29.ミハエルと話し合った自分へのご褒美
公爵家の獣人の番は、他国の国境付近の緩衝地帯にある屋敷に捕らわれているらしい。
あまりにも遠かったら往復分の魔力が足りないかもと思ったが、シルフィ家だけでなく、他の味方の獣人の人たちにも協力してもらった結果。
街の見張り塔から高性能の望遠鏡で見ると、番が捕らわれていると思われる建物(ビルのようなレンガ造りのような、ミハエルに聞くと土魔法で作った建物と思われる不思議な建物)が豆粒くらいの大きさで目視できた。
建物自体が土魔法で作られていて、番の人質は結界の中にいるそうだ。
そこらへんはこの戦争の要なので、探知専門の魔法使いに言わせるとあれだけ露骨な結界魔法だとそこにいるのは確実だし、魔法に依らない公爵家令息(つまり人質の番の片方)の匂いと気配の感覚によるとやっぱり番はそこにいるらしい。
建物はもちろん侵入がないように頑丈に守られているし、そもそも獣人よりも魔法の力が強い人間かエルフ(他国は人種混合)が張ったと思われる結界魔法を通常越えられるもしくは破れる者はなかなかいないらしい。
「そこで、私の登場かぁ」
私の、建物を目視した後の一言に、ミハエルは少し顔色は良くなったもののやっぱり青い顔をして何も言わない。
これで私が戦争に貢献した場合の褒美の思い付きについて、昨日話し合ったからだ。
ま、それはそうと、人質を奪還する作戦はこうだ。
1,私が転移魔法で、公爵家の番の人質の元に飛ぶ
2,人質の腕を掴む
3,元の所に転移魔法で人質と一緒に戻る
なかなか簡潔だ。
その簡潔な作戦を可能にするのは燃費が悪くても、有能な転移魔法さんのおかげだ。
この作戦を立ててからミハエルとも少し実験をした。
私の転移魔法は曖昧な条件でも、最初に飛んだ時のように調整が入って都合よく転移することができる。
転移する空間の間に、結界魔法や魔法使いや人や魔法の土壁等があっても関係ない。(そもそもそれが関係あるなら最初の転移魔法もあんな長距離を移動するのだから、間の空間には理論上色々あってあんなスムーズな転移はできないはずだ)
一緒に飛ぶ相手が拘束されていてもそれも関係ない。
大体、服が一緒に飛べるのだから、そこらへんは有能な転移魔法さんの調整が入って一緒に外へ向かって飛べる。
そこら辺を検証した。
魔力酔いを起こさないように、この街のギルドから『魔力酔い』の波を調整する紐も借りてきた。
転移魔法の唯一の例外は、神が作ったと思われるダンジョンだ。
そんなことはあり得ないけど、私がまだ未到達のダンジョンの中とか、攻略してない中にボスがいるダンジョンのボス部屋とかなら、私の転移魔法でも侵入不可だった。
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さらに次の日、善は急げとばかりに、どこにスパイが居たりするかもわからないから、最小限の人数で街の見張り塔へ再度登った。
階段は疲れるからという理由で、ミハエルが私を軽々と抱き上げて運んだ。
自分が獣人だという事を思い出してから、耳がなく尻尾もなく、人間の容姿に見える魔法がかかった状態でも力が増したらしい。
見張り塔の上で、念のため魔力ポーションを飲んで、状態異常を防ぐ指輪を確認して、シルフィ家から借りた魔法を弾くマントの装備を確認した。
「じゃ、行ってくる。ミハエル、話した内容はちゃんと守って」
「もちろんです」
私が人質を連れて帰ってきたときに『魔力酔い』にかかったときの為に、ミハエルは手に魔力酔いの治療用の紐を持ってスタンバイしている。
そのミハエルのあまりにも真面目過ぎる表情に少し笑った。
―なかなかこの世界は面白い。
色々あってそう思えてきた。
変な所でありとあらゆることが私の為の世界だ。
私は、気負いせずに公爵家の捕らわれている番の元に飛ぶ転移魔法の発動を念じた。
「あっ……」
次の瞬間、瞬きの後に私は何か豪奢な寝室のような所にいて、目の前には白い犬耳と白いふかふかした尻尾をはやした金髪の女性がいた。
当たり前だけど驚いた表情をしている。
腕には、鎖がつながれていた。
「人質ですね? 助けに来ました」
こういうのはスピード勝負だ。
手短にそれだけを告げると、女性の腕を掴み。
元の所に戻る転移魔法を使った。
行きよりもごっそりと体から魔力が抜けるのがわかる。
やはり遠い距離を複数で飛ぶのはちょっときついかもしれない。
次の瞬間、見張り塔に人質の女性と立っていた。
お兄さんがもちろん別件だと偽って呼び出していた番の片割れの公爵家令息に、人質の女性の腕を預けて、私はめまいがして倒れそうになる。
それをなんなくミハエルが支えてくれて、運ばれる感覚を最後に意識を失った。
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……目覚めると、また近くにはミハエルの心配そうな顔があった。
気になっていたことを聞くと、他国も介入した貴族間、他国との戦争はあっという間に終わりそうとの事だった。
番が人質が取られていない獣人は強い。
あっという間に、獣人の国『アニサンブラ』を守る方向に結束し、少数精鋭で他国の介入を押し返し始め、諍いや不和を起こした貴族たちは処分されるという事だった。
獣人の国は、今回獣人の国を狙った国々からそれぞれ賠償金や領土などをもらう予定だそうだ。
小説でもそうだったし、実際にリアルになってもそうだったけれど、恋愛小説の舞台だからなのか、国と国の武力衝突だし、獣人の人身売買をされそうだったいう話だし、もしかしたら結構死傷者も出ているかもしれないのに、私の耳には深刻性を伴って届いてこない。
結構、戦争も軽く言うなあという印象だ。
そもそも元の世界と意味合いが違うのかもしれない。
元の世界はそもそも戦争というとミサイルとか領地問題とか核とか……まあ、それも元の世界の日本ではテレビの向こうの話だったけれど。
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そして、ミハエルの国が色々片付いて落ち着いたころ(もちろんミハエルも私の症状が改善してから各地を飛び回って戦争に貢献した)、解決の糸口を作った私にミハエルと予想していた通り国からの『特別な褒美』を与える話が持ち上がった。
(公爵家からの手厚いお礼を受け取っているし、公爵家令息には何度も頭を下げられたし、捕らわれていた番の人も申し訳なくなるぐらい頭を下げていたし、お礼ももらった)
私はそこで、色々話を聞き、獣人の特性を考え、私の幸せを考えた結果の『ご褒美』を申し出ることにしたのだった。
ミハエルには止められていたけれど、この世界で悠々自適な生活を送るには必要なご褒美であり、かつ前世から考えるとほのかな恋心を大事にしたい。
そしてなおかつ私の騙されて傷ついた気持ちを癒す。
人間が獣人に合わせるのではなく、獣人が人間に合わせてほしい。
そんな私の考えで、ミハエルは私がそういうならと同意してくれた。
私の希望、それは、
「ミハエルに解けない魔法をかけてずっと人間の姿のまま人間の『エルさん』として、獣人の国は捨てさせて、私と人間の国で暮らさせてください」
という事だった。
私ごとで別にどうでもいいと思いますが、獣人に追いかけられる悪夢を見て寝不足です。




