7-28
桜の教室は3階である。
教室の中に入ると、さすがに小学校最後の授業参観であるため、見に来ている人は多い。
後ろだけでは入りきらないため、横のほうまで並んでいる。
愛は、静かに扉を閉め、空いている場所へ移動したのだった。
今日の授業参観は、親への作文発表だった。
何人かの母親はハンカチを目に当てている。
桜の発表は最後のほうだと言っていた。
子供達を眺めていると、桜と目かあった。桜は一番後ろの隅の席だった。
桜は笑みを浮かべると、恥ずかしいのだろうすぐに前を向いてしまったのだった。
「はい、なかなか面白い作文でした」
教室は笑いに包まれた。
作文を読んでいた男の子の作文が、両親のことを面白可笑しく書いていたのだった。
その男の子も、作文を読み終えると母親に向かって舌を出していた。
母親ははずかしかったのだろう、顔を真っ赤にして下を向いていたのだった。
「はい、じゃー次は戸川さんね」
先生は、愛を見て軽く会釈をした。
桜ははずかしそうに、もぞもぞしながら静かにその場に立ち上がり、作文を読みはじめたのだった。
お母さんへ。
いつも迷惑ばかりかけてごめんね。桜は、小さいときからわがままばかり言ってお母さんをこまらせています。
あんまり思ったことを口に出して言わないから、お母さんは大変だと思います。いつもお母さんが家のこと一人で大変そうにしてるの見てたら言わないほうがいいとおもうんだけど、急にわけわかんないようになって、爆発しちゃうときもあります。
そんな桜のことを、嫌な顔もしないでいつも優しくしてくれてありがとう。
生まれてから12年間、そんな桜のこと育ててくれてありがとう。
毎日家族のために頑張ってくれてありがとう。
なかなか口に出して言えないけど、いつも感謝してるよ。
お母さんのこといつも嫌い嫌いって言ってるけど、ほんとうは大好きです。
これからもこんな桜だけど、一緒にいてね。
お母さんの子供に生まれてきてほんとうによかったです。桜のこと生んでくれてありがとう。
戸川桜。
桜は作文を読み終えると、恥ずかしそうに下を向いたまま椅子に座ったのだった。
教室中に拍手が巻き起こっていた。
「はい、戸川さんはお母さんのこと大好きなんですね」
先生も笑顔で拍手していた。
愛はというと、思いもよらない作文に涙していたのだった。
昔から、桜は文章を書くことが苦手なほうだった。桜が不器用な子だということは愛も分かっている。そんな桜がこんな作文を書いてくれたなんて考えてもみなかったのだった。
『ありがとう桜・・・』
愛は、心の中で何度も何度も桜の気持ちにこたえていたのだった。
その日、学校から帰ってきた桜を、嫌というほど抱きしめた愛であった。




