村長たるもの
お次は村長視点になります
お楽しみ下さい
「あのクソガキ! 私の……私の計画を台無しにしおって! 絶対に許さんぞ!」
村長であるこの私にあの無礼。あのクソガキは楽には死なせない。いたぶって生まれてきた事を後悔させてやらねばなるまい。とはいえまずはこの惨状をどうにかしなければならない。この先どうするかを考えるため、私は一度自身の屋敷に向かう事にした。
「ふぅ……ふぅ」
自宅に戻ると真っ先にカギを閉め、外から誰も侵入できないようにする。そして今もなお、怒りで止まらない震えを止めるために食堂に置いてあった酒をグラスに入れ一気に流し込む。
「ぷっはぁ」
酒を飲むとイライラも収まってくる。この一杯のために生きているといっても過言ではない。
「おっとこれも飲まないといけないのだったな」
カバンから液体の入った瓶を取り出しその中身を酒の入ったグラスに入れ、すかさずそれを口に入れのどを潤す。解毒剤の味が混じり、酒本来の味が薄れるがまだ飲めなくはない味ではあった。
「ふん、まさかあのガキが私の前に姿を現すとはな! 全く忌々しい!」
アル・スペンサーがスキルを授かる際に自身も立ち会っていた。スペンサー夫妻は優秀な冒険者だったため、夫妻の子どもとなればそれ相応のスキルが授与されるだろうと期待していた。そのスキルを持って村に貢献してくれればと文句なしだ。
だが蓋を開けてみれば、子どもが授かったスキルは辺り一帯にウイルスをばら撒くというとんでもないスキルであった。期待から一転、住人たちからは危険であるという非難の声が上がり、結果的に教会に引き取ってもらうという形で村から追放した。だが問題はそれだけではなく、どこから聞いたのかこの村では呪いを持った子が生まれた。村に行くと呪われるという噂が流れ始めた。
それの影響もあって村に訪れる者が一気に減り、財政が日に日に苦しくなっていったのだ。
「住民共もだ。私がいなければ何もできない癖にでかい口を叩きおって!」
財政が苦しくなっては今の生活を維持できなくなる。そのため村の税収を引き上げたのが、村の住人たちから不満や怒りの声が上がってきた。そこで、村が苦しい状況に陥ったのは呪いの子をこの世に誕生させたスペンサー夫妻が原因だ。村一丸となって彼らを追放しようと提案したのは我ながら良い案だったと今でも思う。彼らは村のためにと色々やって良く貢献してくれたが、村の危機となってはそれもまた別の話だ。私は胸を痛めながら彼らを追放するよう住人たちを先導した。住人たちの怒りは彼らに行き、その分私への不平不満は減る。何とも素晴らしい作戦だ。しかし住人の中でも愚か者がいたようで私を批判する者。中には事もあろうかスペンサー夫妻の肩を持つ者まで現れたのだ。私に歯向かう者やスペンサー夫妻の味方をする者、そんな存在が村にいれば更なる不幸が襲い掛かるだろう。住人たちのためを思い、私は彼らを断腸の思いで追放した。
こうして私に歯向かう者はいなくなり、ある日を境にスペンサー夫妻も村から姿を消した。どこかのババアが最後まで反抗していたが教会に連れていかれ、罪人の証でもあるスキル封じの腕輪をつけられていた。当然、村にとっては厄介な存在なため、あの手この手を使って追い出そうとしたが中々しぶとく、追い出すには至らなかった。まぁ、スキル封じの腕輪を身に着けている以上、勝手な真似はできないだろう。そう考え放置する事に決めた。
そして私の努力の甲斐もあり、少しずつではあるが村に活気が戻ってきた。少し税収を下げてやると住人たちも大層喜んでいた。彼らは村の疫病神を追い出すという役目を見事に果たしてくれたのだ。恩賞を与えるのも村長である私の仕事だろう。そして今日、私にとって、いや村にとって幸運ともいえる機会が転がってきた。
「実はこの村の茶葉を我が商会で取り扱わせて頂ければと思いまして」
とある商人がこの村の茶葉を扱いたいと言ってきたのだ。しかも前金としてあのジュエルビートルの角を提供してきたのにはさすがに驚きを隠す事ができなかった。その上、宴を開催したい、費用も負担するというとんでもない提案をしてきたのだ。
まさしくこれこそ天からの啓示。日頃の行いが良い、村に貢献してきた私へのご褒美なのだろう。すぐさま私はその提案に乗り、宴を開催するための準備を行う事にしたのだが一つ懸念があった。
それは相手の商人がまだ子どもであった事だ。ジュエルビートルの角を渡された事には驚いたが、たかだが子どもが商会のトップなどという事はありえるのだろうか? 少年を不審に思った私は、自身の持つ素晴らしい頭脳を使って策を練る事にした。何かあった時のためにしばらくの間護衛を雇う事にしたのだ。その護衛もギルドでBランクの実力を持つゴンザレスを筆頭に数人という形でだ。
ゴンザレス達からはそれなりの金額を要求されたが、ジュエルビートルの角が手に入った事もあってそれほど出費は痛くなかった。
念入りに策を練りこそはしたものの、特に何事も起こる事無く宴は始まった。無論、自分が口に入れる物は事前に雇っている使用人に毒見させている。毒が入っていない事を確認してから食べ物を喰らい、酒を飲み至福の時を過ごしていた。
「三時間と言っていたな。この下らない茶番が終わったら貴様の首をあのガレキの山に放り込んでくれるわ!」
本来なら宴が終わった後も、茶葉と引き換えに手に入る金で快適な生活を送る事が出来ていたはずだ。それがあの忌々しい呪いの子のせいで全てが台無しになってしまった。その上、村長である私の命を奪おうとした。死罪では事足りない。苦しめた上で首をはね、スペンサー家を解体してできたガレキの山に放り込んで燃やしつくしてやろう。
「だがまずはこの惨状を切り抜けねばなるまい」
あのクソガキのスキル、ウイルス感染の効力は死にそうになるくらい強力なものだった。あのゴンザレスですら太刀打ちできずうずくまっていたくらいだ。相当恐ろしいものなのだろう。
「高い金を払ってやったというのに……。全く使えん男だ」
クソガキを始末するよう命令したが、当の本人も苦しむだけで動きさえしなかった。あれでは何のために雇ったのか分からない。念のために護衛を雇うという私の策は間違っていなかったのに、雇った男があれほど使えないとは誤算であった。どいつもこいつも私の足を引っ張る愚か者ばかりだ。幸い伝手なら複数あるため、住人たちはともかく私なら村を出る事になってもどうとでもなる。そのためまずは何としてでも生き残らなければ。ここでも優秀な頭脳が役に立つ。私は策を練る事にした。
「ふぅ。こんなものだろう」
私は時間をかけ屋敷の出入り口にバリケードを設置して入れないようにした。無論、私が持っている解毒剤を狙って襲い掛かってくる輩からの攻撃を防ぐためである。使用人たちも全員宴に参加していたため、屋敷内には今や私以外の者は誰もいない。こうなれば屋敷は絶対の要塞だ。ここで三時間耐え切れば住人たちは放っておけば勝手に死ぬ。バッグには必要数分以上の解毒剤がある。私の生存は間違いないだろう。
「さて、ひと眠りするとするかな」
準備を終えた私は、屋敷の二階にある寝室に向かい、ひと眠りする事にした。




