7-13
拓斗が仕事を始めて2週間が経った。
持ち場の作業も、1週間程度でスムーズにできるようになり、今は誰の助けもいらないようになったのである。
「皆さんおはようさん。今日から二人、派遣さんが入るので頼むわな」
班長の谷奥の隣に二人立っている。
聞く話によると、派遣社員は辞める人が多く、入れ替わりが激しいらしい。
3日前に二人が辞めたので、その代わりがはいってきたのだろう。
一人は40代だろう男性。もう一人は20代前半だろう女の子であった。
他の班には女性も多いが、うちの班は初めてだった。過去には何人か女性もいたらしいが、続かないらしい。
朝礼も終わり、それぞれがいつものように、散らばっていった。
拓斗も、自分の持ち場に向かい、作業の用意を始めたのだった。
「だいぶ慣れましたねー」
拓斗の次の行程で作業をしているのは、拓斗の最初の先生だった東だった。
「東さんのお陰ですよ。ほんとありがとうございます」
最初の1週間は、東と藤堂の二人が交互に先生をしてくれたのだった。
藤堂は相変わらず腹の立つ言い方しかしなかったが、東は1つ1つ丁寧に教えてくれた。
「もう余裕ですよね。後1週間もしたら、違う行程も覚えないといけなくなりますよ」
「そうなんですか?まだ覚えたばかりなのに、もう違う作業ですか?」
「そうだよ。人にもよるけど、だいたい3週間ぐらいで次の行程ですよ。そうやっていろんな作業を覚えていくんですよ」
「そうなんですか。なんかまた不安になってきましたよ」
ジリジリ・・・・
作業開始のベルが鳴り、ラインが動き出した。
「さぁーやりますか」
「はい、頑張りましょう」
二人は、それぞれに作業を始めたのだった。
拓斗が仕事をしていると、拓斗の前の行程のところで、朝礼で挨拶していた女性、佐伯瀬名が谷奥と一緒に立っていた。
拓斗の班は、1から15行程ある。拓斗がいるのは5番目である。
佐伯は、4番目の行程に入るのであろう。
拓斗は特に気にすることなく、自分の仕事に専念していた。
佐伯の行程は、軽作業であるため女性向きなのであろう。
佐伯の先生は、佐伯とよく似た年齢だろう向山という男だった。
拓斗は喋ったことはないので、どんな人なのかも知らないが。
向山は、最初に少し喋ったかと思えば、いきなり佐伯に作業をさせていた。
教え方は特に決まっていないため、人によって違うらしい。
「はい、わかりました」
「違う、違う、こうするんだよ」
「あっ、すいません」
「ボルトは落としたらあかんからな」
「はい」
向山は、どちらかと言えば藤堂とよく似た感じだった。教え方は雑である。
当然だが、最初からそんなに上手くはいかない。
それは、拓斗もそうだが、全員が分かっているはずである。
佐伯が骨組みだけの車内に入り、作業をしているが、気づかないうちに拓斗の前まで来ている。中に入って作業をしたい拓斗だったが、どうしていいものか。
「あっ、もうこんなところまで・・・ごめんなさい・・・邪魔しちゃって」
佐伯は車内からでて初めて、自分の場所から大幅に越えてしまっていることに気が付いている。
作業に一生懸命になっていると、回りが見えないためそうなってしまう。それは、拓斗も経験済みだった。
「気にしなくていいですよ。ゆっくり覚えて下さいね」
拓斗は、必死に頑張っている佐伯に、優しく笑顔で答えてあげたのだった。
「すいません」
佐伯は、慌てて元の位置に戻り、向山に睨まれながら頑張っている。
この日は、1日中不幸にも、向山が佐伯の先生だった。




