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拓斗の会社に行く途中、愛はあるところに電話していた。
「はい、夜分遅くにほんとすいません。よろしくお願いします」
「どうだった?」
「うん。持ってきてくれるって」
「いい人だね。社長さん」
愛が電話していたのは、今、愛が通っている仕事場の社長だった。
まだ給料日ではなかったが、働いた分だけでも払って貰おうと電話していたのだった。
亀田社長はこころよくOKを出してくれた。それも、近くまで持ってきてくれると言ってくれたのだった。
車は会社の前まできたが、拓斗は目の前に恐ろしいものを見つけてしまった。
それは、香奈の車だった。
「どうしたの?行かないの?」
「嫁の車が会社の前に停まってるんだ」
「えっ、そうなの。どうする?」
「裏に回ろう。裏口まで分からないだろう」
会社には社員しか知らない裏口がある。
遠くから香奈の車を見ると、車の中には香奈の姿があった。
「ここで待っててくれる?すぐに戻ってくるから」
拓斗は一人で、会社の中に入っていった。
電気をつけると、外にいる香奈にばれてしまうため、携帯の電源を入れ、微かな灯りで自分の机の中から通帳と必要そうなものをかき集めた。
「この会社ともさよならかー・・・。坂上さん怒るかなー・・・」
事務所を出た拓斗は、もう必要のない会社の鍵をポストの中に入れたのだった。
「お待たせ!!」
「うん。・・・無事に入れた?」
「あー、大丈夫だったよ。鍵も、もう必要ないから置いてきた」
「じゃー見つからないうちに行こうか」
「そうだな。あっ、電源切っておかないと」
拓斗は思い出したかのように、慌てて携帯の電源をきったのだった。今はかかってきていなかったが、また止まることのない着信が始まるだろう。
「社長さんとはどこで待ち合わせ?」
「もうすぐ行ったところのパチンコ屋さん」
パチンコ屋の駐車場に着くと、亀田社長の車は先に停まっていた。
「ちょっと待っててね桜」
愛は、一人おきている桜に声をかけ、拓斗と一緒に車を降りた。
二人に気付いたのか、助手席から社長の奥さんが降りてきた。二人で来てくれたのだ。
「すいません奥さん、こんな時間に来ていただいて」
愛は深々と頭を下げた。
拓斗も隣りで、同じように頭を下げた。
「二人とも車に乗って」
奥さんは嫌な顔ひとつせずに、後ろのドアを開け、二人を車に乗せてくれたのだった。
運転席には亀田が乗っていた。
「戸川さん、お疲れ様。現金で入れておいたからね」
早速、亀田は給料の入った封筒を渡してくれた。
「ありがとうございます。ほんとに急なことですいませんでした」
「いいんだよ、そんなことは。それより電話で言ってた話は本当なのか?」
「はい、本当です。もう二人で決めたことですから・・・」
「二人で決めたことなら仕方ないけど、ほんとにそれでいいの?」
奥さんが心配そうな顔で聞いてきた。
「このまま生活してたら、もっと大変なことになると思いますので・・・」
「子供も一緒なんでしょ?子供は連れていかないほうがいいんじゃない?」
「そうは思うんですけどね・・・でも子供を放ってはやっぱり行けないんですよ」
「その気持ちは分かるけどね、大変だと思うよ。行き先も決まってないんでしょ?学校のこともあるし、簡単なことじゃないと思うよ」
「やっぱり連れていくのは間違ってるんでしょうか?」
愛は人に流されやすい。自分のしていることが
不安になってきた。
「間違ってるとは思わないけどね。もう決めたんなら私たちはなにも言えないけど・・・とにかく頑張って。もし、困ったことがあったら電話しておいで」
「はい。ありがとうございます。ご心配かけてすいません。では失礼します」
二人は車を降りた。
「大変だけど頑張れよ。男がしっかりしないとだめだぞ」
亀田が拓斗に初めて喋ってきた。
「はい。三人は必ず俺が守りますので。ほんとにわざわざ来ていただきましてありがとうございました」
拓斗は深々と礼をしたのだった。
車に戻った二人が後ろを見ると、桜も気持ち良さそうに、布団を抱きしめながら眠りについていた。
「さぁー行こうか」
拓斗はエンジンをかけ、車を走らせたのだった。




