8-10
場所は変わって香奈の実家。
朝から天気もよく、宇宙と外で遊んでいた。
遊んでいるといっても、宇宙が遊んでいるのは姪の瑠奈である。
香奈は椅子に座って見ているだけだった。
「ママ、キャッチボールしようよ」
宇宙が、車庫からグローブとボールを持ってきた。
「瑠奈ちゃんとしなよ」
面倒くさそうに言葉を返す香奈。
「えー!ルナちゃんしてくれないもーん」
瑠奈は女の子。普通ならキャッチボールなんてしない。
いつも宇宙が誘うのであるが、断られるのである。
「わかったよ」
仕方なく了解した香奈であった。
宇宙はすぐに香奈から少し離れ、ボールを投げる準備をしていた。
「いくよー!ママ!」
大きく振りかぶり、ボールを投げた宇宙であったが、香奈のところまで届かず、地面に落ちて転がった。
「離れすぎだよ宇宙!もっとこっちにおいで」
「はーい」
香奈のところまで届かなかったボールを自ら取りに行き、また離れた宇宙であった。
「もうちょっと前かな」
香奈は、さっきと同じぐらい離れた宇宙を手招きした。
「これぐらい?」
3歩程前へ進んだ宇宙であったが、香奈はまだ手招きしている。
「もっとー!?」
「うん、もっと!」
「えーこれぐらいだよー。パパとしてるときはこんな前じゃなかったよ」
「・・・」
「あっ、ごめん・・・パパはいないんだった」
「もうパパのことは言わない約束でしょ!」
香奈は、拓斗のことはそのまま宇宙に話していた。
女の人と一緒に、自分と宇宙を捨てて出ていったと。
宇宙はどこまで理解しているのかは分からないが。
「じゃーもうちょっと前に行くよ」
宇宙も、拓斗のことを話すと、香奈が嫌な顔をするのを今まで散々見てきたので、それ以上は何も言わなかったのである。
「じゃーいくよー」
さっきと同じように、大きく振りかぶりボールを投げた宇宙だった。
今度は、香奈のところまで届いた。
身体からは少し離れていたが、すんなりキャッチした香奈であった。
「上手になったね宇宙」
「うん、パパといっぱいれんしゅうしたから」
「・・・・・・そっか。これからも一杯練習しようね」
やはり、4歳の子供には拓斗のことを忘れるなんてことは、まだまだ無理なのだろう。
香奈はこれ以上言わないことにしたのだった。
今日は拓斗が来る。
もう引き止めようとも思わない。
馬鹿らしくて怒りも沸いてこないのである。
宇宙にも会わせたくなかったが、父の康彦に最後ぐらい会わせてやれと言われたのだった。
「そらー、お昼ご飯買いに行くけど一緒に行くー!?」
家の中に入っていた瑠奈が、走って出てきた。
「うん!いく、いくー!」
瑠奈が車のほうに向かうと、宇宙も追いかけるように走っていった。
「ママ早くー!」
「はいはい」
しばらくしてから、瑠奈の母親、咲希が出てきた。
咲希は香奈の義姉である。
「じゃー香奈ちゃん行ってくるね」
咲希は瑠奈と宇宙を連れて、買い物に出掛けたのだった。
1人残った香奈は、遠くの山を見ながらこれからのことを考えていた。
「これからどうなるんだろ・・・宇宙と2人でやっていけるんだろうか・・・」
この先には不安しかない香奈であった。




