6-25
香奈は、仕事が28日から休みに入ったため、実家で泊まっていたのだった。
今日は、母親の初子と宇宙と3人で、夕食の買い物をしていた。
「今日は、大晦日だからオードブルが多いねー」
初子は、どれにしようか悩んでいた。
香奈の実家、大谷家は、ほとんどが惣菜だった。
冬場は、鍋が多く休みの日はお決まりだった。
今日も大晦日だが、メニューは鍋と刺身、そして惣菜が並ぶであろう。
やはり、そんな家庭に子供のときから育っている香奈にとって、それが当たり前なのだろう。
「宇宙、何か食べたいものある?」
初子はカートに座っている宇宙に聞いてあげた。
「おすしたべたいな」
宇宙は、たくさん並んでいる寿司を指差した。
「お寿司ね、・・・はい、これでいい?」
「こっちがいい」
初子が選んだのは、軍艦巻のセットだったが、宇宙は大人が食べそうな、ハマチやサーモン、イクラなどが入ったセット寿司だった。
「こっちのほうがいいの?はいはい」
初子は、宇宙が指差した寿司を手に取りかごに入れたのだった。
初子の隣では、香奈が好き放題自分の食べたいものをかごに入れていた。
唐揚げにサラダなどである。
「こんなものかな」
香奈は、何も考えずに買えることが満足のようであった。
「じゃー行こうか」
3人は、レジを済ませ帰路についたのだった。
午後5時。
家に到着し、さっそく買ってきたものを食卓に並べ、鍋の用意し始めた。
香奈の父、泰彦が料理の匂いにつられ、食卓に現れた。自分で冷蔵庫からビールを出し、さっそく飲んでいる。
日曜日はだいたい泰彦の横に拓斗が座って、ビールの注ぎあいをしていたのだったが、今日はいるはずもなかった。
「ほら、宇宙も座ってじいちゃんと一緒にご飯食べな」
香奈が、一人で遊んでいた宇宙のおもちゃを片付けだしたのだった。
「はーい」
泰彦は、横に座ってきた宇宙にさっそく、刺身を切ってあげ、口に入れてやった。
「わぁーちょっとからいよー」
わさびはとってあげたが、まだ少し残っていたのか、宇宙は顔を歪めていた。
「まだわさび残ってたか?ごめんごめん」
泰彦が笑いながら、宇宙に謝ったのだった。
「宇宙、辛かったら出していいよ。じいちゃんちゃんとわさびとってあげてよ」
香奈が、鍋に入れる野菜を食卓の上に置きながら、二人を見ている。
「はい、はい、お母さん怖いな、宇宙」
「ママはおこったらこわいよー」
「そうか、そうか、まぁー香奈も飲めよ」
泰彦は、コップを香奈に渡し、ビールを注いであげた。
「ところで、拓斗はどうなったんだ?探偵雇ったんだろ?」
「依頼はしたよ。今調べてもらってるけど、年明けからまた本格的に探してくれるみたい」
「そうか、それで見つかったらいいんだけどな。でも探偵って高いんじゃないのか?」
「最初は、簡単な調査をしてくれるんだって。電話の履歴とか、道路の映像とか調べるんだって。それで見つからなかったらまた考えようってことらしいよ。報酬は10万ぐらいって言ってたけどね。まぁー拓斗のお父さんが払うって言ってくれてるから関係ないけどね」
香奈は、探偵を頼んだが、最初からお金を払う気なんてなかったのだ。親に払わせればいい。そう思っていた。案の定、光久に探偵の話をすると、お金は払うと言ってくれたのだった。
「やっぱり安くないんだな。プロだったらすぐ見つかるのか」
「さぁーどうかなー。まぁー自分で調べるよりかは、情報得られるんじゃないの」
「まぁーそれはそうだけどね」
「ただいまー」
玄関から元気な声が聞こえてきた。
兄夫婦の子供の瑠奈である。
「るなちゃんおかえりー」
宇宙は、瑠奈の声が聞こえると、玄関のほうへ走っていった。
宇宙は実家に来るたび、瑠奈とよく遊んでいた。
その二人のめんどうを見るのはいつも拓斗であったのだが。
瑠奈は宇宙の手をつなぎ、中に入ってきた。
その後に続き、香奈の兄、勝彦、嫁の咲希が入ってきた。
今日は3人で、買い物に行っていた。
勝彦の嫁、咲希もまた家のことはまったくしないのであった。
仕事は、いつも皆がご飯を食べている時間帯に帰ってくる。残業なのか、ご飯の用意をするのが嫌なのか、それは咲希しかしらない。
休みの日は、必ずといっていいほど、どこかに出掛けている。勝彦は休みの日でも仕事のときが多いため、家族3人ではめったに行動していない。だいたいは、一人で出ていくときが多いのである。その時は、初子が瑠奈のめんどうを見ていたのである。
拓斗は、咲希の秘密を知っていた。
咲希の会社は、拓斗の会社と同じ町にある。
そして、拓斗が帰るときにいつも通るスーパーの駐車場に、咲希の車が停まっている。そして、その隣に、いつも同じ車が停まっているのである。それが誰なのかはわからないが、女友達であればそんなところでこそこそ会わなくてもいいはずである。
もちろん、誰にも言えるはずもなく、自分の心の中に閉まっていたのであった。
「早くお前たちも座れ」
早く鍋が食べたい泰彦が、3人に声をかけた。
「あぁー」
勝彦は、ビールがないことに気がつき、冷蔵庫から新しい瓶を2本出した。
この親子は、ほんとに毎日よく飲むのである。
拓斗は、それほど酒は強くなかったので、この時間が苦痛だった。ビールから始まり、焼酎と
続く。珍しい日本酒やワインなんかもよくでてきたのだった。
今日は大晦日、夜遅くまで飲み明かすのであろう。
香奈は複雑な気持ちでその場にいた。
今はとにかく、探偵の調査結果を待つことしかできなかった。
こうして、皆がそれぞれいろんな思いを胸に年が明けようとしていたのだった。




