ゲーム開始 *とある青年視点
やっと来ました
皆様が期待しているような内容を書けるかはわかりませんが……
お楽しみください
再び俺がスキルを発動した事で住人たちが苦しみの声を上げ始める。だが動けなくなるほどではない。動けない状態まで症状を悪化させてはゲームの意味がないからだ。
「さぁさぁ、バッグを持っている人は早く逃げないと。解毒剤を取られてしまいますよ?」
俺の言葉を聞き、バッグを支給された者たちはすぐさまあちこちに逃げ始めた。倒れこんでいたゴンザレスたちも支給されたバッグから何とか解毒剤を取り出し、それを飲んだ事で動けるくらいには回復していた。彼らもまた、バッグを支給された住人たち同様一目散に駆け出し姿を消す。
「さてと、俺もまだやる事があるし移動するとしますか」
今から三時間後が待ち遠しいが、ゲームをテンポよく進めていくにあたっていくつかの問題もある。俺はそれを対策するための処理を行う事にした。
・とある青年の場合
(どうして……どうしてこんな事に……)
俺は追ってから逃げつつ、何がどうしてこうなったのか頭の中で整理をしていた。村に住み続けて数年。独身の身ではあったが、何気ない日常を過ごしていた。そんな中、俺、いや村にとって大きな転機が訪れようとしていた。村長から急遽めでたい事があったので宴を開催したいとの通達があったのだ。村長が宴を開くのは好きなのは周知の事実であったが、今回はいつも以上に興奮した様子を見せていたので、普段とは違う何かがあったのだろうというのは薄々察する事ができた。ともあれ宴となれば美味い酒や食事を楽しむ事ができる。それを楽しみに昨日はすぐ眠りについた。
そして今日、朝から宴の準備を行い、宴が始まる直前、村長から驚きの一報を聞く事となった。その内容はこの村の茶葉を取り扱いたいという者が現れたというものだった。この村の茶葉は美味い事は知っていたが、まさか商人に取り扱われる事になるとは夢にも思っていなかった。その上とてつもない金額を出してくれるというのだ。村に大きな金額が入り込んでくるという事実に俺は興奮せずにはいられなかった。そうなれば今よりも贅沢な生活ができるようになる。独り身の俺にふさわしい相手を見つける旅に出れるかもしれない。そんな妄想までしてしまった。そして宴では珍しい酒や料理が出され、味も非常に美味であった。本当であれば最高の一日になるはずだった。
「そうさ! 俺がお前らに殺された両親の息子。アル・スペンサーだ!」
この言葉に衝撃を覚えた。茶葉を取り扱いと言ってきたのが少年だった事にも驚いたのだが、まさかその少年があのスペンサー夫妻の息子だとは夢にも思わなかった。何せあの少年はウイルス感染という恐ろしいスキルを授かった事で教会に引きとられ、監視付きの状態で生活しているはずなのだ。
「人の家に石を投げこんだり、魔法を打ち込んだりしたんだってな。お前らの嫌がらせのおかげで母さんは亡くなったって聞いたぜ。本当に……呆れて声もでねぇ」
少年の言う事は事実であった。スペンサー夫妻は凄腕のギルドメンバーで助けられた者も大勢おり、俺もその中の一人で村の近くで魔物に襲われた時に助けてもらったのだ。彼らに感謝する者は村にも大勢おり、中には村の誇りであるという者もいた。しかし彼らの息子がウイルス感染というスキルを授かった事で、彼らを取り巻く環境は大きく変わった。
(あれは俺が悪いんじゃない……。村のみんなも、村長もやってたんだ……俺は悪くねぇ)
あの日以来、自分も含めスペンサー家に対して辛辣に当たる者が大勢現れた。結果スペンサー一家は村からいなくなり、呪いだのなんだの言われた噂は徐々に消え去り、日常の生活が少しずつ戻ってきた。そして今日、人生の大きな転機になるはずだった。
それが今や村全体がゲームの会場となってしまっている。
「いたぞ! バッグ持ちだ」
「奪え! 解毒剤を奪うんだ!」
大人たちが大声を上げ、こちらを指さしてくる。彼らの手には村で使っていたクワやカマが握りしめられていた。おそらく解毒剤を奪う際に、戦いになる事を考慮してなのだろう。俺以外にも解毒剤入りのバッグを貰った者がいたが、その中には村長が雇った腕利きの者たちも含まれている。特に、ゴンザレスという名の大男はBランクの強者で、そんな彼から解毒剤を奪うとなればさすがに丸腰という訳にはいかないのだろう。
「ちっ! 鬱陶しい奴らだぜ」
目が血走っている彼らを見て俺は一目散に逃走を図る。あの様子だと話し合いは通用しないだろう。
「あっ! おいバッグ持ちだ!」
「やったぞ! あれさえ奪えば俺たちも助かる!
