村の現状
後一話 明日に投稿できるかと思います
解毒剤を飲み、動けるようになった俺はすぐさまその場を離れ近くのベンチに腰掛け考えをまとめていた。
「ウイルスを発生させるスキルか……」
おそらくこの村の状況はあの少年、名はたしかアル、バートは偽名だったか? がスキルで引き起こしたものだろう。一瞬にして宴の環境を地獄へと変貌させたあれは途轍もなく恐ろしいものであった。ウイルスの影響で苦しんでいた事もあって彼が話していた内容を全て覚えている訳ではないが、どうやら彼の目的は復讐のようだ。
「復讐とはいえ何と恐ろしい事を」
見境なしに村の住人全員を感染させ、苦しみを与える行為は許しがたいものであった。正義の味方を名乗るつもりはないがあの少年をこのまま放っておく訳にはいかない。
「しかしどうしたものか」
近づこうものなら大量のウイルスで体を侵され一瞬であの世行きだ。少年に襲い掛かった住人たちも何人かその方法で命を落としている。となれば遠くからの遠距離攻撃だが自分は魔法が得意な方ではないし、遠距離系の武器を使う事もできない。何にせよまずは相談だ。俺以外にも村長に雇われた者の中でバッグを手渡された者が何人かいた。彼らもまたおそらく逃げ回っているはずだ。彼らと合流し、何とかこの現状を打破しなければ。俺はすぐさま他のメンバーを探すために村を走り回る事にした。
「解毒剤持ちを探せ!」
「見つけて早く飲むんだ! さもないとお終いだ!」
村中ではバッグを持たない者が持っている者たちを血眼で探していた。自分とは違い、彼らは解毒剤入りのバッグを手渡されていない。早く自分の分を確保しておかないとあの苦しみが襲い掛かってくるのだ。彼らも必死なのだろう。
「いや! 離して!」
「うるせぇ! さっさとそれを寄越しやがれ!」
一人の女性が男とバッグを取り合っている、状況を見るにあの女性がバッグを支給されたようだが、相手は男性という事もあり、力づくで奪われそうになっていた。
「おら!」
どこからか別の男が現れ女性に殴りかかる。殴られた衝撃で女性はバッグを手放し、奪い合いをしていた男の方に渡ってしまう。
「へへへ、見ろよ! まだ大量に残ってるぜ!」
「これだけあれば俺たちは安泰だな」
バッグの中身を見て男たちはニヤリと笑みを浮かべる。彼らの表情を見るにバッグの中には解毒剤が大量に入っていたようだ。自分の記憶に間違いがなければ解毒剤は一時間に一本の計三本あればウイルスを抑えきれるはずだ。自分が支給されたバッグもそうだったが必要数以上の数が入っている。おそらくあの少年が奪い合いを起こさせる際に、こういった同盟行為を結ぶための駆け引きなどを考慮して"わざと"多めに入れたのだろう。かなりタチが悪い。
「お願い……返して。それは夫と子どもの分もあって……」
「うるせぇ! これはもう俺たちの物だ!」
「どうしてもっていうなら……そうだな……。それ相応のものを出してもらわなきゃな」
男たちが舌なめずりをしつつ女性に嫌らしい視線を向ける。おそらくそういう事なのだろう。
「嫌ならいいんだぜ? なら家族全員で仲良くあの世に」
「わ……分かりました。私ができる事なら何でもします」
「いいねぇ。それなら早速」
「お前たちいい加減にしないか!」
さすがに見ていられず、俺は男たちに注意の声をかける。
「何だてめぇは?」
「それはこちらのセリフだ。こんな事をして恥ずかしくないのか?」
「うるせぇ。俺たちの邪魔をするんじゃねぇよ!」
男たちはかなり苛立っているようだ。自分もそうだったがウイルスの恐ろしさを知りみな冷静さを失っている。最もこの状況こそ少年が意図して作り出したかったものなのだろう。
「お願い……助け……」
「おっと、静かにしててくれよ。俺の手が滑っちまうかもしれねぇからよ」
男が女性を拘束し、その首にそっとナイフを添える。
(村の住人たちがまるで盗賊や夜盗のように……何と恐ろしい)
裏を返せば盗賊も夜盗も元はただの人間だ。今目の前にいる彼らもまた昨日までは普通の住人だったはずだ。それがウイルスの影響なのか理性が外れ、常識では考えられない行動を取ってしまっている。
(だが命がかかっているとはいえここまで狂暴になるのだろうか?)
「この女の命が惜しかったら武器を下すんだなおっさん」
男が武器を手放すよう命令してくる。数の利は相手にあるのだが、こちらの姿を見て警戒しているようだ。何にせよ追い詰められている状況とはいえ平気で人質を取り、恐喝紛いの事をしている彼らは最早一般人とは言い難い。どうやら覚悟を決める必要があるようだ。
「ほらさっさとしないと」
「ぬぅん!」
相手の言葉が言い終わらないうちに俺は金槌を大きく振るい、男を吹き飛ばす。
「なっ!」
すかさすもう一人の男、人質を取っていた方の男に金槌を振るう。巨体故鈍足と思われるがこれでもBランクの実力を持っている。舐めてもらっては困る。唐突な攻撃に男の手が緩み女性は解放されていた。その一瞬を見逃さず二人組の男を撃破した。
「もう大丈夫だ」
ぽかんとしていた女性がはっとするや否やこちらに向かって感謝の言葉を投げかけてくる。ともあれ解毒剤を狙っているのはあの男たちだけではない。女性にはすぐさま避難するよう指示し、俺は当初の予定通り、他の護衛メンバーを探す事にした。




