6-19
昼から拓斗と愛は、おっちゃんの息子に電話をして派遣会社の事務所に来ていた。
桜と向日葵は、車で待っている。
事務所自体はそれほど大きくはない。入り口の上には、『ハマテクノ』と書いてあった。
事務所の中は、縦長で、窓口の女性が二人座っていた。奥には机がいくつかあり、営業マンらしき男が一人座っていた。他の営業マンはでかけているのだろう。
「いらっしゃいませ」
窓口の女性の一人と目があった拓斗は、軽く会釈した。
「あっ、すいません、西岡と申しますが、浜田さんいらっしゃいますか?」
「社長ですか?」
「えっ、浜田さんって社長なんですか?」
拓斗は、まさかあの面白いおっちゃんの子供が、会社の社長だなんて思ってもみなかった。
おっちゃんも社長ではあったが、こっちはれっきとした社長である。
「浜田という名前は社長だけですので」
「あー、そうなんですかー」
「お掛けになってお待ち下さい」
窓口の女性は、内線で社長を呼んでくれている。
しばらくして、社長らしき男が、奥のドアから歩いてきた。
「すいません、待ってもらいまして。社長の浜田と申します」
浜田は、あのおっちゃんに負けないぐらいの笑顔で名刺を差し出してくれた。
「はじめまして、西岡と申します」
「そんな固くならずに、どうぞ座って下さい」
「あっ、はい、失礼します」
拓斗と愛が、椅子に座るのと同時に、浜田も席についた。
「浜田さんって社長さんなんですか?」
「そうですよ。ちっさい会社ですけどね」
「すごいですよね。まだ若いのに」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「今日は忙しいのに、時間作って頂いてありがとうございます」
「大丈夫ですよ。話は父から聞いています。仕事と家を探してるんですよね」
「はい、そうなんです。今、仕事ってあるんですか?」
「仕事はいろいろありますよ」
「そうですか。ただですね・・・いろいろと面倒な事情がありまして」
拓斗は、申し訳なさそうに浜田の顔を見た。
「ほぅー、面倒なことですか?どういったことですか?」
「実はですねー・・・」
ここまでの経緯を、浜田に全て打ち明けた拓斗と愛であった。
不倫をしていたこと。
子供を連れて駆け落ちしてきたこと。
洗いざらい隠さずに話をした。
「なるほどねー。波乱万丈な人生ですね。なかなか駆け落ちなんて簡単にできるものじゃないですよね。ドラマを見ているようですよ」
「こんな俺でも仕事できますか?」
拓斗と愛は、不安そうな顔で浜田を見ていた。
「全然大丈夫ですよ。うちは派遣会社ですからね。訳ありの人はたくさんいますからね」
「そうなんですか?自分達みたいな人もいるんですか?」
「そうですねー、恋人どおしで駆け落ちしてくる人はいますけどね。子供と一緒っていうのは初めてですね」
「やっぱりいないですよね」
「まぁーそんな人生もいいじゃないですか。西岡さん達が幸せならそれでいいと思いますよ」
「そう言ってもらえると嬉しいですよ」
「では本題に入りますが、まず必要な書類を記入してもらいます。あと、身分証明のできるもの、免許証か保険証のコピーを頂きます。ここまでは問題ないですか?」
「・・・」
「あれっ、何か問題ありました?」
「あのー、やっぱり身分証明は入りますよね?」
「それは必須ですねー」
「実は・・・」
拓斗は、財布をなくし、免許証を持っていないことを説明した。
「そうだったんですかー。それはえらい災難ですね。・・・しかし、それは困りましたねー」
浜田は、予期せね事態に頭を傾けている。
「無理でしょうか?」
「うーん・・・何かいい方法はないかなー・・・・・・
あっ・・・そうだ、今まで行ってた会社にコピーとか残ってないですか?」
「会社にですか?」
「正社員で行ってたんですよね。たぶん、入社するときに、免許証のコピー渡しませんでしたか?だいたいの会社はするんですけどね」
「あー、そう言えば・・・」
拓斗は、会社に入ったときのことを思い出した。
確かに免許証のコピーを渡している。
「渡してますねー」
「そうでしょ。そこの会社に電話してうちへFAX してもらえますか?」
「それだったら大丈夫です。ただ、携帯が使えないですよ」
「あー、そんなの会社の電話使ってください。全然気にしなくていいですよ」
「ありがとうございます」
「じゃーこの番号にFAX お願いしてもらいますか?その間私は、書類の用意をしてきますので」
浜田は、メモ帳に番号を書き、拓斗に渡してくれた。
「では、お願いしますね。電話はゆっくりでいいですからね。いろいろ話したいこともあるだろうしね」
浜田は席を立ち、奥の方へと入っていったのだった。
拓斗は、会社の番号を記憶していない。
携帯の電源を入れて、電話帳を見ないといけないのだ。
「携帯開けるの恐いなー」
拓斗は、恐る恐る携帯の電源を入れた。
「電話いっぱい鳴ってる?」
横から愛も、拓斗の携帯を覗き込んだ。
「あー、履歴がいっぱいだわ・・・」
着信の履歴は、なん十件とあった。誰からかかってきてるのかなんて履歴を見ればわかるが、恐ろしくて見れなかった。
「やっぱりいっぱいかかってきてるね・・・愛の携帯もいっぱいなんだろうな・・・」
拓斗はすぐに電話帳を開け、会社の番号だけをメモり、すぐに電源を切ったのだった。




