28.馬車の中での話し合いとミハエルの国の事情
お兄さんはその後を詳しく聞いてるわけじゃないし、ミハエルがいなくなった後の分まで仕事をしていて忙しいし、父が兄に経緯は話したものの、そもそも獣人は番とうまく行くのが基本なので、その深刻性がやっぱり少し分からず。
そもそも、少し顔色が悪いもののミハエルとその行き違いを起こした番が現れて、
「ほらやっぱりなんだかんだ言って、うまくいったのかな?」
と思ってるけど。
※※※後から謝る台詞を追加しました※※※
すごくお話が駆け足で、本来ならそこを丁寧に書くんじゃないのかみたいな風に思ったりもしました。
馬車の中で私とミハエルはお互いの境遇や今までの事をとことん話した。
馬車は向かい合わせではなく、目の前が馬車の壁で横に広い構造だったので、見つめあうこともなく話しやすかった。
前世でいうと車の運転席と助手席でお話している感じだ。
最初はミハエルも顔色が悪くあまり喋らなかったが、まずは私が色々話始めると積極的に話し合いに応じてくれた。
私の前世を含めた今までの人生を聞いて、ミハエルがボロボロと滝のような涙を流して泣いてくれることもあった。合間に何度もミハエルから謝罪が差し込まれた。
反対に私の方が獣人の特性を聞いて、色々考えこむこともあった。
なぜ、アイステリアでミハエルが人間として活動していたのか、事情を聴いて(本人が頭がおかしくなっていたので記憶があいまいなところもあったが)、番に振り回される獣人の凄まじさに圧倒されることもあった。
私が前世を思い出さなければ、ミハエルはすぐに幸せになれたのだろうか、と考えたりもしたし、実際にそう言った。
するとミハエルは、
「それは違うと思います。もちろん、本音を言うと他の獣人のように番とずっと一緒にいられないことを神に恨んだこともありました。結果的に僕が獣人の至らなさでリアさんを追いかけてしまい、騙してしまい申し訳ありませんでした。ですが、リアさんが別の場所から別の場所に捕らわれるより、リアさん自身の力と意志で自由になれてよかったと思います」
そう言って微笑んでくれた。
「信じてはもらえないかもしれないですが、故郷から今回手紙が届いて、戦争が終わったら蛇の魔女に拘束魔法でもかけてもらって、リアさんの周りをもううろつかない決心はしていました。冒険者として頑張っているリアさんは強く美しく優しくて魅力的でした。短い期間でしたが、人間としてリアさんと仲間として過ごした思い出を胸に生きていこうと」
ミハエルの言葉に、身勝手にも私のエルさんを好きになっていた気持ちはどうするんだと思ったが、まだ気持ちを伝えてもいない。
ミハエルは初手、他の獣人と同じように番を迎えに行ったら派手に拒否されたのだ。
そういう結論になるだろう。
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そして、馬車に長いこと揺られた後(もちろん旅の道中盗賊と戦ったりモンスターと戦ったりはした)、ミハエルの故郷の獣人の国アニサンブラに着いた。
もちろん戦争中という事もあって、入国にはギルドカードを確認されたり、簡単な問答をしたけれど、この国の貴族のミハエル・ミスト・シルフィが一緒についているのでその番の私はあっさりと通された。
でも、いくらミハエルが貴族といっても、人間の貴族とは若干意味合いが違う。
そういう話を馬車の中では聞いていた。
それはそうだろう。そもそも番というシステムがある時点で、人間の貴族のように魔力や能力や容姿引き継ぐ『家』の為に血筋を煮詰めていく、というものではない。
シルフィ家は代々獣人の中でも身体能力が強く、土地を管理する能力も高い、男女どちらでもそんなシルフィ家を一緒につなげてくれる番が現れることが多いし、シルフィ家は狼獣人という特性も相まって番を非常に大事にするし、家を大事にする。
他の貴族たちもそれぞれ似たような理由で続き、そんな貴族家を国は支え優遇し貴族家もそれに感謝し国を支える、民もそんな貴族家たちを尊敬し、守ってくれる貴族や国のために税金を納め国を支える。
そんな感じになっている。
率直に言うと、他の国の噂と違って良い人たちが多かった。
番となると、頭のねじが外れてしまうことが多いのが誠に残念だ。
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「ようこそ、シルフィ家へ。あなたがミハエルの番だね。歓迎するよ。といっても、今はちょっと国がごたごたしていて、歓迎の宴も開けなくて申し訳ない」
シルフィ家に着くと、ミハエルのお兄さんが出てきてくださって客間で私を迎えてくださった。
紅茶とお茶菓子が出されて、皆でテーブルに着く。
「いえ、こちらも押しかけてしまってすみません」
「こちらこそ、弟が迷惑をかけて申し訳ない」
「いえ……」
お兄さんから話を聞くと、今回ミハエルを呼び出したのはお兄さんだということだった。
戦争発生といっても、結構面倒なことになっており、単純な力のぶつかり合いという事ではなく、獣人の並外れた力に目を付けた他国に、この国の有力公爵家が介入されて、番の人質を取られて、貴族家同士のぶつかり合いになっているそうだ。
王家もどのような落としどころをつけたらいいのか分からないまま、貴族たちは、力ずくで番を取り戻そうと勝手に進軍する者、それを武力でおさえようとする者、人質を無視して他国を攻めるため兵力を集めている者、などに分かれて混乱しているらしい。
そこで、よく獣人の相談役になっている蛇の獣人の魔女がこう言ったらしい。
「あまり良い手ではないが、ミハエル・ミスト・シルフィを呼び戻せ」
と。
ミハエルのお父さんは呼び戻すことに反対していたらしい。
まあ、そうだろう。
番を手に入れられなくて、発狂して人間に変化して出ていった息子を呼び戻そうとはあまりしないだろう。すごく分かる。
しかし、お兄さんはその番を人質に取られた猫獣人の公爵令息と親友らしい。
その親友の番を人質にされた悲しみと怒りを見て、ミハエルに申し訳ないと思いながらも『戦争発生』と手紙を出した次第だという。
それにしても『番』というシステムが獣人の何もかもを狂わせている。
私はなんだかちょっと頭痛がしてきて、頭を抑えた。
すかさず、ミハエルがオロオロと私を心配して、使用人に氷を用意させて布に氷を包み、私の頭に当てようとしてくる。
「それはいいから、ミハエル。もしかしたら、これって私が人質を救出したら助けになるんじゃない?」
蛇の魔女はどこまで私とミハエルの関係を分かっていたんだろう。
「でもでも転移魔法は………」
「何か人質を助け出す策があるのかな?!」
止めるミハエル。
お兄さんは私の方にテーブル越しに身を乗り出した。
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