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「精霊が見えるのは俺だけ、魔力ゼロの少女と始める異世界スローライフ」  作者: れいじ


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第9話 この家の匂い

持ち帰ったものを、形にする。

そして――誰かと分ける。

持ち帰った鉱石は、見た目以上に重かった。


「これ、本当に使えるの?」


 アイラが不思議そうに覗き込む。


「ああ。これがないと話にならない」


 シュンは軽く頷く。


 料理をするには道具が必要だ。


 そして、その道具には金属がいる。


「まずはこれを使える形にする」


「誰に頼むの?」


「……ドイルだと思ってたが」


「それならキースさんかな」


「キース?」


「金属を扱う人。ドイルさんに渡す前の仕事をしてるの」


 なるほど、とシュンは頷く。


 役割が分かれているらしい。


 


 キースの家は、ドイルの家よりもさらに奥にあった。


 小さな炉と、黒く煤けた道具が並んでいる。


「キースさん」


 アイラが声をかける。


 中から出てきたのは、筋肉質で無口そうな男だった。


「……なんだ」


「これ、見てほしくて」


 鉱石を差し出す。


 キースは無言で受け取り、しばらく見つめる。


 指で軽く叩く。


 音を聞く。


「……使えるな」


 短く言った。


「量は少ないが」


「十分だ」


 シュンは即答する。


「包丁と、鍋と、フライパンが欲しい」


 キースの眉がわずかに動く。


「欲張るな」


「足りないよりいい」


 少しだけ間。


 そしてキースは小さく息を吐いた。


「……やってみるよ」


「頼みます」


 それだけで話は終わった。


 


 数日後。


 シュンの家の前に、ドイルが立っていた。


「できたぞ」


 それだけ言って、中に入る。


 手には道具があった。


 包丁。


 鍋。


 フライパン。


 そして、木で作られたまな板。


「……おおー、オーダー通りだ」


 シュンは思わず呟いた。


 手に取る。


 重さ。


 バランス。


 すべてがちょうどいい。


「これならいける」


〈ライオス〉「やっとまともになったな!」

〈ノクス〉「効率が上がる」

〈フローラ〉「楽しそう」


「うるさい」


 だが、顔は少しだけ緩んでいた。


「ありがとう」


「礼はいい」


 ドイルは短く言う。


「その代わり、アイラが言ってたんだが」


「何?」


「料理だ」


 その目は真剣だった。


 職人の目だ。


 シュンは小さく笑う。


「わかった」


 


 その日の夕方。


 シュンの家には、少しだけ人が集まっていた。


 ドイル。


 キース。


 そして、それぞれの家族。


「こんなに集まると思ってなかった……」


 アイラが小さく呟く。


「いいだろ、ちょうどいい」


 シュンは準備を進める。


 今日の食材は、アイラの畑のもの。


 トマトに似た野菜。


 香草。


 小麦。


「……よし」


 火をつける。


 包丁を持つ。


 刻む音が響く。


 リズムよく。


〈ライオス〉「もっと火上げろ!」

〈フローラ〉「それ焦げる」

〈ノクス〉「今ので十分だ」


「全部聞かねえ」


 笑いながら手を動かす。


 鍋に油。


 野菜を入れる。


 香りが立つ。


「……いい匂い」


 誰かが呟く。


 麺を作る。


 伸ばす。


 切る。


 茹でる。


 すべてが繋がる。


「これが……料理か」


 ドイルが低く言う。


「見たことないな」


 皿に盛る。


「できた」


 並べる。


 簡単なパスタ。


 だが――


 それで十分だ。


「どうぞ食べてみてください」


 静かになる。


 誰もすぐには手を出さない。


 そして――


 一口。


 止まる。


「……なんだこれ」


 キースが呟く。


 もう一口。


「うまい……」


 その一言で、空気が変わる。


 一斉に食べ始める。


「こんな味……知らない」

「これ、同じ野菜か?」

「全然違う……!」


 驚きが広がる。


 シュンはそれを見て、静かに息を吐く。


「……いい反応だな」


〈ライオス〉「だろ?」

〈フローラ〉「嬉しい」


 アイラは隣で、少しだけ誇らしそうに笑っていた。


「シュン、すごいね」


「まあな」


 軽く答える。


 だが内心は違う。


 久しぶりだった。


 誰かに食べてもらう料理。


「……また作ります」


 ぽつりと呟く。


 それを聞いたキースが顔を上げる。


「材料、持ってくる」


 短く言う。


 ドイルも続く。


「俺もだ」


 その言葉に、周りも頷く。


「うちの野菜も使ってくれ」

「明日持ってくる!」


 声が重なる。


 シュンは少しだけ笑った。


「……増えるな」


 だが、嫌じゃない。


 むしろ――


 楽しい。


 気づけば、家の中は賑やかになっていた。


 笑い声。


 会話。


 食べる音。


 静かだった家が、少しずつ変わっていく。


「……いいな」


 小さく呟く。


 ここが――


 自分の場所になる。

読んでいただきありがとうございます。

ついに人が集まり始めました。ここから物語はさらに広がっていきます。続きをお楽しみください。

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