逃走した先で別の大人の姿が目に映る。どうやら俺を捕まえるために複数人で動いているようだ。こうなっては囲まれるのも時間の問題だ。俺はすぐさま、包囲網から脱出するために別ルートに向かう。
「へへへ、逃がさねぇぞ!」
別ルートにはナイフを持った別の男が身構えていた。戻ろうと身を翻すが既に俺を追いかけてきていた男たちに追い付かれ、俺は逃げ道を失った。
「もう逃げられないぞ! さあバッグをよこすんだ」
「今すぐ渡せば命だけは助けてやるぞ」
白々しい。ここでバッグを渡したとしても結局ウイルスの効果で死に至る。このゲームが始まる前にあのウイルスの効果は身をもって味わっている。
「それにお前独身だろ? 死んでも悲しんでくれる奴なんて誰もいないじゃないか」
「お前みたいな独り身とは違って、俺には帰りを待ってる妻がいるんだ!」
「そうだ! 俺たちには家族がいるんだ!」
こいつらは何を言っているのだろう? 家族がいるから俺たちは助かるべきで、独り身の俺は生きる価値がないとでも言いたいのだろうか? 人間追い詰められたら本性が現れるというがこれはひどい。同じ村に一緒に住んでいたがここまで性根が腐った奴らだとは思わなかった。
「おい、待て。解毒剤は一人三本ずつのはずだ。お前らの家族の事何か聞いてねぇぞ!」
「何が妻だ! 俺は知ってるぜ。お前のとこの奥さん浮気してるってな!」
「貴様! でたらめを言うんじゃない!」
今度は手を組んでいた者同士で言い争いを始めた。本当に救いようがない。今言い争いをしている者たちとは違い、スペンサー夫妻は自分たちの利益にならなくても村の住人たちを様々な形で助けてくれた。もし万が一彼らが今でも村にいたのなら、こんなことにはならなかったのかもしれない。そしてこの命がけのゲームを開催したのが夫妻の息子であるというのが何とも皮肉が効いている。これはある意味神からの天罰なのかもしれない。
(へへ……)
言い争いをしているとはいえさすがにこの状況から彼らを振り切って逃げる事はできないだろう。というより、彼らを見て見苦しいとさえ思う。自分さえよければそれでいいという彼らの考え方を見ていると吐き気がしてくる。今になって他人の姿を見て自分の愚かさを知ってしまった。ならせめて自分も含め、スペンサー夫妻への贖罪を示そう。そう考え俺は持っていたカバンをひっくり返し、大きく振って中身を地面に落とす。
「な!」
パリンと何かが割れた音が辺り一帯に響き渡り、言い争いをしていた彼らの視線がある一点に集中する。解毒剤が入っていたであろういくつもの瓶が跡形もなく割れてしまっていた。当然、中身は飛び散り、地面と一体化してしまっている。
(もう遅いかもしれませんが……。スペンサーさん、向こうに行ったら改めて謝罪させて下さい)
こうしてとある青年の生涯はここで幕を閉じた。




