7-2
昼になり、社内食堂でご飯を食べ、昼から工場内を見学した。
見学だけでも2時間ほどかかり、工場内の半分ぐらいを見て回ったが、自分の仕事場所までたどり着けるか拓斗は心配していたのだった。
「迷路みたいですよね。僕、方向音痴だから仕事場につける自信がないですよ」
隣で一緒に歩いていた芝浦が、困った顔で声をかけてきた。
「ほんとだよね。俺もきっと迷っちゃうよ」
拓斗も同感だった。
「最初は皆さんそう言いますよ。でもすぐに慣れますから大丈夫ですよ。職場以外の場所は行くことないですからね。職場と、食堂だけ覚えとけば大丈夫です。後でもう1回案内しますね」
派遣の担当者、川口が、二人の会話を聞いていたのか笑いながら説明してくれたのだった。
川口は、28歳で今風の若者といった感じだった。
「じゃー案内はこれくらいですので、研修室へ行きましょうか」
川口は、3人を研修室に案内してくれた。
「研修の前に1つ注意です。研修中は絶対に寝ないで下さい。過去に居眠りしてその場でクビになった人がいますので。そこまで厳しい会社ですので」
「そうなんかー、それはひどいなー。飯食ったあとやからなー。やばいな」
田辺は今一緊張感のない男だ。拓斗と芝浦は真顔で聞いているのに、一人だけ笑っている。
「それじゃー終わったら事務所へ戻ってきてくださいね」
川口は、一礼をしてその場を後にしたのだった。
中に入ると、30人近くの人がすでに座っていた。今日から入った派遣社員なのだろう。
研修が始まり、会社の説明から仕事の内容など、社員らしき年輩の人が説明していた。
派遣社員にとって、どうでもいい詰まらない話である。こんな話を半日も聞かされたんじゃ、誰だって居眠りもしてしまうだろう。
「おい、そこ、喋るんだったら外でしゃべってこい」
後ろの席で、こそこそしゃべっていた2人が注意された。
全員が一気に後ろを振り返り、話をしていた二人は、申し訳なさそうに頭をさげていた。
研修が始まり、2時間が経過した。
何人かがうとうとしては、眠気を必死にこらえている。拓斗もその一人だった。
前で説明していた社員が、急に喋るのをやめ、拓斗のほうへ近づいてきた。
『まさか、俺、寝てたの見られたか?』
拓斗は、社員の目を見ることもできず、ドキドキしながらじっとしていることしかできない。
社員が拓斗の前まできた。
『あれっ?』
社員は、拓斗の前を通り過ぎた。
そして拓斗の2つ隣で座っていた田辺の前で止まったのだった。
田辺は、机の下で携帯を触っていたのだった。
社員が前に立っているのにも気付かない。携帯を見ながら、ニヤニヤ笑っている。
「田辺さん・・・」
隣で座っていた芝浦が、田辺の腕をつついている。
「君、仕事する気あるんか?」
田辺は、真剣な顔で睨んでいる社員にやっと気がついた。
「あっ、すんません」
「すんませんじゃないだろ。君ずっとそうやって携帯さわってたよな。私が見てないとでも思ってたのか?」
「いやっ、ほんとすんません。もうしませんので・・・・」
「君みたいな人間は、三星には必要ない。今すぐ出ていってくれますか?」
「そんないきなり出ていけって言われても・・・」
田辺は、困った顔をしているが、どこかイライラしている。
「研修も仕事ですよ。君は仕事中に携帯さわるんですか?もういい歳でしょ?考えなくても常識ですよね」
「・・・あーー分かりましたよ!!出ていきますよ。こんな会社なんかで働いてやるか!!」
田辺は、逆ギレし、急ぎ足で研修室を出ていったのだった。
「皆さん、あれが悪い例です。あんな人間はうちの三星には必要ありませんので。皆さんもよく考えて仕事してくださいね。気に入らない人は今すぐ出ていってください」
社員は、前へ戻りながら全員を見回している。
「では、続けます」
その後、派遣社員全員に緊張感が走り、皆が社員の話を真剣に聞いていたのだった。
研修は、3時間ほどで終わった。
拓斗と芝浦は、二人で派遣事務所へ戻ったのだった。
「おかえりなさい。聞きましたよ、田辺さんのこと。たまにあーいう変わった人もいるので、あまり気にしないでくださいね」
事務所で待っていた川口が、二人に声をかけてくれたのだった。
「あんな人もいるんですね。謝ったら許してくれるかもしれないのに、逆ギレするなんて思わなかったですよ」
「ほんとですよね。僕もびっくりしましたよ」
拓斗も芝浦も、田辺の思いもよらない行動に驚いたのだった。
その後、川口が二人を家まで送ってくれたのだった。
明日から本格的に仕事が始まる。
いろんな不安もあるが、家族のために頑張ろうと心に誓った拓斗であった。




