生き残るために
お待たせしました。
次の更新は来週になるかと思います。
あれから住人たちの目から逃れつつ、何とか他の護衛メンバーたちと合流する事に成功した。合流した何人かは解毒剤を持っていなかったため、彼らには解毒剤を手渡した、俺が元々持っていた分も合わせてまだ数には少し余裕がある。とはいえさすがに村の住人全員を救う事ができないだろう。
「となるとやはりあの少年を倒すしかないか」
少年は三時間というタイムリミットを宣言していたが守るかどうかは正直怪しい。となればこの現状を突破するための方法として最適なのはあの少年を倒すしかない。
「お……俺は嫌だ! あんな苦しみを味わうのは二度と御免だ! 解毒剤も手に入ったしこのままとんずらさせてもらうぜ!」
「あっ! おい待て!」
一人が村から脱出しようと逃走したため、それを追うようにして別の護衛メンバーの男がそれを追いかける。脱出して救援を要請する事も考えたが、少年が村から出ようとしたら即刻死亡させると言っていたのを思い出した。おそらく逃亡者に対して何らかの対策を施しているのだろう。
「しかしどうやって倒すんだ? 近接攻撃をしかけようものなら一瞬で返り討ちだぞ」
近づこうものなら住民たちと同じようにウイルスに侵されて一瞬であの世行きだ。
「やはり遠距離攻撃しかないか……。この中に魔法を使える者は?」
何人かが手を上げ魔法を使える事をアピールする。中には治癒魔法を使える者もおり、その者は何と自力でウイルスを除去したようだ。だが恐るべき事にウイルスを除去してもすぐに感染してしまうようで、どうやらあの少年が常時村中にウイルスをばらまいているのが原因らしい。
「なら私は囮を引き受けよう。相手は強力なスキルを持っているとはいえ人間。それも子どもだ。突破口があるとすればおそらくそこだろう」
「分かった。なら俺は魔法を撃つ指示をだそう」
「では私は援護を」
集まったもの同士で作戦を立てていると、先ほど村の外に逃走しようとした男を追いかけていた護衛メンバーが返ってくる。話を聞くと逃走しようとした男は村の外に出ようとした途端、いきなり苦しみだしてそのまま息絶えてしまったようだ。状況から察するに村の外にあたる部分に、今撒かれている以上のウイルスが漂っているようだ。おそらく男は一気にウイルスに体を侵されそのまま絶命したのだろう。また村の外には逃走した男だけでなく、家族連れの一家や若い女性、村長に雇われていた使用人などもいたらしい。無論いずれもものを言わない屍の姿になってだが。これが逃走者に対する制裁なのだろう。
「よしそれじゃあ作戦実行だ! 必ず生きて帰るぞ!」
俺たちは全員生還を目標に、作戦を開始した
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「これは……何と酷い」
作戦を実行するために村を歩き回るが先ほどとは打って変わり、辺り一帯人がいない静かな空間となっていた。厳密には人はいるのだが、外にいる者は全員息絶えてしまっている。おそらく解毒剤の奪取が敵わず命を落としたのだろう。となれば残りの住人は何とか解毒剤を確保し、それを奪われないように各自どこかで引きこもっているといった所だろう。
「早くこの惨状を止めなければ」
あの少年をこのまま放置しておけば、この村だけでなく他の村や町でも同じ事が起こるかもしれない。下手をすれば自分の家族も……。早くケリをつけなければ。
「俺の名はゴンザレス。アル君といったかな? 君に話がある。出てきてくれないか?」
俺は大声で少年の名を叫ぶ。周りから見れば自分の居場所をばらすその行為は愚かとしか言えないだろうが、作戦実行のためにはどうしてもこういった手段を取る必要があった。
「聞こえていないか? 俺は」
