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拓斗は一人、湯船に浸かっていた。
久々のくつろぎに、疲れからか目が自然に閉じていきそうだった。
隣の女風呂からは、向日葵の声だろう、高らかな声が聞こえてくる。
『宇宙は元気にしてるかなー・・・もう会えないんだよな・・・』
どうしても一人になってしまうと、いろんなことが頭をよぎってしまう。
宇宙のこと。
親に何も言わずにでてきたこと。
そして、これからのこと。
不安だけが拓斗を襲ってくる。
『そろそろ住むところと仕事探さないとな・・・』
宛のない旅を続けていても、どうにもならない。
こんな場所まで来たら、さすがに見つからないだろう。
「兄ちゃん、見たことない顔やなー。家の風呂でも壊れたんか?」
50歳ぐらいだろうか。拓斗の隣に入ってきた男が声をかけてきた。
「あっ、まぁーそんなところです・・・」
予期せぬ出来事に驚いた拓斗は、曖昧な返事になってしまった。
「そうなんかー。そりゃ大変やなー。おっちゃんとこは風呂ないねんけどな」
自分のことをおっちゃんと言うその男は、声が銭湯中に響くほど大笑いしている。
「毎日ここへ来てるんですかー?」
「おぅーそうやで、なかなかいい銭湯やろ。おっちゃんお気に入りや!!」
「そうですねー。思ったより綺麗で広いからびっくりしましたよ」
「そうやろ。1年前にアフターしたばっかりや」
『アフター??リフォームじゃないのか?』
拓斗はそう思いながら、男に聞いてみた。
「リフォームじゃないんですか?」
「リフォームってなんや?アフターやろ。ほら、テレビでやってるやんか、ビフーアフターとかいうやつ」
ビフォーアフターのことだろう。拓斗は一人で納得しながら苦笑いを浮かべた。
「そうなんですね。綺麗にしたんですね」
「そうそう、日本語でいうと綺麗にしたってことやな」
おっちゃんは相変わらずテンションが高い。
「あのーお父さんは仕事なにしてるんですかー?」
拓斗は何気に聞いてみた。
「お父さんって、おっちゃんでえぇよ。お父さんなんて柄じゃないよ。おっちゃんは社長やで。どうや、すごいやろ!!」
「へぇー社長さんなんですかー?すごいですね。どんな会社なんですか?」
拓斗は、まさかこの男が社長だなんて思いもしなかった。
「まぁーなんや、左官業やな。従業員はおっちゃんだけなんやけどな」
「・・・左官屋さんですかー」
確かに、社長にはかわりなかった。
「なんや兄ちゃん、仕事でも探してるんか?」
「そうなんですよ。住み込みで働けるところとかってこの辺でありませんか?」
「ほんまかいな。おっちゃん超能力者見たいやな。兄ちゃんのこと当たったがな」
「ほんとですよ。どうしてわかったんですか?」
「そんなんおっちゃんやからな。んで、家も仕事もないんかいな」
おっちゃんの言っていることは、無茶苦茶だった。それでもそんなテンションの高いおっちゃんと話していると楽しい拓斗であった。
「はい・・・実は訳あって、家族4人で家出してきまして・・・」
「あらま、どおりでそこらへん痒くなるしゃべり方やと思ったわ」
「はい・・・・・すいません」
「いやー、謝らんでもいいがな。おっちゃんの仕事手伝ってもらってもいいけど、あんまり仕事ないからなー。給料あらへんで。家もおかあちゃんと二人でいっぱいやしなー・・・あっ、そうや、おっちゃんの子供が派遣とかいうのやってるから聞いたるわ」
「息子さん、派遣の仕事やってるんですか?」
「そうなんやわー、なんか毎日忙しいみたいやぞ。工場とか仕事あるんとちゃうか!!」
「どんな仕事でもいいので、お願いします」
「おっけい、おっけい、後で携帯の番号教えてーな。明日でも電話したるわ」
拓斗は困った。携帯はあるが、電源を入れるわけにはいかない。
拓斗は、携帯を使うことができないことをおっちゃんに話した。
「そうかっ、なんか訳ありなんやな。じゃー息子の会社の番号教えてやるから明日電話したらええわ。今日帰ったら電話しといてやるからな」
「はい、ありがとうございます」
それから拓斗は、おっちゃんといろんな話で、盛り上がったのだった。




