6-23
次の日。
もう1つの問題。桜と向日葵の学校のことである。
朝から早速、市役所の教育委員会に来ていた。
桜と向日葵は車の中で待っている。
拓斗と愛は、窓口の女性に事情を説明していた。
まだ20代前半だろう。
「事情はわかりました。住民票はまだ地元のほうにあるんですよね?」
その女性は、やはり二人の話を聞き、困った顔をしていた。
「やっぱりだめなんでしょうかー・・・」
「そうですねー・・・このようなケースは初めてですので・・・・・・ちょっと待ってくださいね」
女性は、自分ではどうしようもできないと思ったのであろう、少し後ろに座っていた40歳ぐらいの女性に、事情を説明していた。
しばらくして、その女性が席を立ち、二人の元へ来たのだった。
「こんにちは、山上と申します。ちょっと話がややこしそうなので、私が話を聞きますね」
「はい、ありがとうございます」
「さっきまでの話をまとめると、西岡さんは子供を連れて駆け落ちしてこちらへ来たんですよね。それで、住むところと仕事は見つかったと。そういうことですよね?」
拓斗と愛は、山上の話を聞きながら、うなずいていた。
「はい、そうです」
「結論から言いますが、今の日本では中学校までは義務教育なのはご存知ですよね。それを踏まえると、お子さん達には学校に行く義務があります。本来ならば、住民票の区域内の学校に行ってもらうのが決まりですが、それは無理なんですよね?」
「はい・・・」
「ですよね。今の住んでいるアパートの住所は分かりますか?」
「はい、ここです」
拓斗は、浜田からもらったアパートの住所を書いたメモ用紙を、ポケットから出した。
「この住所だと錦第2小ですね。お二人の事情を学校に話しますがよろしいですか?」
「それで小学校には行けるんでしょうか?」
「はい大丈夫ですよ。先程も言いましたが、小学校は義務教育ですので、よっぽどのことがない限りは大丈夫です」
「本当ですかー!!ありがとうございます」
愛は、正直もうだめかと思っていた。
「よかったー」
拓斗も愛の顔を見て喜んでいた。
「少し話が固くなっちゃいましたが、私がこの教育委員会で勤務して10年近くなりますが、西岡さんみたいな方は、過去に何人かおられました」
「えぇーいるんですか?そんな人?」
「はい、いましたよ。全く同じ事情の方がね。とにかくこのご時世、離婚がブームのようになってきてますからね。旦那が嫌で逃げてきた親子も結構いますよ」
「そうなんですかー。それは驚きです」
「それでは学校の説明をしますね」
山上は、書類を何枚も机の上に並べ、一つ一つ説明してくれたのだった。
小学校は、錦第2小学校。
アパートから歩いて10分ほどのところにあった。
学校は、制服が義務付けられていたが、最初は私服でもいいとのことだった。
他にも、学校で必要なものはあるが、ある程度はランドセルに詰め込んできたので大丈夫だ。どうしても必要なものだけ買わないといけないが。
「こんなところでしょうか。後は、学校の先生に聞いてください。事情はきっちり伝えておきますので。あっ、それと給食費なんですが、今、全国的に払わない親が増えてきているのが問題になっています。私達の市では、今のところ給食費の滞納は0です。ですので滞納だけはしないでくださいね」
「えっ、そんなの払うの当たり前のことじゃないんですか?」
愛が不思議そうな顔で聞いた。
「それが結構多いらしいんですよ」
「そうなんですか?払わなければならないものはちゃんと払いますので、大丈夫ですよ」
「それならいいですけどね。では、1月6日にお子さんと一緒に学校に行っていただきますか?」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
「あっ、それと、これは重要なことですけど、後始末だけはきっちりしてくださいね。いつまでもこのままというのはいけませんよ。お子さんには何の責任もないです。少し落ち着いてからでもいいので、一度地元に戻って話し合いをしてくださいね。日数が経つごとに帰りにくくなりますよ。きつい言い方かもしれませんが、自然に解決できる問題ではないですよ」
二人は、山上に頭を下げ、市役所を後にしたのだった。
山上が言っていたこと、それは二人ともよく分かっていた。このまま放っておいても仕方のない問題である。きっちりとした話し合いをしなければならない。二人とも思うことは同じではあったが、どちらもそのことについて、何もふれなかったのであった。
来年からの新生活の用意は、何とか整った。
年末までの数日間、拓斗、愛、桜、向日葵はそれぞれの思いをを胸に、家族四人で過ごしたのだった。




