7-23
愛と桜がアパートに戻ると、拓斗も向日葵も黙ったまま下を向いたままだった。
愛が桜を追いかけた後、拓斗は向日葵に何度か声をかけたが、向日葵はうなずくだけで下を向いたままだった。
拓斗はこういうときどうしてあげたらいいのかわからない。
抱きしめてあげればいいのか、でも嫌がらないか、なぐさめる言葉も思いつかず。
「大丈夫?」「ごめんね」
の繰り返しだった。
そしてしばらくして愛と桜が帰ってきたのだった。
「さぁーご飯にしよっ」
愛はこれ以上子供達に嫌なおもいをさせなくない一心で、明るく装ったのだった。
「向日葵、もう大丈夫だからね、ごめんね喧嘩なんかしちゃって」
愛は下を向いている向日葵を抱きしめてあげ、だっこをしてあげた。
「向日葵は大丈夫だよ」
そのおかげで向日葵もやっと笑顔を見せたのだった。
さすがは母親。今の拓斗には、到底できないことであった。
その日の夜。
桜と向日葵が寝静まったころ、愛は拓斗に話があると外に誘った。
さすがに外は寒く、二人とも凍えそうである。
「拓斗今日はごめんね・・・拓斗のこと信じてないわけじゃないけど、不安なんだ・・・」
「いや、黙っていた俺が悪いんだ。もう佐伯さんと一緒に帰るようになってから2週間になるんだ。こうなるまえに言っておけばよかったな」
「たぶん・・・拓斗が先に言ってくれてても一緒かな・・・女のひとと二人でいるのにはかわりないんだから・・・嫉妬してると思うし、今も正直、完全に信じたわけじゃないしね」
「そっか、信じてはもらえないんだね・・・」
「拓斗には一回裏切られてるから・・・あの時は信じてたのに裏切られたからね・・・かなり辛かった・・・だからまた裏切られたらって思うとね辛いの・・」
「ほんとごめん・・・あのとき家族をとったことは本当に悪いと思ってる。そのことがあるからこれからは絶対に裏切らないって決めてるから。これからは一生かけて三人を守っていくって決めてるから」
「うん・・・もう裏切らないでね・・・」
愛は、心の中では不安でいっぱいだった。
拓斗は佐伯との関係を愛に説明したのだった。
いちようは納得した愛ではあったが、相手は自分よりも若い女の子。何があるかわからないし、相手の女の子も拓斗のことをどう思っているのかわからない。不安はつのるだけであったが、これ以上は拓斗に何も言わないでいたのだった。
「拓斗、桜のことなんだけどね。桜は卒業式を前の学校でしたいみたいなんだ。そのことで一人で悩んでたみたい」
愛は、家族のことでいっぱいなこともあり、話を桜のことに切り替えた。
「そうだったのか。やっぱりそう思うよな。俺でも知らない土地で馴れないのに、桜と向日葵は当然そう思うよな」
「やっぱり愛たちの勝手で二人を連れてきちゃたわけだしね」
「そうだよな。いつまでもこっちで生活していても、結局は逃げてるだけだもんな。いつかは帰って決着つけないといけないしな・・・」
「そうでしょ。子供たちはそっちのほうが喜ぶよ。愛としてはあんまり帰りたくないんだけどね・・・」
子供のことを考えると、帰ってあげるのが一番いいことなのだが、帰るということは大和と会わなければならないということである。
そしてもう1つ、拓斗が香奈と宇宙に会うということだった。
もしかして、また裏切られるんじゃないか・・・
拓斗が家族の元へ帰ってしまうんじゃないか・・・
どうしても頭の中は悪いほうに考えてしまうのである。
「愛はそれでいいのか?・・・俺はもう覚悟はできてるから」
「愛はちょっと複雑かな・・・子供のことを考えると帰らなきゃって思うけど、やっぱり自分のこと考えると帰りたくないって思っちゃう・・・」
「嫌で出てきたんだもんな。なかなか難しい問題だよな・・・」
「拓斗は帰ったらどうするの?」
「どうするのって、そりゃまず離婚話だろっ」
拓斗は、愛の質問に迷うことなく答えたのだった。
「離婚できるの?」
「してみせるさ。あいつも、旦那に駆け落ちまでされて黙っちゃいないだろっ」
「それならいいんだけどね・・・」
「どうした?不安になってきたのか?」
「・・・」
自分の頼りなさが、愛を不安にしていることは拓斗もよく分かっていた。
地元に帰ると、香奈、そして大和が待ち構えている。修羅場がやってくるのである。
「とにかく帰るんなら早いほうがいいな。卒業式までそんなに日はないだろ」
「そうだね、今月の18日だったかな」
拓斗も愛も帰る決心を決め、準備にとりかかったのだった。