「あーそんなに叫ばなくても聞こえてるって」
やれやれといわんばかりにこちらに向かって一人の少年が歩いてくる。見た目は本当にただの普通の少年だ。
「知ってるよ。ゴンザレスさんだろ? 村長に雇われてる」
「おお、なら話は早い。なら単刀直入に言おう。今すぐこの村を解放してくれ」
俺はストレートかつシンプルに要求を伝える。俺は交渉術は得意ではないし、こういうテロ紛いの行動を取る相手はまどろっこしい事を毛嫌いするタイプが多い。とはいえ下手にしゃべると相手の逆鱗に触れ機嫌を損なう可能性はある。そこは最新の注意を払わなければならない。
「それは無理な相談だな。生き残りたければやる事は一つ。解毒剤を飲みつつ三時間生き残る、それだけだ。そうすれば解放だ」
「しかしそれでは全員助からない! 現に何人もの犠牲者が!」
「だろうな。何せ全員自分だけが生き残ろうと解毒剤を奪い合おうとしてるんだからな。そりゃ犠牲者も出るわな」
全く悪びれた様子を見せない少年に対し怒りを覚えるが今は我慢だ。他のメンバーが作成実行のために動いてくれている。それが実行されるまで時間を稼がなくては。
「せめて村の子どもたちだけは。まだ幼い子たちだけでもせめて解放してやってくれないか? 彼らには何の罪もないだろう?」
「子どもたちか……なぁあんた? この世には生まれてきた事自体罪な子どもがいるらしいぜ? 何でもそいつは呪いの子って呼ばれてるんだってよ」
「一体何を言って……」
目の前にいる少年曰く、一人の子どもがいた。その子どもは両親と三人で温かい平穏な日常を過ごしていた。だがある日、あるスキルを授かった事で日常が一変、その子は呪いの子と呼ばれ両親は呪いを生み出した忌避すべき存在だといわれ始めたのだという。そんな彼らをある者たちは声を揃えてまとめて処分するよう言ったという。
「ま……まさか」
「まぁ、その子どもは命を失わずには済んだが引き取られた教会やギルドでは酷い扱いを受けたみたいだぜ。死んだ方がましっていうくらいの苦痛をな!」
少年の怒気を一気に跳ね上がる。その勢いに思わずたじろいてしまう。
「ウイルス被害にあっているとはいうがそのウイルスを発生させるような真似をしたのも住人だぜ? 一体どっちが悪いんだろうな?」
「くっ!」
少年の言う事も一理はある。話の全貌はわからないが少年とその両親はおそらくこの村の住人たちに酷い目にあわされたのだろう。復讐に走った理由も納得はいく。だがそれでも少年の非道な行いを許す事ができなかった。
「だがまだ君は若い。君ならやり直す事も」
「ああ、考えたよ。あんたと同じ事を言ってくれた婆さんもいたよ。だが俺は決めたんだよ。この道を歩くってな」
もはや説得は無駄なようだ。同情の余地はあるが今ここで少年を止めなければさらに多くの被害者が生まれてしまう。さすがにそれを良しとする事はできない。
「今だ! 放てぇ!」
突然、辺り一帯に合図の大声が響き渡る。どうやらメンバーの準備が整ったようだ。ゴンザレスたちの考えた作戦はこうだ。総員距離を取った状態で円形の陣を取り、四方八方から遠距離武器や魔法を撃ちこむという作戦だ。距離を取ればウイルスの影響を抑えられると考えての作戦だ。万が一誰かがやられたとしても攻撃の手を緩めず波状攻撃をしかける。そして少年の魔力と気力を削り、ゴンザレスが止めの一撃を放つという作戦だ。少年のウイルスの力は脅威だが、あれがスキルで発生しているのであれば魔力を削ればその効力も薄れるはずだ。もしかすると村の周りを囲うようにして散布されているウイルスも収まるかもしれない。そうすれば脱出の光明も見えてくる。
「攻撃の手を止めるなよ! 撃て撃て!」
それぞれが遠距離から魔法を、中には弓を放っている者もいる。その攻撃を少年は手に持っていた杖で防御壁を展開し防ぐがそれを気にせず、続けざまに攻撃を仕掛ける。
