3-13
突然だった。
リビングの窓を外から誰かが叩いている。
大和は窓に向かい、レースカーテンを開けた。
窓の外にいたのは香奈だった。そして香奈の隣にいたのは宇宙だった。
大和は仕方なく窓を開けた。
「ほらっ、宇宙、パパのところへ行っておいで」
香奈はリビングにいる四人には目もくれず、宇宙をだっこし、リビングの上に乗せた。
「パパおうちにかえろ」
宇宙は拓斗の方へニコニコしながら歩いてきた。
「宇宙…」
拓斗は宇宙の顔を見るなり涙が止まらなかった。
「パパどうしてないてるの?」
宇宙は拓斗の膝の上に乗ってきた。
「なんでもないよ。帰ろうか宇宙」
拓斗は宇宙を捨てようとしていた。愛とは一緒になりたい。でも宇宙を目の前にしてこのまま分かれるなんて考えられなかった。
「ごめん…愛…俺…宇宙と離れるなんてできないよ…」
「いいよ…子供連れて帰ってあげて…」
愛は拓斗と宇宙を目の前にして、''いや''なんて言えなかった。
「愛、これが現実だよ。愛も子供を目の前にしたら同じようにするだろ。もうこの男のことは忘れろ」
義雄は愛の目をしっかり見つめうなずいている。
愛も自分では分かっている。でも拓斗に裏切られたことにはかわりない。必死にこらえていた涙が溢れでてきた。
愛は拓斗のことを見てるのが辛くなり目を反らした。反らした先には宇宙を連れてきた香奈が、愛を睨み、勝ち誇った顔で笑みを浮かべている。
『子供なんて連れてきて!ひきょうなんだよ!そんなことしたら拓斗が子供とるの分かってるじゃん』
愛は香奈にそう叫びたかった。
「おい!いつまでじゃれあってるんだ!!お前は子供をとる、それでいいんだな」
さっきまで静かにしていた大和が口を開いた。
「はい…」
「それじゃーさっきまでの話はお前一人に払ってもらうぞ。いいな」
「…はい。わかりました」
これは愛を裏切った罰だ。拓斗は腹をくくった。
「じゃーきっちり1000万用意してもらうからな」
「…えっ…??」
「えっじゃないよ。さっきの話では二人での話だっただろう。お父さん、文句はないですよね?」
「あー、愛にはもう関係のないことだから勝手にしたらいい」
義雄もうなずいている。
「ちょっと待ってくださいよ。今愛のお父さんが言ってたでしょ。高くても300万だって」
「だからなんだ。これは俺とお前の話だ」
「そんな…」
「ちょっと待って!さっきから聞いてたら何、1000万って。それを払えとか言ってるの?大和君馬鹿じゃないの?そんな金額どっからでてくるのよ!ふざけないでよ!!」
窓の外でいた香奈が割り込んできた。
「お前は口出しするなよ。お前の旦那がやったことなんだぞ!」
「口出しするなって。拓斗が払うということは私にも関係あることでしょ?そんなの無茶苦茶じゃないの!とにかく慰謝料はきっちり払うようにするけど、少し時間をちょうだい!こっちもそれなりの人ときっちり話するから」
「弁護士にでも相談するっていうのか?」
「そうよ。悪い?拓斗!!帰るよ」
香奈は拓斗を睨みつけた。
「でも…」
拓斗は大和の顔をチラチラ見た。帰れるような状況ではない。
拓斗の膝の上では、宇宙が不思議そうに拓斗と香奈を交互に見ている。
「いいよね大和君。これ以上意味のない話をしても意味ないでしょ。こっちからまたちゃんと電話させるから」
「あー、好きにしろ。」
大和は義雄の時と同じように諦めた様子である。やっと自分が言っていることがどれだけ馬鹿げたことなのか分かったのであろうか。
「ではまた連絡させてもらいますので!拓斗行くよ!!宇宙おいで」
「はーい」
一人だけ何も分かっていない宇宙は、無邪気に香奈の方へ走っていった。
「拓斗!早くしろ!!」
その場から動こうとしない拓斗に香奈が怒鳴った。
「し…失礼します」
拓斗はその場から逃げるようにリビングを出ていった。
拓斗は愛の顔を見れなかった。愛の気持ちを自分に置き換えたら、辛いなんてもんじゃないはずだ。
愛は下を向いたままだった。
『こんな別れかたって辛すぎるよ。いつかこうなることはなんとなく分かっていたけど、今までが幸せだった分、実際なってみると辛いなんてものじゃない…もう生きてる意味なんてないじゃん…』
拓斗との幸せだった日々を思い出した。もうこんな幸せな日々は戻ってこない。
思えば思うほど、目が赤くなってきた。
そして大きな涙が…ほっぺたをつたい…
膝の上に一粒…二粒…と降りはじめた…
そして…愛はその場に泣き崩れたのだった。
『拓斗…サヨナラなんてイヤだよー…』




