7-14
今日も仕事が終わり、拓斗は芝浦と一緒に自転車置き場まで歩いていた。
「あのー・・・」
後ろから女性の声が聞こえてきた。
二人とも関係ないと思い、無視していたが。
「あのー、すいません」
今度は、拓斗のすぐ後ろで声がした。
拓斗が後ろを振り返ると、佐伯瀬名が立っていたのだった。
やっと気づいてくれたことで、佐伯は何度も頭を下げている。
「今日はほんとに邪魔ばっかりしてすいませんでした」
「いやいや、全然大丈夫だよ。そんなのきにしなくていいからね」
佐伯は、今日の仕事で拓斗の邪魔をしていたことを気にしていたのだろう。
「こんなに大変だとは思ってませんでしたよ。あっ、私、佐伯瀬名って言います」
「あー、今日入った子だったねー」
最初は誰かわからなかった芝浦も、今日の朝礼で挨拶をしていたのを思い出した。
「そうです。よろしくお願いします」
佐伯は二人に対し、交互に頭を下げている。
なかなか礼儀のいい子だ。
「まだ俺たちも入って2週間だからね。一緒に頑張ろうよ」
「そうなんですか、ありがとうございます。喋る人もいないし、これからもいろいろ教えてくださいね」
3人は自転車に乗り、走り出した。
「じゃー僕こっちなんで。お疲れ様です」
芝浦は二人に手を振り、軽やかに走り去っていったのだった。
「佐伯さん、家どこなの?」
「もう少し先のアパートです。派遣さんで借りてるんですよ」
「そうなんだ。俺も派遣の寮だよ。一人で住んでるの??」
「子供と一緒ですよ。保育園行ってます」
「そうなんだ。そりゃー大変だね」
「そうなんですよ・・・」
佐伯は、言葉に詰まったが、それ以上は何も言わなかった。
拓斗も、あまり私情をはさみたくなかったので、それ以上は何も聞かなかったが。
「西岡さんは家族いるんですかー?」
「あー、嫁と子供が二人いるよ」
「そうなんですかー。西岡さんは家族でいるの幸せですか?」
「あー、すごく幸せだよ」
拓斗は、佐伯の驚くような質問にびっくりしたが、なんの迷いもなく「幸せ」だと言えた自分が嬉しかった。
今までの生活では考えられないことだった。今までは、嘘でも幸せなんて言葉は言えなかった。
「幸せなんですね。幸せって言えることっていいですね・・・」
佐伯は、過去に何かあったのだろう。現に子供と二人だということは、旦那と別れたということだ。
「・・・」
拓斗は、何も言わなかった。
「ごめんなさい・・・なんか暗くなっちゃいましたね。あっ、私こっちなんで、お疲れ様です」
佐伯は軽く会釈し、拓斗から離れていったのだった。
佐伯にも、辛い過去があったのだろう。
拓斗は、忘れもしない過去を思い返し、身震いしたのだった。




