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ドアマットヒロインに番と名乗る獣人がやってきた。あなたの番が迎えに来たって? 番ですか、そうですか。さようなら  作者: ひとみんみん


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22.エルさんの正体

「エルさん!」


 敵の飛ばした毒林檎がエルさんの腕を掠めた。

 私がファイヤーアローを撃ちすぎたのをカバーするように、エルさんが強引に毒林檎のボスの顔面へ切りかかったのだ。


「気にするな!」


 エルさんが叫んで、自分の方へボスの注意を引き付け続ける。

 敬語を使う余裕もないほど、エルさんが猛攻を続けている。


「ファイヤーアロー!!」


 私のファイヤーアローの魔法が、毒林檎の大きな枝を燃やした。

 段々疲れて、魔法を連続で打てなくなっている。

 私の頭にスタンピードの時のことがよぎった。


「よしっ………って、え??」


 枝を伸ばす素早い攻撃を封じたと思ったのもつかの間、


『毒林檎を食べてぇぇぇぇ!!!』


 毒林檎のボスが、絶叫して更に大量の毒林檎を残った枝に実らせた。


「力が増した?!」


 エルさんが叫ぶ。

 私たち二人の前に、『毒林檎が生い茂る大きな木』という絶望的な状況が広がっている。

 多分、そこそこボスの体力を削ったので、ボスによくありがちな残りHPが何分の一になる(あるいは半分に減るなど)とパワーアップ、という状態になったのだろう。


 これは無理ではないだろうか?


 私は、ダメで元々でエルさんの服の端を掴んでダンジョンの外に出る転移魔法を試みてみた。

 ………………………………ダメだった。


 曖昧な指示でこの国まで飛んできた私の転移魔法も、様々なゲームのセオリー通りにボス部屋からは転移できなかった。

 まるで手ごたえがない。

 魔力が足りないとか、そういう次元ではない。

 元々私にそんな力がなかったかのように、私の体の中の転移魔法の力が反応しなかった。


 もうこうなると『魔力酔い』の事は考えても仕方ない。


 私は持ってきている魔力ポーションを一気飲みした。


「ファイヤーアロー!!」


 木のボスを倒すしかない。



 ……………………

 ………………………………


 パワーアップしてからの毒林檎の木は、想像以上に強かった。

 根元は動かない木だから、的が大きくて当てやすいかと思いきや、魔力を大きく割り振って撃った『ファイヤーアロー』の先に、ちょうどよく毒林檎が落ちて遮ってきて威力がそがれる。毒林檎にファイヤーアローが当たると毒が飛び散る。


 後は、それまでなかった攻撃として、何がどうなっているのかダンジョンの床から木の根っこが飛び出してきて突き刺そうとしてきたり、足元を不安定にさせて転ばせようとしてくる。


 単純に言って、ダンジョンの殺意が高かった。

 神の試練だというダンジョンだけれど、乗り越えられそうにない試練だ。

(前世で神は乗り越えられない試練は与えないとか言ってたけど嘘だと思う)


 そして、私も気を張っていたけれど、前にはなかった症状として、魔法を撃ちすぎたのか視界がぼやけたり、魔法が最初の頃より遠くに飛ばなかったりしてきた。


 そして、エルさんは頻繁に私を庇うので、体のあちこちがポーションで治しきれないぐらいのダメージを受けて動きのキレがなくなってきている。



『パーティー全滅』



 そんな言葉が頭によぎる。

 そもそもパーティー解散とかそんな話ではない。

 私はダンジョンをなめていた。


 私とエルさんの人生がここで終わる…………。


「ごめんなさい、エルさん。私が中ボスに連れてきたから。エルさん、ごめんなさい」


 思っているよりも掠れた小さい声で、エルさんに謝っていた。

 戦争に行かなきゃいけないエルさんを、ここまで連れてきたのは私………。

 エルさんは優しいから私に付き合ってくれていただけ。


「ファイヤーアロー!!」


 とにかく、魔法を撃たなきゃと思って震える手で、ファイヤーアローを木のボスに撃つけれど、火の魔法のスピードも落ちて、また落下する毒林檎で相殺された。


「あっ…………」


 眩暈がして、ふらついたところを地面から木の根っこが出てきて刺されそうになった。

 思わず戦闘中にも関わらず目を閉じると、思っていた衝撃がなかなか来ない。


「エルさん!」


 目を開けると、目の前にエルさんが立っていて、木の根っこに足を刺されていた。

 その隙を狙って、木のボスが次々とエルさんに毒林檎を当ててくる。

 エルさんからうめき声をあげる。


「だましてて、ごめんなさい」


 ………エルさんが唐突にそんな事を言った。

 エルさんの表情は木のボスの方を見ていて分からなかった。

 そして、全身がグンニャリと歪んで、私の身長よりも大きな………………………………、


 灰色の狼がいた。

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