(まだだ、まだ俺が動く時ではない)
今少年に攻撃を仕掛けても、近づく前にウイルスの力でやられてしまう。相手の魔力が削れるまでの我慢である。
「なるほど、俺を倒してゲームクリアしようって算段か……。そんなつまんない事するなよ」
「悪いが君をこのまま放っておくわけにはいかないのでな。今すぐ村の住人たちを解放するならこちらも引くが?」
「ゲーム開催者が自ら中止にするなんて無粋な真似をするかよ」
どうやら少年は引く気はないらしい。となればもう取れる手は一つしかない。
「今だ! でかいのいくぜ!」
大きな火球が少年に向かって降り注ぐ。この攻撃を受け少年が展開していた障壁にひびが入る。そして続けさまに他からも攻撃を受けついに障壁が砕け散る。
「今だ!」
隙ありといわんばかりに少年に向かって大きく金槌を振るう。俺の見立てではあの障壁は少年のスキルではなく、手に持っている杖による効果で発生させているはずだ。おそらく魔道具と呼ばれるものなのだろう。杖による障壁と自身のスキルによるウイルスの同時展開、二つの異なる手段を同時に取るのは常人であれば不可能だ。ウイルスで俺を止めようとすれば魔法が襲い掛かり、障壁を張ったとしても俺の力なら障壁毎少年を破壊できるはずだ。これで誰かが犠牲になれどこの災厄を止める事ができるはずだった。
「かはっ!」
「ぐっ!」
「うう……」
だが結果は俺が想像していたものと大きく異なっていた。予想通り、少年はどちらか一方のスキルしか使えなかったようで、ウイルスを感染させるスキルを優先させたようだ。本来であればウイルス感染のスキルを使ったのであれば魔法による攻撃が飛来し、俺を巻き込む形にはなるが少年もろとも倒せたはずだ。しかし肝心の魔法が飛んでこなかったのだ。
「なるほど。障壁と俺のスキルが同時に使えないと想定しての連携攻撃か。悪くない策だな」
「な……なぜ?」
「何でって? ただスキルを使っただけとしか言えないんだが」
想定外だったのが魔法を放つ予定だった護衛メンバーたちが魔法を放つ前にウイルスに感染し、その影響で魔法の詠唱どころでは無くなったからだ。そしてそれは一人ではなく、今回の作戦に参加していたメンバー全員が同様にウイルスに感染してしまったのだ。
「お前らは距離を取って何とかしたつもりだったんだろうが……よく考えてみろよ。何で俺がピンポイントでしかウイルスを発生させられないと思ったんだ? 村中にウイルスをばら撒けるのに」
よく考えれば少年の言う通り、村中にウイルスをばら撒けるのに距離をとっても感染を防げる訳がない。ウイルスから逃れようとするならばそれこそ町の外に出なければならない。完全に盲点だった。
「さて、ゲーム企画者への妨害行為。当然ペナルティは必要だよな」
「な! よせ!」
少年が魔力を込めると各箇所に散らばっていいた者たちが一斉に苦しみ始める。中には家の屋根に上り魔法を放っていた者もおり、ウイルスによる苦しみで体を支えるどころではなくなり、そのまま屋根から滑り落ちる。そして作戦に参加していた者はゴンザレスを除き全員息絶えてしまった。
「ああ……」
自分の作戦が失敗した事でゴンザレスの表情が絶望に染まる。
「……別にあんたたちには恨みはなかったんだがな。襲われるってなったらさすがに返り討ちにするだろ」
少年が何か言っているが言葉が耳に入ってこない。
「まぁあんたらは村の住人たちと違って、わが身可愛さに他者を蹴落とそうってタイプじゃなさそうだ。亡くなった彼らに敬意を込めてあんたにチャンスをやるよ。上手くいけば住人も助かるかもしれないぜ? 俺からのプレゼントだ」
絶望するゴンザレスに少年はある提案をする。悪魔の提案を。




