6-21
「もしもし、茜さん?」
拓斗が会社に電話すると、出たのは茜だった。
「あれっ、・・・もしかして西岡君なの?」
茜は、昼休憩が終わり、眠気まなこで仕事をしていたので、まさかの拓斗からの電話にびっくりしたのだった。
「ご無沙汰してます茜さん。ほんとにこんなことになってしまってすいませんでした。そっちは大変なことになってますよね・・・?」
「西岡君、元気にしてるの?愛は?近くにいるの?」
「はい、こっちは四人とも元気に旅してますよ。愛も横にいますよ」
「元気なんだ、よかった。こっちのことは気にしないでね。何とかしてるから」
「ほんとにすいません。今日は坂上さんいますか?」
「いるよ。相変わらず坂上さんと私だけだよ、この時間は」
茜は、坂上の方をチラチラ見ながら笑っている。
坂上は、そんな茜のことはまったく気づいていないが。
「何か急用そうだね。ちょっと待ってね」
茜は、電話を一度保留にし、坂上に叫んだ。
「坂上さーん!!西岡君から電話ですよー」
茜は、何故か声が大きくなっていた。自分でも分からないが、テンションか上がっていたのだった。
「なにー、西岡から?どうしたんだ?」
「何か急ぎの用事みたいですけど」
「そうかっ」
坂上は、すぐに電話を取った。
「もしもし、西岡かっ?」
「あっ、坂上さん、ご無沙汰です。ほんとすいませんでした、こんなことになってしまって。そっちは大変なことになってますよね・・・」
「西岡はどうしてるんだ。元気にしてるのか?」
坂上は、とりあえず西岡の声を聞いたことで、ホッとしたのだった。
「はい、こっちはみんな元気にしてますよ」
「そうかっ、それならよかった。心配してたんだからな」
「ほんとすいません。坂上さんのほうはどうですか?やっぱりうちの嫁とか来たんですよね?」
「あー、来たよ。愛ちゃんの旦那も来たぞ。まぁーその辺たりは適当にごまかしておいたから大丈夫だよ。心配するな、西岡は自分達のことだけ考えてたらいいからな。ところでどうしたんだ?」
「あのですね・・・」
拓斗は、免許証を無くしたこと。今、派遣会社で免許証のコピーが必要なことを説明した。
「そうなのかー。コピーは保管してあるからすぐに送ってあげるよ。それより免許証無くしたのは痛いよなー。車乗るの気を付けろよ。警察に捕まったら大変なことになるぞ」
「はい、それはよく分かってます」
「わかってるんならいいんだがな。仕事見つかってよかったな。これで生活は何とかできそうだな」
「そうですね、まだまだ不安はいっぱいあるんですけどね」
「まぁー自分の選んだ道だからな。頑張れよ。応援してるからな。何かあったらいつでも電話してこいよ」
「はい、ありがとうございます。ほんと助かりますよ」
「おぅ、任せとけ!!じゃーFAX 送るから番号教えてくれよ。あっ、山本に代わらなくていいか?」
「あっ、代わってもらってもいいですか?」
拓斗は、坂上にFAXの番号を教え、愛に電話を代わってあげたのだった。
「もしもし、西岡君?」
「もしもし?」
「あれっ、愛?」
愛は、電話の相手が坂上だと思っていた。
「茜?」
「なんだー、坂上さん何も言ってくれなかったから」
茜も、電話の相手が拓斗だと思っていた。
「茜、ほんとごめんね。こんなことになっちゃって・・・迷惑かけっぱなしだね・・・」
「いいよ、いいよ、愛がそれで幸せなら私は応援するよ」
「うん、ありがと。でも、うちの旦那怒鳴りこんできたんじゃない?」
「うん、きたよ。でも坂上さんが適当にごまかしてくれたからね。こっちのことは気にしないでね。適当にやってるから」
「ほんとごめんね・・・」
愛と茜ほ、しばらく話し込んでいた。
二人はよき親友であり、よき相談相手だった。
愛も今まで拓斗に言えなかったこともあったのだろう。
二人とも涙を流しながら話に夢中になっていたのだった。
「西岡さん、FAX 届きましたよ」
浜田が、拓斗の免許証のコピーを持って再び現れた。
「じゃーね、茜。また落ち着いて電話できるようになったら電話するね」
「うん、わかった。元気でね。頑張りなよ」
「もう、電話よかったんですか?ゆっくり電話してくれればよかったのに」
浜田は、慌てて電話を切った愛を見ていた。
「はい、ありがとうございます。もう大丈夫ですので」
愛は、涙を拭いながら笑顔を見せたのだった。
「それでは、免許証のコピーも無事用意できたので、後は書類書いてもらうだけですよ」
「ほんとよかったです」
拓斗はホッとし、浜田が出してくれた書類に目を通し始めたのだった。
「書類書きながらでいいので聞いてください。まず、行ってもらう仕事ですが」
浜田は、仕事内容を説明し始めた。
拓斗が行く仕事は、自動車の製造工場だった。
誰でも知っている自動車メーカーで、派遣社員だけでも、100人以上いる工場らしい。
仕事内容は、流れ作業で、2交代制の仕事だった。
「それから、住むところですが、うちが用意するアパートを使ってください。ただ、今ワンルームしか空いてないんですが、よろしいですか?」
「アパートまで用意してくれるんですか?ありがとうございます。全然ワンルームでもいいよな?」
拓斗と愛は、顔を見合わせ笑顔が溢れた。
「2DKの部屋空いたら移ってもらいますので、それまで我慢してくださいね」
「いえいえ、ほんと感謝感激ですよ、浜田さん」
「こちらも仕事してもらいますので、そんなに喜んでもらえると嬉しい限りですよ。それではこれで終わりです。明日もう一度きてくれますか?アパートに案内しますので」
「はい、わかりました。ところで、仕事はいつからできるんですか?できれば早いほうがいいんですが」
拓斗は、新しい家族のためにすぐにでも仕事がしたかったのだ。
「いつからか言ってなかったですね、ごめんなさい。仕事は来年の6日からなんですよ。今年はもう終わりですからね」
「そうですよね、仕方ないですね」
「もし、お金入り用なら先払いしますから言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。じゃー明日また来ますのでよろしくお願いします」
「はい、待っておりますので」
拓斗と愛は、事務所を出るまで、何回も何回も頭を下げたのだった。
車に戻ると、桜も向日葵もぐっすり寝ていた。
拓斗は、二人を起こさないように車を走らせたのだった。
その日の夜。
仕事と住むところも決まり、そしてクリスマス。スーパーで小さなケーキを買い、車の中でパーティーをひらいたのであった。




