13.「異世界ではお馴染みのスタンピードが起こったらしい」
ここからお話を駆け足で進めようと思います。
「そろそろスタンピードが起こりそうだと銀級冒険者の方が言っていました。ギルドの方でも調査しますが、大体時期的に近いです」
と、ミレーネさんが言った。
朝、ギルドの寮から出てのんびりとご飯を食べて、何か依頼はないかとミレーネさんに話しかけたら真顔で言われた。
私の横には、パーティーメンバーのエルさんがいる。
気がつくと、いつの間にか隣にいる不思議な人だ。
「そうなんですね」
なんと言ったら良いか分からなくて、自分も神妙な顔になって相槌を打った。
エルさんはわずかに首を傾げている。
――スタンピード。
ミレーネさん曰く、(私が今いる街)ダンジョリアの街では、ダンジョンに多くの人が挑戦してくれているおかげでスタンピードまでの時間間隔が長いそうだけれど、たまにダンジョンからモンスターが溢れそうになることがあるそうだ。
溢れそうになる。
というのは本当に言葉通りだ。
ダンジョン内のモンスターが通常よりも多くなり、徐々にいつもダンジョンから出てこないモンスターが、ダンジョン入り口を越えて出てきてしまうらしい。
銀級冒険者の人たちが、ダンジョンの奥を調査していてその兆候が見られる、と報告してきたそうだ。
その兆候は、
『ダンジョン内の魔力の濃度が急激に上がっている』
『いつもよりモンスターが強くなってきている』
『いつもよりモンスターが凶暴になっている』
『ダンジョンのトラップの殺傷性が上がってきている』
などなど、いくつもの項目で調べた結果らしい。
スタンピードでモンスターが街の中まで溢れてしまってはもちろん大問題なので、食い止める必要がある。
そこで、日ごろから優遇している冒険者に協力を求めるという訳だ。
「エルさんもリアさんもこの街でのスタンピードの対処はご存じではなかったですね」
ミレーネさんが最初に会った時のように、一部、私がまるで色々知っているかのような前提で話をしてくる。ミレーネさんの中で、私の人物像ってどうなっているんだろうと思うとちょっと面白い。
スタンピードの対処どころか、前世まで含めてもスタンピードは初めてだ。
横目でエルさんの顔を窺うと、スタンピードを知っているらしく真剣な顔でミレーネさんの話を聞いている。
「ここ2、3日の間にダンジョンの中で活動してる冒険者様たちが出てきたのを見計らって、ダンジョンの周りをモンスターが街に出ないように防御魔法や土魔法で囲います。そして……………………」
ミレーネさんの説明が色々続く。
ちらっと他の受付も見てみると、同じように冒険者の人たちが受付の人から説明を受けているのが見えた。
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――要は、モンスターを倒して倒して倒しまくる、と。
あっさりスタンピードは始まった。
『ガアアア!!!』
「ファイヤーアロー!!」
何日か後に、私たちパーティー『黒の炎』は普通にダンジョン側の防御魔法内側に配置されて、モンスターを退治していた。
凶暴な唸り声を上げて牙をむいて、メタルホーンラビットが飛びかかってくるのを、ファイヤーアローで仕留めた。
確かにいつも低層でそこまで凶暴というわけでもない、前世で言うところの中型犬くらいの大きさの、金属の角を生やしたウサギが、ものすごい勢いで飛びかかってくる。
そのまま放置していたら、金属の角で体を貫かれて戦線離脱だ。
私は、魔力消費がなるべく魔力回復を上回らないように初級の魔法を唱えまくっている。
「……っ!!」
一方、私の唯一のパーティーメンバーのエルさんは、特に私のようなうるさい詠唱もなく、その長い長剣でばっさばっさと次々にモンスターを切り捨てている。
ダンジョン産のモンスターは絶命すると、魔石やドロップアイテムに変わるから、私と同じでエルさんの足元にもほどほどの魔石の山ができている。
「失礼しまーす」
と思うと、そこに事前に説明にもあったが、比較的体の小さい子供が袋に魔石を拾い集めていく。
孤児院から大量に派遣された子供だそうだ。
ちょっとかわいい。
異世界で過ごして長いけれど、異世界の孤児院の子供は元の世界とだいぶ違う。
まず、生活魔法ができる人が居るため大体の子供が汚れていない。
しかし、だからなのか服や靴がずっと使っていてボロボロ。服や靴の傷が修復できないためだ。
後、アイステリア王国の中にさえいれば犯罪者への遭遇率が低いので、それに加えて、犯罪を犯すと外の危ない世界へ追放されるので、自然と品行方正になる。
服や靴よりも毎日の食べるものが優先だろうけれど、今度、街の孤児院に寄付しようかな。
そんな風に呑気に色々考えながら魔法を撃ち続ける。
疲れてくると、どこからともなく、きちんと栓がされた魔力回復ポーションが回って来たり、普通のポーションが回ってきて飲んだりする。
そうやって長い時間戦っていると、交代要員が来たりして、エルさんと一緒に休んだりする。
エルさんや他の冒険者の人と休憩所で焚火を囲みながら、モンスターの情報を交換したりする。
緊張感は少ない。なにせ私は銅級だ。
最前線には出されない。
「リアさん、お疲れではないですか?」
隣に座るエルさんがそう言って、干し宝石苺をくれた。
手の中に何個か落としてくれる。
「ありがとうございますー。ちょうど甘いものが欲しくて」
遠慮せず、干し苺を口に運ぶと、前世のドライフルーツのような甘味が口いっぱいに広がった。
苺の甘酸っぱさが濃縮されている。
思わず美味しさにニコニコしてしまう。
横を見ると、そんな私を見てエルさんが優しく笑ってから、自分も干し苺を口に運んでいる。
エルさんとはまだまだ仲間になってから短いのに、なんだかずっと昔から一緒に居たような気がしている。
すごく一緒に居るのが自然なのだ。
――そんな生活を何日かあるいは何週間か続けていると、段々モンスターの波が少なくなってきた。
単調なモンスター退治なので、時々ぼんやりしてなんだか夢の中にいるみたいだった。
「そろそろ銅級の冒険者の方たちは撤収で大丈夫です」
正直、きつくはない仕事だけれど、やっとモンスターを倒し続ける生活が終わるのかとホッとした。
そして、特に体もだるくないし、魔力も切れていないのに、
――目の前が真っ暗になって、
そして、
前世の夢を見た。
読んで下さってありがとうございました。
感謝です。
次回は前世の話です。




