14.デスマーチの果てに見る夢(アメリアの前世)
アメリアの前世の話です。
――私は、地域広報雑誌の発行や地域ニュースのウェブ発信を行う小さな会社に勤めていた。
最初はなんとなく、その華やかそうな世界に憧れて、女性ファッション誌で働けたらいいなと思って、そこそこのデザイン系の専門学校を卒業した。
それが、やっぱり有名な出版社は有名な大学とかから採用してて、無理に面接とかも行ったけれど、そこでは当然有名な大学の人たちが努力も才能もあって、そういう華やかな事をする採用の席を埋めていた。
色々試行錯誤して、ようやく地域ニュースを発信する会社に勤めることができた。
望み通り地域のファッションや地域のインフルエンサーのニュースを発信できた時は心が躍った。
しかし、段々疲弊してくる。
小さな会社では下っ端の自分はなんでもやった。
地域ニュースのリサーチ、取材、編集、発信、他の人の校正、なんでもやった。
小さな会社だからなんでも自分でやって、絶え間なく発信し続けないとすぐに読者に飽きられて詰む。
スポンサーを宣伝するだけのニュースも数えきれないぐらいやった。
それもそれで楽しかったけれど。
充実しているのと、忙しくて体が疲弊してくるのはまた話が別だった。
小さな自由な会社なので周りは気にしないけれど、深夜の会社の廊下で泣きながらうずくまるときもあった。
………気が付けば年は20代後半になっていた。
忙しい日々の合間にとる友人との連絡の中で、結婚したり子供が生まれたりする子もいた。
テレビやニュースでは晩婚化なんて言っているけど、私がいた友人たちのコミュニティでは若いうちに結婚して子供を産んで、ほどほどに仕事をセーブしながら続ける、みたいなのが一般的だった。
そんな生活の中で、私は大幅に違った方向に焦っていたのだろう。
ある取材で協力していた、大手ファッション誌の男性と、助け合って、うまくやっていたと思っていた。
気づけば、取材の成果はすべて彼に持っていかれていた。
私の名前も、会社の名前も、どこにもなかった。
一緒に食事をする中で、メディアの役割について熱く語ったこともあったのに、
「しょせんは女がするおままごとみたいな仕事と一緒にしないでくれる? 俺の役に立っただけありがたいじゃん」
と言われた。
脇が甘かった。
会社の上司に相談したら、『個人の責任』と言われ、『成果が出なかったんだから減給する』と言われた。
挙げ句の果てには、『事実だけを見たら、他の出版社の男と遊び歩いていただけだろ』と。
前に、単価の高い大きな仕事をやり遂げた時、『よくやったね! 会社のエースだよ、あなたは』と言ってくれたのに。
同僚には、『婚活しっぱーい。残念でしたー。あんたみたいにバリバリ自分は頑張ってますって感じが嫌なんだよね』と。
前に、同僚とは協力して地方から始まったファッション小物の流行りをまとめて、スポンサーもたくさんついて大成功した仕事も一緒にやったのに。
一緒に地方のファッションインフルエンサーの取材も、新しくできた飲食店の取材も数えきれないほどやったのに。
上司に『仕事もないんだから、もう帰れ』、と言われて、この仕事を始めてから初めてぐらいに早く帰る日々になった。
「せんぱーい! 元気出してくださーい! 早く帰れてラッキーぐらいに思っといた方が良いですよ。これー、ウチのおススメのライトノベルですー。「家族に虐げられていた私ですが、迎えに来た番と幸せになります~私と狼さんの幸せな結婚生活~」略して―『ワタオオカミ』ですー。狼さんぐらい、女の子を大切にできるってちょーいいですよね。人間の男なんて今は古い! 獣人最高ー!」
地方のアニメやキャラクターの聖地や流行りを追いかけている後輩が帰り際に声をかけてくれた。
今はそういう地方の『オタク文化』も流行っていて、地域のアニメや小説の聖地を取り上げると、結構盛り上がる。
「この作者の先生、次はウチの地域のファンタジー日常物小説を書いてるんですー。ウチ、絶対流行ると思ってて、これは人気大爆発間違いなしってー。そしたらー、先輩も一緒にやりましょうよ。ウチ、ちょっとミーハーで結構頑張り屋な先輩尊敬してます。一緒に頑張りましょ!」
