27.騙されていた??……でも。
思った感じの展開じゃなかったらすみません。
そこからのボス戦は、ほぼ一方的だった。
ミハエルが、毒リンゴの直撃を受けてダメージを受けながらも(ダメージを受けてもその狼の毛皮が溶ける効果を軽減しているのか溶けはしなかった)、ボスに突撃し、その顎の力でボスの木の幹を粉砕する。
両者のやりとりはすさまじい。
そこに私が魔法を撃つ隙はなかった。
『アアアア!!!』
ボスは苦しみの悲鳴を上げながら、あっさりと消えた。
その消えた後にはキラキラと光る宝箱が残されている。
ミハエルは、ボスが倒れたのを見届けてから、人間の姿に戻った。
そして、その場に倒れる。
「ミハエル!」
以前、心の中で呼んでいたように小説の中の人という意味での親しみを込めて『ミハエルくん』と呼ぶこともできなくて、名前を呼び駆け寄る。
毒の影響なのかミハエルの顔色は土気色で、呼吸が荒かった。
その顔は、何かの魔法がかかっているのか、狼だと認識してからも耳もなく人間にしか見えなかった。
「ごめんなさい。騙していてごめんなさい。好きになってごめんなさい。卑怯な真似をして申し訳ない」
荒い息の下からミハエルがそれだけを繰り返す。
私は何と言っていいかわからない。
ずっと獣人のミハエルに騙されていたという気持ちと、エルさんの様子が危ないという事。
リンゴのボスは通常、状態異常の回復もできるかなり良いポーションと即死や毒を防ぐ指輪をドロップする。
私はとにかく夢中で宝箱を開ける。
中にはポーションではなく、図鑑でしか見たことのないエリクサーがあった。
私はそれをためらいなくミハエルにぶっかける。
まばゆい光を放って全回復したミハエルを連れて、ボスクリア後の出口への転移陣からダンジョンを脱出する。
ギルドに戻ってレアボスの出現を報告した。
宝箱から出てきたものは、使用済みだけど売ったらとんでもない金額になるエリクサーと、即死と毒だけではなくほとんどの状態異常を防ぐ指輪だった。
指輪はミハエルにつけてもらった方がいいと思ったが、とりあえず私がはめた。
ギルドは私たちの報告に、レアボスの検証に協力してほしい旨を伝えてきたが、私はそれを断り、パーティーは予定通り一旦解散すること、私もギルドでの活動を抜けてミハエルの帰省に付き合うことにしたことを伝えた。
そもそもミハエルの国の戦争には、なぜか私が活躍する旨が小説にも書かれていた。
私も行った方がいいと思う。
「エルさん、分かった? 私も行くから」
ギルドの中の手前、ミハエルを前のようにエルさんと呼ぶ。
具合はエリクサーのおかげで良くなったはずなのに、無言のまま青い顔色をしたミハエルが頷いた。
いくら察しの悪い私でも、察しはつく。
戦争に向かう直前に、私に私を騙していたことを告げて、一方的に別れを告げる。
そんな事を考えていたのだろう。
そうはさせない。
ミハエルが、そこは動いてくれて、ミハエルの国の方角へ向かう商人ギルドに同行する人数の増加を告げに行ってくれ、キャラバンへの参加票を私の分も持ってきてくれた。
冒険者はキャラバンに何かあったとき(盗賊に襲われるモンスターとの遭遇等)護衛に協力する代わりに馬車への乗車が安いし、そのもしもの時に力を温存するために優遇されるし歓迎される。
私とミハエルは、仕切りがあって二人で個室となり横になるスペースも確保されている馬車の一室だった。(前世の馬車と違って馬はほぼモンスターみたいな馬力でとても大きい馬車を引いている)
私は、色々判明したあまりの事に、あまり物事を深く考えないままミハエルの国へ向かう日を迎えたし、ミハエルは顔を合わせると四六時中青い顔で無言で俯いていた。
思えば、ミハエルがエルさんだと思っていなかったから、前にちょっと考えたようにそもそも詳しいいきさつを聞いてなかったし、獣人の文化も理解していないし、なんでこんなことになってるのかも聞いていない。
そして、ミハエルは私の前世も含めた事情も全然分かってないだろうし、私も私の事を何も話していない。
私たち、『黒の炎』のパーティーそして私とミハエルの関係は実はすごく表面的なもので、何一つとしてお互い分かり合っていなかった。
本当は『勧善懲悪』『因果応報』『ざまぁ』満載のお話みたいに、スパッとミハエルを切り捨てればいいのかもしれない。
ミハエルの国の戦争も自分には関係ないことだと思えばいいのかもしれない。
――でも。
「エルさん、『もう遅い』のかもしれないけど、私はあなたと話し合いたい」
「……そうですね」
読んでくださってる方ありがとうございます。感謝です。




