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凶行を止めるために

(一体俺は何をしているんだ……)


バリケードを破壊し、住人たちが屋敷になだれ込んだ姿を見て、ハッと我に返る。俺は村長から護衛を依頼されて受けた存在。本来であれば彼を守らなければならないはずだ。しかし今の自分の行為はそれと正反対、むしろ契約違反といってもいい。


(もし村長を捕まえ俺に差し出すのなら残った住人とお前自身を助けてやる)


悪魔のささやきに俺は逆らう事ができなかった。自身の作戦ミスで仲間を失った俺にとって、自分だけでなく村の住人全員の安全を保障するという提案を受け入れざるを得なかったのだ。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


屋敷の中から何者かが大声で悲鳴を上げるのが聞こえる。その声は聞いた事のある声、俺を雇った村長の声であった。屋敷の中で一体何が行われているのか。それを確認するために、住人たちより遅れて屋敷の中に足を踏み入れる事にした。


「ごめんなさい……。でも娘のためなの!」

「こ……こんな時ぐらい役立ってくれよ」

「……村長なんだから俺たちのために体を張って当然だよな」



屋敷の中で見た光景は凄まじいものであった。それは住人たちが手にナイフを握り、それを村長に突き立てるというおぞましいものであった。そしてそれを静かに見守る少年、いや悪魔がそこにいた。


「や……約束通り解毒剤は貰っていくぜ!」


村長にナイフを突き立てた者たちはその後、机に置かれているビンのようなものを手に取り颯爽とその場を去っていく。


(何とむごいことを……)


自分の存在がバレないように様子を伺いながらボソッと呟く。何故このような事が行われているのかは分からないが、状況から察するに村長に傷を負わせたものが解毒剤を手に入れ解放されているようだ。そういえばあの少年が最後のゲームを始めるだの何だの言っていた記憶がある。そのゲームというのがまさしく目の前で今行われているこれの事なのだろう。


(村長を助けなければ……。しかしできるのか……俺に……)


一度はあの少年の凶行を止めようと自分を含めた護衛メンバーで総攻撃を仕掛けたが返り討ちにあってしまっている。このまま攻撃を仕掛けても返り討ちに合うだけだろう。


「対策すべきはあの少年のスキル。あれを何とかせねば」


やはり最も恐ろしいものはあの少年が持つスキルウイルス感染だろう。あれを喰らえば即あの世行きだ。


「解毒剤を飲めば解除できる。ならば毒の状態異常と似たようなものだと考えればいいはずだ。今の俺にできるのは……」


金槌を武器に力で押す戦闘スタイルの自分には解毒魔法といった便利なものは使えない。だがそんな自分にも毒状態に対抗できる手段があった。


「狂人化の魔法……これならば何とかなるか……」


理性を失う代わりに強力なパワーを得られる魔法。それに加え痛覚を遮断する事で痛みなどお構い無しに攻撃を行う事ができる。もちろん体自身はダメージを受けているのでとてつもない反動はくる。負ったダメージ次第では魔法の効果が切れた後にそのまま絶命するといった可能性も十分考えられる。


「……だがこれしかない。奴を止められるのならば……この身は惜しくない!」


残してきた家族の事は心配だ。だがそれ以上に同じ護衛メンバーを全滅させておいて自分だけのうのうと生き残る事ができようか。全滅した彼らにも家族がいたかもしれない。彼らのためにもここで逃げるわけにはいかない。


「それに解毒剤はこれだけある。あらかじめこれを全て飲んでおけば何とかなるかもしれん」


我ながら愚かな作戦だと思うがやってみる価値はある。解毒剤にウイルスを中和できる効果があるのなら"あらかじめ解毒剤を大量に飲んでおけば、後からウイルスに感染したとしても症状を抑える事ができるかもしれない"などと考えるのは正気ではないだろう。

死んでいった同胞たちの中に解毒剤入りのバッグを支給された者がいた事もあり、解毒剤は残っている。本来ならば生き残っている住人たちに分け与えたい所だが、その前にウイルスの根源を絶たねば再び感染が広がってしまう。


「んぐ……」


心を鬼にし手元にある解毒剤を次々と飲み干していく。後は狂人化の魔法を自身にかければ準備完了だ。後は仕掛けるタイミングだが狂人化が発動すれば見境なく攻撃してしまう可能性がある。となれば最低でも住人たちに被害が及ばないようにしたい。となれば住人たち全員がこの場を去った後だ。村長の悲鳴に目を瞑りつつゴンザレスは息を呑んでタイミングを見計らう。


「お勤めご苦労様でした村長さん。村の人たちも喜んでましたよ」


住人たち全員が解放されこの場に残ったのは村長とあの少年だけになった。幸いな事に少年は目の前で行われている惨劇に夢中でこちらの存在に気づいていない。仕掛けるならばここだ。ゴンザレスは得物の金槌を握りしめ、自らに狂人化の魔法をかける。


コツコツコツ


足音を立てながら得物に向かって歩を進める。


「うぉぉぉぉ!」


そして咆哮を上げながらターゲットに向かって金槌を大きく振るった。



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