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突かれる弱点

「うぉぉぉぉ!」


叫び声が聞こえたかと思うと何かが壊れた音が辺り一帯に響き渡る。狂人化の影響で理性を失ったゴンザレスがあちこちを破壊しながらターゲットを探している。


「ったく、あんなに暴れられたら村長の介錯どころじゃねぇじゃねぇか。早く止めねぇと」


屋敷全体に強力なウイルスをばら撒く事も考えたが、それだと屋敷にいる村長も影響を受けてしまうしそれだけ魔力を消耗する。ウイルス感染のスキルは強力ではあるものの、あくまでスキルの一種だ。発動には魔力を消費するし限界もある。ただえさえ村全体にウイルスをばら撒いてる中さらに魔力を使うとなれば消耗も激しくなる。村長とのゲームの後の"後片付け"をするためにもまだ余力は残しておきたい。


「お婆さん。あんたから貰った道具。使わせてもらうぜ」


練った作戦を実行するために俺は隠れていた部屋を抜け、暴れているゴンザレスの元に向かう。叫びながら徘徊している事もあって簡単に見つける事ができた。一人の大男がまるで獣のように見境なく、手に持った金槌を大きく振るってあちこちを破壊している。


「おーい、こっちだ。こっちだぜ」


見つけてもらうために、俺はわざとゴンザレスに対し声をかける。


「ミツケタァァァ! ミツケタゾォォ!」


理性を失っても俺がターゲットであるという事を覚えているのか、俺の姿を目に捉えたゴンザレスは叫びながら笑みを浮かべる。完全に狂人化しているのではなくある程度コントロールしているのだろうか?

まぁ考えても仕方ない。すぐに作戦の実行を……


「うごぁぁぁぁ!」


金槌を持ったまま恐るべき速度でこちらに向かって突進を放ってくる。そしてその突進による一撃をモロに貰い俺の体は大きく吹き飛ばされる。


「ぬぉぉぉぉ!」


俺の体を吹き飛ばしたかと思うとすぐさまそれを追うように突進し、手に持つ金槌を俺の体に向かって振るう。


グシャッ


その一撃によって何かがつぶれた音が聞こえる。だが狂人化しているゴンザレスはそれを気にも留めず、何度も何度も金槌を同じ場所に向かって振るい続ける。その一撃が非常に重いのか一撃振るわれるたびに床が振動する。気がづけば床は大きくへこみ、潰れた何かは原型が何だったのか分からないくらいまですり潰されている。


「やっぱり見境なしの攻撃はやべーな。あれが"俺"だったらと思うとぞっとするぜ。お婆さんから貰ったこれのおかげだ」


俺の手には小さな人の形をした泥で出来た人形があった。身代わりの泥人形と言って、使う事で見た目は自分そっくりの泥でできた分身体を作れるという魔道具の一つだ。ただの人形なので戦わせる事はできないし、素材は泥なのですぐにぺちゃんこになり使えなくなってしまう。そのため本来であれば、身代わり効果としてはほんの一瞬しかもたない代物なのだが、これが相手が狂人化しているとなれば話は変わってくる。狂人化の影響で理性が飛んでいるため、俺と泥人形の区別が正常につかないのだ。そのため、ゴンザレスは泥人形の事を完全に俺だと思っており、その結果が目の前の光景だ。


「さっきのとは別で後九個あるが……人形がつきるのが先か、奴の体力がつきるのが先か。これもゲームってか。ったく楽しませてくれる」


さきほどまでは自身が開催されているゲームを見て楽しむ傍観者であったがいつの間にかゲームに参加させられている。皮肉なものだなと思わず苦笑いしてしまう。


「おーい、どこを見てるんだ? 俺はここだぞ」


といってもやるしかない。さすがに狂人化しているゴンザレスを放置しながら村長と戯れる勇気は俺にはない。そしてもう少しでゲームを開始してから三時間が経とうとしていた。ここで時間を取られると後の作業に大きく影響が出てしまう。


「時間もあんまり余裕がないってのもつらいな。だがこれもゲームの醍醐味だ。楽しもうぜゴンザレスさんよぉ」

「うごぁぁぁぁ!」


こうして俺とゴンザレスの追いかけっこが始まった。

二個目の泥人形は突進で突き飛ばされ破壊

三個目の泥人形は金槌の横振りで

四個目の泥人形は金槌の縦振りで

五個目の泥人形は跳躍からのふりおろしで

六個目の泥人形は首元を掴んで窓から外に放り出され

七個目の泥人形は胸倉を掴まれ屋敷の二階から一階に向かって叩きつけるように投げられた


そして八個目の泥人形を使って分身を作ろうとした時、ゴンザレスは突然糸が切れたかのようにうつ伏せに倒れこむ。


「ごぁぁぁぁぁぁ!」


まるで獣の悲鳴のような雄たけびを上げるが、先ほどとは打って変わり、体がピクリとも動いていない。


「……どうやら限界のようだな」


泥人形相手に無駄な体力を消耗し、俺のスキルの影響で少しずつウイルスに体を侵されていったのだ。最早今のゴンザレスは動く事はおろか、動いていない今でさえダメージの反動による影響で全身に耐えがたい苦痛が襲っているはずだ。


「何とか人形は持ってくれたが……。まさか狂人化でウイルスを誤魔化して襲ってくるとはな。やっぱりまだまだ弱点はあるな」


あのキマイラでさえ仕留められたのだからウイルスに感染させてしまえば勝ちと思っていたが、まさか意外な形で反撃に打って出てくるとは思わなかった。だが今回の体験のおかげでそれを見つける事ができた。この男には感謝しないとな。


「さてと、お詫びに狂人化を解除してやるか。最も痛みに耐えれるか分からないが……」


今は狂人化で理性を飛ばしているからこそ悲鳴を上げつつも痛みに耐えている。もし狂人化が解除され理性を取り戻した状態で今の痛みが全身を襲ったら……。それを考えると他人の事ながらもぞっとする。まぁ俺に襲い掛かってきた罰の帳消しと考えれば十分だろう。


「さて、お目覚めの時間だぜ」


俺は老婆から貰った杖を使い、ゴンザレスにかかっている狂人化を解除した。



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