頭に大きなリボンをつけている後輩がにっこり笑った。
「あ、ありがとう」
気づくと、頬に涙が伝っていた。
いつもはタクシーで深夜に帰るのに、バスにスムーズに乗れた。
それから、帰りのバスの中で、後輩に借りた本を読むようになった。
「家族に虐げられていた私ですが、迎えに来た番と幸せになります~私と狼さんの幸せな結婚生活~」。
虐げられている貴族の女の子アメリア・フラガリア・アナナッサ。
自分で自分を救えないし、誰も女の子をその境遇から救い出してくれない。
そんな中、神様に決められた運命の狼の番が、遠い遠い外国から自分を連れ出しにやってきてくれる。
アメリアは、4歳までは貴族だった。
それ以降は、最低限の教育だけ与えられて、下働きとして扱われていた。
魔法の力はとっくに疲弊して尽きていた。
そこに現れたヒーローの狼の獣人ミハエル・ミスト・シルフィ。
顔も分からない段階から、匂いだけでアメリアを見つけ出して、アメリアを迎えに来てくれる。
ミハエルは、アメリアを探し出すまでに非常に困難な旅をしていた。
ヒーローのミハエルの腕に飛び込んで、もう自分を虐げるだけの周りは見えない。
「私をどこか遠い所へ連れて行って」
とアメリアはミハエルにいう。
ミハエルは強く頷いて、自分の獣人の国に連れ帰ってくれる。
ミハエルは最初の勢いに反して、長年の夢だった番を見つけてからは落ち着いてアメリアを大事にしてくれるし、獣人の国の人々も、弱い人間であるアメリアを大事にしてくれる。
アメリアは、自分の持っている魔法の力も大事にされる日々の中ですぐに回復して、獣人の国の為に働き始める。
アメリアは、水と火と転移の魔法を駆使して、ミハエルや他の獣人を驚かせたり心配させたりしながら、充実した愛される日々を過ごしていく。
元居た国では風の噂で家が御取り潰しになりそうになり、『正当な後継者のアメリアを探している』と聞いたけれど、それさえも愛される日々の中で過去になる。4歳までしか貴族教育を受けなかった自分より国が治めた方が領民も幸せだ、とアメリアは思う。
実の父親や義理の家族から受けた仕打ちを、何年もかけて、ミハエルのプラトニックな無償の愛でアメリアは癒されていく。
ミハエルはアメリアがなんであってもずっと愛している。
そこで、ミハエルが貴族間の戦争に駆り出された時、ミハエルの危機に転移魔法で駆け付けて、アメリアが大活躍する。
ミハエルが危機に陥った時、アメリアは初めてミハエルを自分も強く愛していることに気づく。
無償の愛に包まれて、自分もミハエルのように人を愛したい、とそう思うようになる。
――などなど、ひたすら甘々のドタバタ劇が続く小説だった。
良い話だな、と素直に思った。
仕事ばっかりの私が初めてここで、『恋愛』っていいなと思った。
私は今まで恋愛なんて仕事に比べたらグレードの低い話、として心の奥底でバカにしていたかもしれない。
仕事とは別の話だ。
創作物だけれど、世の中で恋愛ものが流行っているのはそれが素晴らしい事だからだろう。
単純に人を好きになり、そして人に好きになってもらう事。
この話は獣人の番、という表現をとっているけれど、『一目ぼれ』の強いバージョンみたいなものだろう。
本で読んだことがある。一目ぼれは遺伝的に相性のいい相手と惹かれあっているとかなんとか。
素敵だ。
――でも、きっと私には、こういうことは起こらないのだろうとも思った。
ヒロインみたいに、素直に救いに飛び込むことはまだできそうにもない。
今回みたいに後輩に救われたような経験を積み上げていけば、あるいは……。
私は本を閉じて、バスの外の景色を見た。
外には若い高校生の男女が手を繋いで歩いているのが見えた。
キラキラと輝いて見えた。
仕事だけじゃない。
後輩みたいに素敵な人も居るし、こういう素晴らしい小説を書く人も居る。
次は後輩に協力して、地域が舞台のアニメや小説を取材するのも良いかもしれない。
私は、外を心が洗われた思いで眺めていて、
――そして、バスの方に向かって突っ込んでくるトラックを――
読んで下さってありがとうございました。
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