塵も考えていなかった、という顔で完全に動揺している。


「いや、可能性の話です、可能性の。

すみません、ちょっと聞いただけでそんなこと言っちゃって」


「そ、そうよね……ごめんなさい、はしたない態度をとって」


(この動揺ぶり……

これはパネラさま本人の話なのでは……?)


「でも、仮に他に好きな人ができたとしても、

婚約者にそんな態度をとるなんて、大人げないと思いますよ。

お互い話し合って、良い方向にいくといいですけど」


「そうよね……でも、なかなか二人きりになれないみたいで……」


パネラの目が少し潤む。

ミールは美少女の憂い顔にオロオロした。


「えっと……王城の開放日に、うちのパンを一緒に食べてもらうとかどうですか?

腕によりをかけて作るんで、絶対美味しく仕上げます!

美味しいものを一緒に食べて、気持ちを共有したら……

少し話をしようって前向きになれるんじゃないですかね」


ミールの言葉に、パネラはぱちぱちと瞬きをした。


「確かに……確かにミールのパンは美味しいもの」


「まあ、できたらいいな、くらいで聞いてください」


「ありがとう……優しいのね」


パネラの笑顔が眩しくて、ミールの胸に刺さる。


(ごちそうさまです!)


「パネラさまを元気づけるのに、今日は私が作るのを手伝ったクロワッサンサンドをプレゼントします!」


「ええ?そんな……」


「お得意様ですしね。今後もごひいきに!」


ミールのひょうきんな態度に、パネラはくすくす笑った。


(やっぱり美少女は笑顔が一番)


この時はまだ、

ここに出てきた「お友達」と「婚約者さん」と

ながーい付き合いになるとは、ミールは微塵も考えていなかった。





面白い、続きが気になると思ってくださった方は、下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると嬉しいです!読者の皆様の評価やブックマークが、執筆の大きな励みになります。よろしくお願いいたします。

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